第42話:秋の甘やかし
さて、突然だがうちの家族はみんなモテる
秋姉は当然として、顔だけは美人の夏紀姉ちゃんに可愛い雪葉、町内で人気者の母ちゃん。そして春菜
そう春菜。奴は男女関係なく異様にモテる。
昨日もラブレターを貰ってきやがったが、読みもしない
そんなモテモテ家族の華麗なる長男、俺
当然俺も…………何で俺はモテないんだ! 俺は醜いアヒルの子だとでも言うのか!?
コンコン
一人で苦悩していると、ドアがノックされた
「はいよ、今出るよ」
低いテンションでドアを開け……
「…………おはよう」
「おはよう、秋姉!!」
テンションMAX!
「……ん」
秋姉は軽く微笑み、制服のポケットから自分の櫛を取り出して、俺の寝癖を撫でてくれた
「ど、どうしたの? こんなに早く」
むず痒い様な照れ臭さをごまかす為に尋ねると、秋姉は僅かに顔を暗くした
「あ、秋姉?」
「…………母さん、風邪で寝込んでる」
「え? 風邪? 大丈夫かな……」
「…………よく休めは大丈夫。心配しないで」
優しく微笑む秋姉。この微笑みだけで俺は三杯ご飯が食える
「そっか。秋姉がそう言うんなら大丈夫だね」
「……ん。だから今日のお昼」
ま、まさか!?
「……学食で良い?」
「勿論!!」
ありがとう神様!
「…………ごめんね。材料無くてお弁当作れなかった」
しょんぼりとする秋姉。こんな顔は見たく無いけど……
「気にしないで、秋姉。秋姉の気持ちだけで十分さ!」
「…………優しいね。はい」
秋姉は財布を取り出し、俺に千円札を渡す
「え? い、いいよ、自分で出すよ」
「……遠慮したら駄目だよ? 足りなかったら言って」
秋姉はそう言って、そっと俺の手に千円を握らせる。
……三時間は洗わない様にしよう
「ありがとう秋姉」
「…………うん」
再び微笑む秋……いやむしろ女神
「…………朝ご飯は」
「お、俺、コンフレーク食べたいなぁ!!」
「…………そう」
ごめんよ秋姉。でも朝から秋姉のご飯は命に関わって……
「……準備するね」
「え!? ……う、うん」
流石にコンフレークは失敗しない……よね?
「い、行ってきます……うぇっぷ」
コーンフレークへ牛乳の代わりに青汁を注ぐと言う、画期的かつ大胆な健康料理を作ってくれた秋姉。
俺の胃が悲鳴を上げているが、それはきっと太陽が黄色いせいだ
「……行ってきます」
俺に続いて秋姉が家を出る
「それじゃ行こうか、秋姉」
「……うん」
俺達は学校へ向かって歩き出す。
夏近し、蝉の鳴き声、耳響く。なんて適当な俳句を捻ってしまうぐらい蝉は煩いが、空は快晴で風も心地良い
「いい天気だね、秋姉」
「…………うん」
秋姉の髪が風に揺れ、サラサラとなびく
もし秋姉の出ているシャンプーのコマーシャルがあったら、俺は店のシャンプーを買い占めるね
「……危ないよ」
ぼーっと秋姉を見ていたら、秋姉は俺の左手を軽く引いた。すると、後ろから車が俺の横を通り過ぎる
危ないって言っても、歩道を歩いている訳だから俺にぶつかる筈が無いと思うんだけど……
「……手、繋いで歩こうか?」
「そうだね! 車、危ないし!!」
危ないさ! 五分に一度ぐらいしか車は通らないこの整備された通学路でも、車は危ないのさ!
自分でそう納得し、秋姉の冷たくて、ちょっと荒れた手を握った
「秋姉は相変わらず手が涼しいね」
「…………うん。竹刀振って皮が厚くなったからかな?」
「でも昔から冷たかったよ。手が冷たい人は心が暖かいんだよね」
「……ありがとう」
秋姉は優しく微笑む。この微笑みだけで俺は三キロ走れる
それからも秋姉と色々な事を話して……
「もう学校か……」
近すぎる! せめて後、5000メートルは必要だ!
「……あっという間だったね。……お昼どうするの?」
妙にあっちこちから感じる視線を無視しつつ、秋姉と校舎に向かって歩く
「今日は学食かな」
久しぶりに山盛りカレーとソバセットが食べたい
「……一緒に」
「一緒に食べる!!」
俺はぶっ壊れた水のみ鳥の様に何度も頷いた