第41話:月の勉強会
ピンポーン
土曜日の昼下がり、家のチャイムが鳴った
鳴ったら基本、俺が出る事にしている
なぜなら母ちゃんは出るのが遅いし、秋姉は余り昼には居ない。雪葉は新聞勧誘や押し売りを断れないし、春菜もまた雪葉とは別の理由で断らない
夏紀姉ちゃん? ありゃ駄目だ。震度五の地震が来た時も寝ていた人に、俺は何の期待もしない
そんなこんなで玄関から一番近い位置に部屋がある、俺が出る事にしているのだ
なので今日も今日とて、俺は玄関に行き、ドアを開けた
「はいよっと……ん? 美月か!」
開けた先には灰色の短パンを履き、飛んでるペンギンの絵がプリントされたTシャツを着ている美月の姿があった
「遊びに来たのか?」
キャプテン翼子、勝負するしか!
「…………ううん」
美月は元気なく首を振る
「そ、そうか? キャプテン翼子5があるんだけど……」
「え!? キャプテン翼子5!! すっげー買ったんだ!」
「あ、ああ! おっもしれ〜ぞ〜。月を利用するシュートがあってな、ネオタイガーアルティメットバッファローキリマンジャロピンクシュートと言うのが……美月?」
始め嬉しそうだった美月の顔が、どんどん暗くなってゆく
「ど、どうした美月? 腹でも痛いのか?」
「…………兄ちゃ〜ん」
慌てて聞くと美月は、くりくりっとした大きな目に涙を一杯ためて
「勉強教えて〜」
と、俺の服の裾を掴みながら言った
「さて、本日は佐藤ゼミナールへようこそおいで下さいました」
「はーい!」
俺の部屋。床に小さいテーブルを出し、そこに持って来た教科書とノートを出した美月
一人しか居ない生徒だがその分しっかり教えられる筈だ。今日、俺は鬼教師となる!
「それで美月は何が分からないんだ?」
算数か? 国語か? 可愛いもんだぜ
「ドイツ語!」
「はぁ〜成る程ねぇ。俺も昔は苦労させられたもんだ。うんうんドイツ、ドイツっと……ドイツ語!?」
「うん! ほら」
そう言って美月は俺に教科書を見せた
……確かにゲルマンだ
「な、何でドイツ語を勉強しているんだ?」
引き攣る顔をごまかし、美月に尋ねる
「世界の子と友達になるためって言ってたよ。ドイツ語やフランス語、英語って三つコースがあったんだけど、わたしサッカードイツ好きだからドイツ語にしたんだ」
「……えっと、進学校でしたっけ?」
「うん?」
美月は首を横に傾げる
「………………な、夏紀姉〜」
俺は部屋を飛び出し、押し入れ……もとい二階で寝ているであろう夏紀姉ちゃんを呼びに行った