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秋の出陣祭 4

一年の中で11月が一番いい


一番寂しくなるから、11月がいい


家や学校、他にもいろんなところ


僕はいつも一人。僕は寂しい子。それをどこか自慢に思っていた


そんな僕だから友達なんていなかったし、学校でも孤立していたかな


あ、別に辛いとか楽しいとかは無かったよ? どうでも良かったんだ本当に


だけど、こんな僕にも楽しみはあって、それは放課後


学校の近くにある川へ行き、ちょっとだけ時間を潰す事。それが楽しかった


穏やかで人も殆ど通らない僕の秘密基地


河川敷には草が隠す錆びれたベンチが一つ、お気に入り


ベンチに座って、僕は目を閉じる


すると辺りは真っ暗になって、僕の世界が出来上がるんだ


川と土と草と生き物の匂い。全てが混ざと、腐った死体の臭い。それだけの暗い世界


「あ、あのさ」


話の途中だが、思わず声を掛けてしまう


「なーに?」


「何か辛いことがあるなら相談してくれてもいいからな?」


闇が深すぎる


「ないよ?」


「そうか……」


心配だ


「続きいい?」


「どうぞ」


聞くのが怖いな


「えっと、ベンチで目を閉じた後だよね」


「ああ」


「えーと」


にゃー、にゃー


僕の世界に、変な音が混ざった


これは……猫? 


光に眩まないよう、ゆっくり目を開けて辺りを見回す。だけど猫の姿はない


気のせいかな? でも気になる。僕はベンチから離れて、もう一度辺りを見回した


『……あ!』


それは川に流れていた


汚れた発泡スチロールの箱。よくおばあちゃんが鮭を送ってきてくれるんだけど、それとおんなじやつ


そんな箱が川の真ん中で不安定に浮かんでた


にゃー


か弱い声が聞こえる。もしかしてあの中に?


……ああ、きっと捨てられちゃったんだ


可哀想。でも僕は助けられないよ


だって、僕は可哀想な子。助けられる側の子なんだ


にゃーにゃー


きっと誰かが助けてくれる。それまで箱も沈まない。だから


にゃー


『……止めてよ』


止めてよ、聞きたくない。耳障りだ


にゃーにゃー


『止めてよ!』


聞きたくない、助けない、何もしたくない! 


それなのに、それなのに僕は川へ入っていたんだ


水は体が痺れるほど冷たくて、直ぐに体の動きが鈍くなる


寒い。けれど流れは緩やかだったし、足もついた


これなら大丈夫、大したことない。入っちゃったし助けてあげるけど、仕方なくだからね


後、何歩ぐらい? 一歩、一歩ゆっくり慎重に。後少し、後少しで手が届――


その時、体が一気に水の中へ沈んだ


な、何が起きたの? 足が、あ、あれ? 地面が無い!?


川の真ん中だけ深くなっていたんだ。僕は必死に手足を動かし、地面がある所を探した


でも見つからなくて、体が重くて、水がどんどん口の中に入ってきて……


怖かった。苦しくて怖かった


水が怖い、苦しいのが怖い、暗いのが怖い、一人が怖い、死ぬのが怖い


た、助けて、誰か助けて!


その時、突然強い力が僕の体を掴んだんだ


力は、混乱して暴れる僕を押さえて、あっという間に川の外へと引っ張りだす


『ごほ、ごほっ! はぁはぁ、ふぅはぁ、ごほごほ』


『……呼吸は大丈夫だね。水もあまり飲んでない……良かった』


『ごほ、ごほ、ふぅふぅ……。あ、あれ?』


目を開けると、そこにはとても綺麗なお姉ちゃんが、怖いぐらい真剣な目で僕を見ていた


『お、お姉ちゃんが助けてくれたの? あ、ありがと』


まだ少し苦しかったけど、見られている事が恥ずかしくて、僕は体を起こし、大丈夫だよって頷いた


そしたらお姉ちゃんは、ちょっとびっくりした後、優しい顔で言ったんだ


『……よく頑張ったね』


そして、震える僕の体を僕より震えた体で抱き締めてくれた


二人ともびしょ濡れで、体なんて冷えきっていたのに、とても暖かかった


だけどその後、すっごい怒られさー! 川に入ったら駄目、大人を呼ばなきゃ駄目だって


そのうち、お巡りさんやお母さんもやって来て、そっちからも怒られちゃってさ


あまりにも怒られ続けるものだから僕もムッとして、お姉ちゃんだって川に入ったよ! って、言ったんだ


すると隣で聞いていた秋お姉ちゃんは、気まずそうな顔で僕達を見比べた後


『……ん、ごめんなさい。一緒に反省、だね』


って、恥ずかしそうに微笑んだんだ。大人なのに、なんだか凄く可愛かったなぁ


その後、僕は念のために病院へ行く事になるんだけど、お姉ちゃんは猫と一緒に交番へ行ったみたい


猫の飼い主も一緒に見付けてくれて、なんかもう闇なんか軽く吹き飛ばしてしちゃうぐらい、僕はお姉ちゃんが大好きになっていたよ


そんな大好きなお姉ちゃんに、助けて良かったって思える大人にならないとね


「以上で僕の話は終わりですっ」


「感動した!」


貴〇花、優勝おめでとう!


「ちなみに僕、今では友達100人、彼女も出来ました」


「青汁のCMかよ!? だけど、色々とほっとしたぜ! これからも頑張れよ、合格!!」


「やったー!」


「しかし秋姉……」


貴女はどこまで女神なんだ


「では余韻あるところで、次の人」


俺がそう言うと、爺さんが一歩前に出てきた


「良い話じゃったぞ小僧。だがまだ青い」


不敵に笑う爺さん。ただ者ではない雰囲気だ


「ではお願いします」


「うむ。……わしぐらいの歳になると、大方な者が煩う痛み。そう、YOUTUU」


爺さんが語りだした時、ドアノブを回す音がした


ま、まさか


「あ、秋様の降臨?」


まさか、まさか本当に!?


「あ、秋様じゃと……わしの話なんぞ後じゃ! 秋様ー!!」


「お姉ちゃんー!」


「秋ちゃーん」


あーき、あーき、あーき


俺達の心は一つになり、六人による大合唱が始まった


まさか秋様にお会い出来る日がくるなんて!(狂乱中)


そしてドアはゆっくりと開いた


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― 新着の感想 ―
この小説に出会ったのはもうずっと昔の事ですが、今でもたまに思い出す事があります。 更新をゆっくりとお待ちしております。
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