人の風呂事情 3
マドマーゼル蘭子のお風呂診断2
腰から洗う人
「腰は男の命なんてスケベなダンディーが言いそうな台詞があるけれど、あれは以外と真理なのよ。そうねぇ、あなたが普段している行動、例えば立ったり座ったり。そんな行動の起点は腰。腰が無ければ成り立たない。だから正確には、女も男も腰が命。そんな命を真っ先に洗うあなたはストレスが溜まってる。でしょ?」
足の人
「人間が人間たる所以は、直立二足歩行だとあたしは思っている。足のみで歩ける恩恵たるや計り知らずで、そうね例えば自由になった腕は投てきを覚えたわ。それと頭部。おっもーい頭を安定して支えてくれるのは、頭が胴体から真っ直ぐの位置にあるおかげ、要するに二足歩行のおかげなの。その安定して支えられた頭は、大きな脳容積を生み出す事になった。どう? 足って凄いでしょー。そんな人間の象徴である素敵な足から洗うあなた! あなたは誇りを大事にする貴族よ! きゃーエモいっ!」
背中の人
「幕末、どっかの組織では背中を切られたら切腹なんて規律があったみたいね。背中を預けるって言葉もある。何が言いたいか分かる? 背中はね、自分では守れない場所なのよ。それなのにあなたは一人背中から洗う……。そうあなたは孤独な人。ロンリーウルフよ」
腹から洗う人
「腹黒で良いんじゃない? おざなり? 別に飽きた訳じゃないわよ?」
「……さて」
切れた電話を片手に一息つく。かけ直す気力もないし、綾さんだけで勘弁してもらおう
それを春菜に伝える為、部屋を出ようとしたタイミングで電話がかかってきた。着信は……あっ!
「はい、もしもし!」
「椿がかけろって。なに?」
電話の主、楓さんはつまらなそうな声で、それだけを言う
さっさと話を切り上げたい、そんな雰囲気をバシバシと感じるぜ! こんな時の楓さんには率直に聞い方がいい
「聞きたい事があるんですけど、風呂入る時、どこから洗います?」
俺の問いに楓さんは一言で答えた
「前に見せたよ」
「え? ……あ」
風呂の時か!
「じ、じゃあ2番目は!?」
「決めてない」
「そ、そうですか」
春菜には言えないぞこりゃ
「それだけ?」
「あ、ええと、その」
天気の話でもしてみるか
「明日の」
「君が決めれば?」
「はい?」
「洗うところ」
「は、はぁ」
俺が決める?
洗うところを……
楓さんの身体は触れれば蕩けてしまう、甘い身体。肌は陶器のように艶やかで、しっとりと柔らかい
しかしながら締まるところは締まっており、肉感的でありながらも、しなやかで……って団鬼六の小説かよ!?
「……まだ?」
「ケツで!!」
何を言ってるんだ俺は!?
「そうするよ」
「あ! ちが」
言い訳する前に電話は切れてしまった
「…………変態か!?」
俺は変態か!
「う、うぉおおー」
綾さんごめん! 変態は俺でした!!
「兄貴ー入るぞー。なにやってんの?」
床の上でのたうち回る俺に、春菜が呆れた声をかける
「お、お前のせいで……いや」
咄嗟にケツが出てくるんだ、元々俺が変態だっただけさ
「それで、なんの用だよ。発表は明日だろ?」
肩を揉みなから起き上がり、軽く春菜を睨み付ける。このくらいは許される筈だ
「ああ、それやっぱ聞かなくていいや。洗うとことか聞く奴、気持ち悪いもんな」
「お前この野郎!」
「うわぁ!?」
春菜に迫り、顔を引っ張る!
「お前の言葉を真に受けた兄は、とんでもない過ちをおかしてしまったぞ!」
「ぬぁ! ほんふぉにきひたんら?」
「ああ、聞いてしまったよ。綾さんは顔、楓さんは……」
「かへでねーひゃんふぁ?」
「し、尻だそうだ」
「へー」
手を離し、俺は春菜に背を向けた
「さぁ、もういいだろう。俺を一人にしてくれ」
汚れちまった悲しみに今日も風さへ吹きすぎる……
「母ちゃんも尻だってよ」
「止めろこの野郎!」
ブルルルル、ブルルルルルル
「携帯鳴ってるぞ」
「なんだよ全く……げ!」
椿だ!
「また怒られるのか……」
怖いが仕方ない
「はい、もしもし?」
「あの……さっきはごめんなさい。私は髪だよ」
「は?」
「髪から洗う。顔が最後」
「はぁそうですか」
良かったですね
「恭が聞いたんだよね!?」
「あ、ま、まぁ、そうだな。ありがとう」
「……もう。せっかくの電話だったのにガッカリ八兵衛だよ」
八兵衛?
「ごめんごめん」
反省八兵衛
「しかし何で答えてくれたんだ?」
わざわざ、かけ直してまで
「それは……と、とにかく、教えたからね。春ちゃんに言ったら早く忘れてよ?」
「はいはい」
「はい、は一回」
「はい!」
「よし。それじゃまたね、声が聞けて嬉しかったよ、バイバイ」
「ああ。みんなに宜しく」
電話は切れ、俺は春菜に向き直る
「椿は髪だそうだ」
「髪か。椿ねーらしいな」
「俺と同じ変態ってか」
こうなったら変態集めて組織にしてやろう
「髪と頭は違うらしいぜ? 頭は変態、髪は計画性バッチリの秀才タイプだってさ」
「なんでだよ!?」
そんなんだったら俺だって髪だぞ!
「同じ場所でも言い方によって違うみたい。腕と肘は違うみたいな」
「こ、細けー」
そして釈然としない
「ま、気にすんな」
俺の肩をポンと叩く。リストラか
「なんか心が暗くなったわ」
まぁ椿と普通に話せたのは良かったが
「だけど本当よく合ってるなぁ。ねぇ兄貴。兄貴の学校の」
「嫌だよ!」
今日の風呂時間
椿>>>秋>夏>楓>>母>春>>俺
津風呂湖