雪のまっくら冒険記 11
「明かりって凄いねお兄ちゃん」
「本当だな」
明かりが付いた廊下は、先ほどまでとは安心感が段違いで、俺達は無警戒で洗面所へ向かう
廊下は所々が濡れていて、それを避けるように歩いた
「まさか風呂に入ってるって事はないだろうな……」
覗き扱いでラリアットってな、いつもの展開は避けたい
「見てみるね」
雪葉は洗面所のドアを開け、先に洗面所へ入っていった
「……うん、誰もいない、あっ」
「どうした?」
続いて入った洗面所の床には、脱ぎ捨てられた衣服があり、その中には下着のようなものも見えた
「あー、姉ちゃんのか」
「う、うん。ちょっと待ってて」
雪葉は慌てて片付けはじめる。ほっといても良いのに律儀な妹だ
「それにひきかえ、その姉は……。部屋も汚いし、これじゃ春菜にも笑われるぜ」
あいつは俺より綺麗好きだし、使った下着を放置するなんて事はない。人のパンツは履こうとするが
「で、でも、夏紀お姉ちゃんはいつも綺麗で優しくて、しっかりもしてるよ? お部屋はちょっと汚れてるかもだけど……」
フォローしづらいのだろう、雪葉の声が後半につれ小さくなってゆく
「前はそこそこ、しっかりしてたんだけどな」
酒を飲まなくなってからが酷い。となると酒を飲ませてって話になるが……
しかし奴にかつての力を取り戻させるのは、まずい。さてどうしたものか
「……まぁでも、秋姉や母ちゃんが掃除してるみたいだし、大丈夫か」
ゴミに埋もれて白骨化なんて事はないだろう
「雪葉もお手伝いしなきゃ!」
雪葉の目が燃えている。世話好きのスキルが発動したらしい
「ほどほどにな。ほいタオル」
「ありがとう」
「と、そうだ、携帯携帯」
風呂の扉を開け、落ちていた携帯と外れたバッテリーを手に取る
両方とも濡れていたが、僅かだし拭けば大丈夫だろう
「よし、じゃあリビングに行こう」
「うん」
なんとなく足音や息を潜めて、俺達は歩き出す
リビングへと続くドアをゆっくり開け、覗き込んだ
「あ、お母さん!」
雪葉は、とととっと母ちゃんに向かって駆けて行く
母ちゃんはあら〜と言いながら、雪葉を受け止めた
「帰って来てくれて良かった。お家に居ないから心配しちゃったよー」
「ごめんなさいね〜。どうしても電気が必要で〜」
必要であるからと直しに行く。そんな母が恐ろしい
「それがアタシらの母親よ……」
ソファーで倒れていた姉ちゃんが、俺の心を読んだような事を言う
髪が濡れているらしく、頭にはターバンのようにタオルを巻いていた
「ん」
その姉ちゃんに寄り添って看病している秋姉が、コクリと頷く。マブイ
「ま、まぁ母ちゃんは納得したよ。それで姉ちゃんは何しに行ったの?」
「夏紀は母さんを手伝ってくれたの〜。危ないから止めなさいと言ったんだけど〜ありがとね〜」
母ちゃんが嬉しそうに答えた
「姉ちゃんが手伝い?」
そりゃ珍しい
「……夜中に武装した親が電気直してくるわね〜とか言い出したら、止めるか手伝うかしかないでしょ」
止められなかったようだ
「と言っても、懐中電灯を下から照らしただけだけど」
姉ちゃんは秋姉に礼を言い、起き上がる
半袖のシンプルなパジャマを着ているが、下がショートパンツかってぐらい短い
「なんか凄い格好だね」
太ももの大部分が見えてしまっている
「こら、見とれてんじゃない」
呆れているのだが
「買ってからあまり着てなかったんだけど、やっぱりなんか落ち着かないのよね……。アキ、このパジャマいる?」
ナイス姉ちゃん!
「……いらない」
残念、俺!
「……アンタにはあげないわよ?」
「いるか!」
「どうだか。……さてと、もう寝よ。おやすみー」
あくび混じりに言い、ひらひらと後ろ手を振りながらリビングを出て行く。俺達もおやすみと返して見送った
「……雪葉も眠くなっちゃった」
時間は1時を過ぎている。正月だってこんなに起きてる事は珍しい
「そうだな、俺達も寝よう」
「うん。……」
雪葉は何かを待つ目で俺を見上げている。なんだ?
「……ああ、そうか」
一緒に寝るんだったか。ふ、怖がりな奴め
「じゃ、俺の部屋に行こう」
「うん!」
にっこり雪葉に軽く頷き、秋姉達に向き直る。2人とも微笑んでいた
「それじゃ俺達も寝るよ。おやすみ」
「おやすみなさい、秋お姉ちゃん、お母さん」
「ん……おやすみなさい」
「おやすみなさい〜。秋も母さんと寝る〜?」
「……一人で平気」
そんな会話を背に、俺達はリビングを出て行った
そして廊下。雪葉は俺の前を歩き、時折振り返って笑顔を見せる
「今日はいっぱい色々あったね! 怖かったー」
「全くだ。よく頑張ったな、雪葉隊長」
「お兄ちゃん隊員のおかげだよ。ありがとう」
こうして俺達の冒険は終わりを告げた。まぁ、俺は特に何もしてないが、一応役に立ったって事で
「はい、隊長。部屋に着いたよ」
左手を腹の辺りに当てながらお辞儀をし、芝居じみた仕草でドアを開ける
隊長と言うより、ご主人様を迎え入れる感じだ
「うん、よきにはからえ」
雪葉も芝居に乗ってくれて、左手を俺の方に伸ばし、エスコートを要求する
「では」
俺はその手を軽く握り、部屋へと入った
今日の精神疲労
春>夏>>>雪>>>俺≧秋>>>母
「……暑い!」
「あ、暑いね」
「こりゃ涼しくなるまで寝れねーな。……よし、それまで百物語でも」
「や、やめて。もー意地悪!」
つくも