雪のまっくら冒険記 10
「…………」
秋姉が部屋を出た後、俺は暇を持て余していた
と言っても僅か数分程度の事なのだか、何もしないでいるのは辛いものだ
だけど秋姉の部屋で何かする訳にもいかないし……
「う、うぅん」
「雪葉?」
雪葉の苦しげな声を聞き、呼び掛けてみるも返事はない
暑苦しいのか? 首筋に触れてみる
触れた肌は火照っていて、俺の指を汗で濡らした
放っておくと、熱中症や風邪を引き起こしてしまうかもしれない
「……お兄ちゃん?」
「あ、起こしたか、すまん。ちょっと汗かいてるから拭こうか」
ティッシュしか見当たらないけど仕方ない。何枚か抜き、雪葉の体を――
「……ん、お兄ちゃ……え? あ! ま、待って!?」
「ど、どうした?」
「自分で拭きます!」
「そうか? じゃ、ほれ」
雪葉にティッシュを渡し、俺は扇げる物を探す
「……もぉ、お兄ちゃんにはデリカシーが足りないよ」
「そ、そうか?」
難しい言葉を使いよるわ。お、下敷き見っけ。これを借りよう
「ほら、ぱたぱたぱた」
下敷きで雪葉を扇ぐ。生温い風だが無いよりはマシだろう
「涼しい。ありがとう」
「もうすぐ電気戻るみたいだから、もうちょっと辛抱してくれ」
「うん。……んー涼しかった! 次は雪葉が扇ぐね」
「俺はいいよ」
「だーめ。貸して、お兄ちゃん」
「あ、ああ」
ここは素直に渡しておこう
「はい。ぱたぱたぱたー」
「おお、極楽の風じゃ」
人力も馬鹿に出来ないな
「お母さん達、帰って来たんだ」
「ああ、まぁ帰って来た……のかな」
多分
「無事で良かった」
「そうだな。……よし、涼しくなった。次は俺の番だ」
「まだ早いよー」
「じゃあ後、10秒な。いーち」
「ま、待って、待って! えい、この!」
若干、憎しみがこもってそうな強い風を受け、交代
「ふっふっふ。次は俺の番だ」
「や、優しくしてね?」
「それはどうかな」
「お、お兄ちゃ……きゃー」
「おらおらおらおらー!」
それから力いっぱい扇いだが、与謝野晶子の短歌並みに雪葉の髪を乱れさせた所で体力の限界を迎えた。ハァハァと肩で息をする
「だ、大丈夫? お兄ちゃん」
「……暑い」
死にそうだ
「雪葉に下敷き貸して?」
「い、いや平気、平気」
「貸して下さい」
「……はい」
ぱたぱた、ぱたぱた
「…………」
ぱたぱた、ぱたぱた
「ゆ、雪葉さん?」
ぱたぱた、ぱたぱた
「雪葉ー、そろそろ代わ」
「駄目です」
「……はい」
それから暫くぱたぱたされ続け、いたたまれなくなってきた頃、パチンと軽い音と共に明かりがついた
「お、おー!」
明かりだ、明かりだー!!
「ふぅふぅ。や、やったね、お兄ちゃん」
文明に感動している俺の目の前に、髪を乱した汗だくの妹が……
「す、すまん。さぁクーラー入れて涼もう!」
ってリモコンどこだ!?
「リビングだ! リビングで氷水を飲もうぜ!」
って溶けてるに決まってるやんけ!
「そ、それよりもタオルがほしいかな」
「だ、だな。俺もびっちゃりだ」
シャワーでも浴びたい気分だわ
「行こう、お兄ちゃん」
「ああ」