雪のまっくら冒険記 9
雨風は落ち着き、窓から弱々しい月明かりが射し込み始めた
正面にぼんやりと見える人影は秋姉のようで、どうも正座をしているようだ
「秋姉こそ眠くないの? 寝ても全然構わないよ」
俺の言葉に、ありがとうと返事がくる
「そっか。でも秋姉がこんな時間に起きてるなんて正月ぐらいじゃない?」
「ん……もっと遅いときもある。お母さんには内緒だよ?」
「う、うん」
この時間からが俺の本番であり、たまに母ちゃんも参戦している事は言わないでおこう
「しかし、そっか。秋姉も夜更かしするんだ」
意外なような、当たり前なような
「……お菓子も食べちゃう」
悪戯がバレた子供のように、少し照れた口調で言う秋姉。可憐だ
「それはとんでもない。これは明日、家族会議だね」
「……恭介にもお菓子あげる。駄目?」
「よし、見逃す!」
「ん。やった」
「あはは。……あれ?」
秋姉と和やかに話していると、玄関の方から風が入ってくる気配を感じた
続いて廊下を歩く音がする。帰ってきたのか?
「ちょっと見てくる」
立ち上がり、秋姉の部屋から出ると……
「うぉ!?」
顔が見えないフルフェイスマスクに軍人のような作業服、そして真っ黒いレインコート
まるで英陸軍特殊空挺部隊みたいなのが2人、懐中電灯を片手に家の中へ入って来ていた
「な、なななな、なな」
「もうすぐ明かりつくからね〜」
あまりの事に言葉が出ない俺に、マスクの主は呑気な声で応える
「そ、そう……ですか」
恐らくこの人は俺の母親なのだろう。なのだろうとは思うが、母ですかと聞く勇気が出ない
「あ、あたし、い、いきて……よか……た」
呑気な人の陰に居たもう1人の兵士は、精魂尽き果てたかのような弱々しい声で呟き、前のめりに倒れた
「あら〜。着替えないと〜風邪ひいちゃうわよ〜」
倒れた兵士をよいしょと肩に担ぎ上げ、呑気な人は廊下の奥へと消えていく
「…………」
俺は今、悪夢でも見たのだろうか
「……恭介?」
「も、もうすぐ電気が戻るそうだよ」
心配そうな秋姉になるべく明るい声で返し、俺は部屋へと戻る
部屋は先程よりも明るくなっており、福助のようなポーズで寝てる雪葉の姿も確認出来た
「寝違えそうだな」
後で部屋に運ぼう
「……お母さん達はリビング?」
「母ちゃん? 達は多分洗面所に行ったんだと思う。濡れてたみたいだし」
「ん。……私、話してくる。雪葉の事お願い」
「あいよ!」
秋姉は音もなく立ち上がり、部屋を出て行った