雪のまっくら冒険記 4
トイレを無事に終え、俺達は再び春菜の部屋を目指す
「次は階段だね」
「ああ、暗いから気を付けてな」
懐中電灯が欲しい所だが、家のどこにしまってあるか分からない
階段には手すりがあるので、慎重に行けば大丈夫だとは思うが……
「それじゃ行くね」
足下すら見えない中、雪葉を先頭に俺達は一段また一段と慎重に上がっていく
普段の慣れからか足は階段の高さを知っていて、つまずく様な事はなかった
「兄貴いる?」
「いるぞ」
「雪は?」
「すぐ側にいるよ、お姉ちゃん」
「……ん」
春菜は弱々しく返事し、迷惑かけてごめんと謝った
「気にするな」
「お姉ちゃんには、いつも守ってもらってるから。このくらい、なんともないよ」
雪葉の明るい声に、春菜はほっと息を吐く
「……ありが」
その時、雷が鳴った
それは先程よりも小さかったが、それでも家を揺らすほどの落雷。かなりの物だ
しかし俺が驚いたのは、雷ではなく
「きゃあ!?」
「え? ちょ、ええ!?」
生まれてこの方、聞いたことが無いような春菜の悲鳴と、飛び付いてくる何かって、マジか!?
「ぬおぃっ!」
両足に力を入れ、飛び付いてきた物体を正面から受け止める
体当たりって程ではないが、ともすれば足を踏み外し兼ねない衝撃に背中から冷たい汗が流れた
「あ、あっぶねー」
数段とは言え、倒れでもしたら2人とも怪我をする所だ
「…………」
「……春菜? うわ!?」
物体は俺の首に腕を回し、体の重みを預けてくる
「も……やだ」
「こ、こら、危ないから離れろ」
「お、お姉ちゃん? お兄ちゃん?」
「あ、ああ、雪葉は先に階段上がといてくれ。こっちは大丈夫だから」
「う、うん。気を付けて」
数秒後、上がったよと雪葉の声がした。よしよし
さて、こっちだが
「…………」
階段で震えている裸の妹に抱き締められる兄。言葉にしてみると、なんかとんでもなくヤバい気がする
「雷苦手だったか?」
「……山田の呪いだし」
そういや雷使いの設定だったな、あいつ
「後少しだ頑張ろう」
「……わかってる」
「そっか」
春菜の頭を軽く抱く。泣いているのか、春菜の頭を受け止めている俺の肩が少し濡れた
「大丈夫だから」
しかし、なんだかんだで二人ともよく似てるよな、怖がりの所とか。なんて兄として一応カッコつけてはみたものの、早く立ち直ってくれないと腰が痛いです
「…………ぐ」
無理な姿勢が祟り、そろそろマジで痛く……
「……だいぶ落ち着いてきた」
「そ、そうか、良かったな」
そして頑張れ俺の腰。もう少しだけもってくれ!
「……うん、もう大丈夫。もう平気」
「偉い! 偉すぎる!!」
自分でも良く分からんテンションだが、とにかく解放されたい
「だろ? あ、でも……さ」
「ん? お?」
春菜は俺から離れ、同時に俺の腰も解放される
「おお……」
助かった
「ふぅ。……何を言おうとしたんだ?」
問い直す俺に春菜は息を呑み、俺の腕に触れながら、ためらいがちに囁いた
「また怖い事あったら……さっきみたいにしてほしい」
「ああ、いいぜ」
そのくらい、いくらでも
「うん。サンキュ、兄貴」
その刹那、何か柔らかいものが俺の頬に触れた
「わ!?」
指とか髪とかそんなんじゃない、奇妙な感触だった。慌てて頬に触れてみても、そこには余韻以外、何も残っていない
「礼な。へへ」
春菜は楽しそうに笑い、行くぞと俺の左腕を引っ張った
「な、何だったんだ?」
まぁ、春菜は元気になったみたいだし、別にいいか
「お待たせ、雪」
「うん。雷、びっくりしたねー」
数々のイレギュラーが起きても所詮は家の階段。いざとなると、わずか数秒で上がりきる
「しかし階段一つでここまで苦労するとは思わなかったぜ」
普段意識してないが、完全な闇ってのは恐ろしいものだ
今も雪葉達が立ってる場所すらはっきりしないし、歩いていても闇から闇で、どこかに飲み込まれそうになる
「とにかく春菜の部屋に行こう。一息つきたい」
そして俺達は2階の奥へと進んだ