雪のまっくら冒険記 3
「じゃあ、お前の部屋に行くか」
一人で行くのは無理だとの事なので、俺達は揃って春菜の部屋に行く事にする
「ちゃんと体は拭けよ」
夏風邪は厄介だからな
「タオルは?」
「棚に……棚は」
どこだ? ええと、これが壁で乾燥機がこれだから、こっちか……あった
「ほらタオル」
手に取ったタオルは少し小さい物だったが、体を拭く事ぐらいは出来るだろう
「パンツはどこ?」
「パンツは知らんよ」
「どこ置いたんだっけ。……ん? これ洗濯カゴ? パンツねーかな」
「カゴには無いだろ」
うちの女性陣は、下着を自分で洗っている。やり方は知らんが少なくともカゴには入れてない
カゴに入れて母ちゃんに洗わせてるのは俺だけだぜ!
「だいたい一度脱いだものをまた穿くとかそんな不衛生な……」
「なんだこりゃ? トランクス? これで良いか」
「良くねぇよ!」
セクハラだぞこの野郎!
「だけど裸でいたくねーよ」
裸ってのは無防備って事だからな、気持ちは分かる
「タオルを巻いたらどうかな」
「うーん、無いよりは良いか」
雪葉の提案を春菜は素直に聞く。しかしその肝心なタオルが見当たらない
「もうタオル無いっぽいぞ」
「そっか……。仕方ないな、ちゃんと私を守れよ!」
という事で雪葉が先頭、俺が後方で裸の春菜を挟みながら移動する。酷い状況だ
「気をつけろよ雪葉。ゆっくりな」
「うん」
俺達は片手を繋ぎ合い、壁沿いに進む。深夜とは言え、ここまで暗くなるのは月明かりが無いからだろうか
「あ」
「な、なんだ?」
すっとんきょうな声上げやがって
「お姉ちゃん?」
「トイレに行っておきたいんだけど」
「ああ、分かった」
後で行くのは大変だしな。トイレは雪葉がいる辺りにある筈
「ここだよ、お姉ちゃん」
ガチャリとノブを回す音がする
「サンキュー。じゃ兄貴、頼む」
「オッケーって何を頼んだんだ?」
「一緒に入って」
「嫌だよ!」
何言ってんだこいつ!?
「待っててやるから一人で行けって」
「う、うーん……。やっぱ我慢しようかな」
「いつ復旧するか分からないんだから行っておきな」
確かに怖いけどさ
「ゆ、雪葉が一緒に行く?」
「雪だと恥ずかしいから嫌だ」
「俺にも恥ずかしがれや」
俺を道端の石かなんかと思ってないか?
「……分かった。じゃ恥ずかしいから一緒に行こう?」
「たく、しょうがねーなーってなる訳ないだろ!」
「なら行かないぞ! 明日私の布団がどうなるか分からないけどな!」
「お、お前……」
凄くアホな事を言っているが、奴の言葉には強い信念がある!
「……お兄ちゃん」
「雪葉?」
言ってやれ、この情けない姉に一人で行けと!
「一緒に入ってあげて」
「そうだ、一緒に……ん!?」
「いつも強いお姉ちゃんが、こんなに怖がってるんだもん……。お願い、お兄ちゃん!」
「い、いや、しかし」
「ほら行くぞ兄貴」
グイッと手を引っ張られ、そのままトイレに引きずり込まれる
「お、おい」
「閉めるね」
雪葉がドアを閉めると、普段気軽に使っていたトイレは、まるで檻の中のような圧迫感ある空間へと変わった。こ、これは怖いな
「あ、兄貴、いる?」
春菜の手が俺の胸元をペタペタ触る
「い、今、お前が触ってるだろ?」
……本当にこれ春菜か?
「兄貴もどっか触ってよ」
「あ、ああ」
ペタペタと頭っぽいものを触る。こんな形だったか?
「は、春菜……だよな?」
「や、止めろよ! そういうの本当ヤバいから!」
「あ、ああ……。じゃあ、さっさとしてくれ」
「手、繋いで」
「耳塞ぐから俺の足でも掴んどけよ」
「なんで? まぁ足でもいいけど……えっと、便座は下りてるな。よっと」
大変お見苦しい事になっています。暫くお待ち下さい――
ジャー、ゴボゴボゴボ
「んー! なんかすげー気持ちよかった!!」
「そりゃ良かったな……」
逆に俺は気分が悪くなってきたよ
「ほれ、はよ出てきなさい。俺もしてくから」
「待っててやるよ」
「いらん!」
勇気あるなーと感心する春菜を追い出し、俺も便座に座る
「…………ぬぅ」
真っ暗の中での、このスリル。確かに中々……
大変お見苦以下略