第38話:夏の会話
薄暗い部屋。消灯時間が過ぎた病室の中だ
この前ムチウチで入院した病院に、またもやお世話なる事となった俺。しかも今回は2人部屋
「……夏紀姉ちゃん」
「……なによ」
「食べたんだあれ」
「………………」
「何だったんだろ、あれ」
「……口に含んだ瞬間、雑草の味がしたわ」
「俺は貝の味がした」
「…………なんであんなに料理が下手なのかしらね」
「舌は普通な筈なんだけどね」
「…………ハァ」
「…………ハァ」
10分後
「ねぇ」
「ん?」
「暇だから何か話なさい」
「ん……ちょっと俺の方へ手を伸ばしてみて」
「何よ、繋ぎたいの?」
「いいから」
「………………」
「ありがと…………生命線長いな」
「よく見えるわね」
「まあね。……頭脳線も長いな」
「……手相って誰が考えたのかしら」
「さあ……金運線、短か」
「……何か言った?」
「いや、なんでも」
「そう…………あ」
「ん?」
「昨日、ちゃんと財布を持って帰ったかな……」
「……やっぱり」
「何か言った?」
「……いや、なんでも」
再び10分後
「……姉ちゃん」
「何よ」
「俺達って結構不幸に巻き込まれるよね」
「…………」
「そういう星の下に生まれたかな……」
「……あ、あんたと一緒にしないでくれる? あたしは幸運の星の下に……」
「声、上擦ってるよ」
「うっさい!」
三度10分後
「点滴の成分知ってる?」
「いや、知らない」
「水と糖分なのよね」
「そうなんだ」
「そうよ」
「………………」
「………………」
「…………そういえばこの病院、焼却炉が裏庭にあるの知ってる?」
「焼却炉ぐらい珍しくないでしょうに」
「じゃ、身元や保険証がない患者さんを無料で診てあげてるの知ってる?」
「へぇ……初耳だけど、そんな事して良いのかしら」
「じゃあさ、その患者さん達が二度と病院から退院しなかったって話、知らないよね」
「………………ち、ちょっと。止めてよ」
「あの焼却炉だけどさ、夜中にしか使われてないらしいんだよね」
「や、止めなさいって!」
「時折さ、裏庭からうめき声が聞こえるのは……」
「止めろって言ってるでしょ!!」
「いて!? ティッシュ箱投げるなよ!!」
「うるさい!」
四度10分後
「…………ね、ねえ」
「………………」
「ねぇったら」
「………………」
「ね、寝ちゃった?」
「………………」
「し、信じられない……この馬鹿、先に……」
「…………もしかして怖いの?」
「べ、別に怖くないわ! そ、そんな事より起きてるなら起きてるって言いなさいよ!」
「いや、うるさいって言うから」
「……小学生見たいな拗ね方しないでくれる?」
「……で、なにさ」
「…………繋いであげても良いわよ?」
「…………もしかして手の事?」
「ちょうどあんたは右手、あたしは左手と開いてるから……ま、まぁたまには姉らしい事をしてあげようかと思ってさ」
「…………手を繋ぐ事が姉らしい事なのか?」
「何か言った?」
「いや、なんでも……はい姉ちゃん」
「ま、まったく。ほんとシスコンよね……ん? ふーん、しっかり男の手になってきたわね」
「姉ちゃんの手は変わらないな。昔のまま、暖かくて大きい手だ」
「大きくないわよ!」
「い、いやそういう意味じゃなくって……いた! 痛いって夏紀姉ちゃん!」
今日の握力
夏>>>俺≧父
つづけざる