第164話︰雪のまっくら冒険記
夕飯もカレーだった日の午後9時
突然降ってきた大雨の中、雷の音を聞きながら俺は雪葉とリビングでホラー映画を見ていた
「お、お前は死んだ筈の山田!?」
「…………」
「ここは俺に任せて逃げるんだ山田!」
「あ……」
「ぎゃーっ鎌倉時代に猛威を振るった怨霊が俺の体にとりついて山田を滅ぼさんとするー」
「んー!」
雪葉は俺の左腕に顔を埋め、小刻みに震えた始めた
「今日の映画は怖いな」
ちょっと雪葉には刺激が強すぎたかもしれない
「う、うん。こんなに怖いと思わなかった」
震えながらもテレビに目を向け、耐えるように見ている
「ふるべゆらゆらで悪霊たいさーん!」
「ぐわは! これで世界は救われたー。だが、第二第三の山田が世界を支配するだろうー」
「その時はまた戦うだけだ! そう俺達の戦いはこれからさ!」
チャララララー
終わり
「……うーん」
最後はイマイチだったけど全体的には面白かった
「さて、そろそろ歯磨きして寝るか」
時間は11時。少し早いが今日はもう寝てしまおう
体を伸ばしながら立ち上がり、いざ洗面所へ
「…………」
ドアを開けて廊下を進み、洗面所に来たが、なんか人の気配が……
「……お兄ちゃん」
「山っ! ……ふ、どうした雪葉」
気配の主は雪葉だった。どうやら付いてきたらしい、心臓が止まりそうになったが
「あの……」
雪葉は潤んだ目で俺を見上げながら
「今日一緒に寝ても良い?」
「一緒に? 良いけど珍しいな」
雪葉は怖い物を見た後でも基本1人で寝れる。春菜は無理だが
「今日のは駄目だよー。もうすっごく怖かった!」
「ふむ」
今日のは怨霊物。派手さはないが、どんより染みるような怖さがある作品だった
「それじゃ後で俺の部屋に行こうか」
「うん!」
たまには兄妹水入らずで一緒に寝るのも良いだろう
11時15分
雪葉の部屋から枕とパジャマを取ってきた後、俺の部屋へ
外が雨だからか部屋はじめじめと蒸し暑く、とても寝れる環境ではない
「エアコンつけて、と。俺は床で寝るつもりだけど、雪葉はベッドでいいか?」
「一緒にベッドじゃ駄目?」
雪葉は不安そうに俺を見ている
「良いよ。俺のベッド広いからな」
ダブルって程ではないが、2人でも余裕はある
「ありがとう、お兄ちゃん」
「今日のはヤバかったからな。鎌倉の呪いじゃ〜」
「きゃー、なんて。もう怖くないよ」
「はは、さすが雪葉だ」
寝巻きに着替えて
「お、お兄ちゃん!」
「な、なんだ!? 鎌倉の呪いか!」
「着替えるなら言って! 目をつぶるから」
雪葉は顔を赤くし、抱いている枕に顔をうずめた
「あ、ああ」
妹の前でパンツ一丁はまずかったな……
「デリカシーに欠けてたよ、ごめん」
これじゃ春菜の事、怒れねーな
「よし、着替えたぞ」
夏仕様の薄くて汗を吸収する着心地の良い寝巻きだ
「うん……」
チラッと俺を見て小さく頷いた
「まだ部屋暑いし涼しくなるまでテレビでも見るか?」
「うん。……こんな遅くにテレビ見るの久しぶりかも」
どことなく期待してそうだが、たいして面白いものやってないんだよな
「ええと、4チャンは深夜ドラ」
テレビを点け、番組を確認していた瞬間、外が昼のように明るくなった
続いて爆音と振動。その後、部屋は真っ暗に
「…………び、びびったー」
落雷、雷、火事親父。ここまで大きいのは記憶にない
「凄い雷だったな。大丈夫か雪葉」
「…………」
「雪葉?」
「……お、おにぃちゃ」
枕を抱いたまま、震えながらも俺に手を伸ばそうとしている
「雪葉」
伸ばされた手を握って、大丈夫だよと雪葉の頭を胸に抱く
「…………」
暑い
「……ありがとうお兄ちゃん、もう大丈夫」
雪葉はもう一度手を握った後、俺から離れ
「みんなの所に行かなきゃ!」
と、勇者みたいに立ち上がった