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第163話︰Bの怒り

おもいで8



「付き合ってくれませんか?」


「…………え?」


「先輩が好きです。付き合って下さい」


「そ、そうかありがとう」


ふ、ようやく俺にも告白がきたか。お待たせ、みんな


「とは言っても俺達、初対面だよな? 誰かと勘違いしてないか」


初対面で告白されるほど美少年に産まれた覚えはない


「私、死んでる人が好きなんです」


「……ん?」


「生きてる人間って汚いじゃないですか。あ、肉体だけの事じゃなくて、概念って言うか魂がもう不純って言うか。でも死んだ人間って、すごく純粋だと思うんです。それって思考や本能からくる生への執着が消えて、1つの無、空虚となるからだと思うんですよね。だいたい人間って骨に肉、血と皮で出来てる訳でしょ? それって豚と同じじゃないですか。そんな豚と付き合うなんて、肥溜めに頭をつっこむよりあり得ないですよ。ですけど先輩は死んでるじゃないですか。それなら皮は無理だとしても中身は抜くことが出来ると思うんです。豚の糞より穢らわしい中身さえなければ、大丈夫かもしれません偉いですよね私。なんでしたらとりあえず血を抜くだけでも良いですし? 性処理も必要でしたらしてあげます、彼女ですからそのぐらい我慢出来るというかちょっとだけ興味があったりして」


「…………」


ヤバイ。これはヤバイ


「ご、ごめん! 俺、彼女がいて君とは付き合えない!!」


「彼女? 死体がですか? 私と同じ趣向の人? それって……。あのその人に会わせてもらえません? ぜひお話したいですし、そうだそれ面白いよ。ねぇ会わせて、会わせてよ、ねぇ、ねぇ、ねぇねぇ!!」


「た、た……」


助けてー!




8月の昼下がり。俺は友人Bと駅前を歩いていた


「佐藤、俺は女にモテたい」


「そうか頑張れ」


あーあちぃ。何度あるんだこりゃ


「もうちょい食い付けよ!」


「うわ、びっくりした」


友人Tは噛み付かんばかりの大口で俺に迫ってくる。拳が入りそうだ


「で、何に食い付けば良いんだ?」


「何ってお前……。はいはい、佐藤はモテるから余裕で良いっすねー」


Bは皮肉げに言ったが


「俺? 俺がモテてる? モテていて余裕? 俺が……」


回想中・・・


「……うわぁああ!?」


「うぉう!?」


「お前、お前ぇええ!!」


Bの胸ぐらを掴み、揺さぶる。恐怖と憎しみ。僕の心にそれはハッキリとありました


「ちょっ止め、ちょぉお止めー!」


「俺は生きてる、生きてるんだよ!!」


「い、生きてる、生きてるから落ち着け!」


「ハァハァ、ハァ……すまん、取り乱した」


「取り乱しすぎたろ!? お前の心に何が起きたんだよ!」


「ちょっとトラウマが……」


「トラウマ?」


「ああ……。そ、そうだな、ちょっと変わった人にはモテるかもな、はは」


まともに好かれたのは、燕と椿ぐらいかもしれない


「よ、よく分からないけど話を変えるわ」


「そうしてくれ」


「じゃあ佐藤よ、お前は女のどの部分に熱い想いがある?」


「あんま変わってないような……。それよりカレーの話をしようぜ」


そう、カレー。俺がBと歩いている理由は、Bと昼飯を食べる為である


『割引券があるからカレーを食べに行こう』


今朝きたその連絡は俺の腹を刺激し、頭の中をカレー一色にしてくれやがった


「だから俺はこの暑い中、暑苦しいBと面白くない会話をしながら、カレー屋目指して歩いているのだ」


「……そういう事は心の中だけで言え」


「しかし本当暑いな」


100度はあるんじゃないの?


「それで佐藤はどこが好きなんだ? 尻? 太もも?」


「これだけ露骨に話を逸らしているのに、まだ続けるか」


やるなBよ


「別にどこって事はないけど、足……いや、尻……胸?」


「全部か、欲張りタイプめ。顔は?」


「顔? うーむ」


顔で好きになるって経験がないから分からん


「好きになった人が好みの顔だな」


「げっ!? そんな事言う奴、本当に存在してたのかよ気持ちわりぃ!」


「そ、そこまで言われるような事か?」


「じゃあお前は俺が女だったら愛せるのか!」


「愛せる訳ないだろアホか」


アホなのか


「ほらな、簡単に論破されるだろ? 顔は関係ないって言ってる奴らの主張は大概薄っぺらいんだ」


「お前……まぁ良いけどよ」


だが言われてみれば、俺は燕の全部が好きだった。もちろん顔もだ


それなら顔で惚れたと言われても、否定は出来ないのかもしれない


「はいはーい、今から性格の可愛い女の子やりまーす」


「は?」


「きょーすけ、だいすきっ!」


気持ち悪いなこいつ


「どうよ?」


「気持ち悪いなお前」


「な、性格だけ可愛くなっても無理だろ? 結局顔なんだよ」


「たとえお前が美少女だったとしても、普通に無理だわ」


側に寄られただけで鳥肌が立ちそう


「やっぱ女は顔で次に」


「キョースケくーん!」


アホなBが何か言い終わる前に、さっきのゴミみたいなものとは違う華やかな声が俺を呼んだ


声は通りかかったスーパーから。振り返るとスーパーの袋を持った香苗さんが、笑顔で俺を見ていた


「香苗さん?」


「いえーい」


香苗さんがピースをすると、胸が揺れた


着ている服は青のノースリーブワンピ。ちらりと見える脇は、もはや凶器と言ってもいいだろう


「お買い物ですか?」


「うん。昨日は花梨ちゃんを手伝ってくれてありがとね」


「少しでも役に立てたなら良かったです」


「きょーすけくんは、やっぱりいい子だなぁ。ご褒美あげたいな……」


香苗さんは切なそうな顔をした後、うんっと頷いて手でちょいちょいと俺を呼んだ


「な、なんでしょう」


恐る恐る近付くと、香苗さんは俺の手に軽く触れて甘い声で囁く


「触って?」


「え? ええ!?」


む、胸!? 胸を触れと言うのか!?


「ポケットに飴玉が何種類か入ってるんだ。好きなのあげる」


「ポケットの事かいっ!」


紛らわしい! だがポケットに手を入れるだけでも緊張するな


「ん? もしかしておっぱい触りたかった? 子供達も触りたがるんだよね。触ってもいーよ」


「ちょ、こらー!」


年上だけど怒るでしかし!


「ひゃあ!? ど、どうしたの、きょーすけくん」


「健全な男子にエロい事を言っちゃいけません!」


「エロい事? エロ? んー……あ、おませさんだぁ」


香苗さんは可愛いイタズラをした子供を見るような顔で、にやけている


「そっかー、おっぱい触るのエロいってなっちゃう年頃なんだ」


「そ、そりゃそうでしょ……あ、荷物運びましょうか?」


露骨に話を反らしてみる


「軽いから大丈夫。ありがと」


確かに小さい袋だ。昨日の買い忘れかな


「ホットケーキ。花梨ちゃん達に作ってあげたいの」


「なるほど、それは喜ぶでしょうね」


俺も腹ペコだ


「それじゃ俺達そろそろ行きますね」


「うん! 呼び止めてごめんね、また遊びに来て」


「はい」


「その時は大きいのあげる!」


そう言ってウインクをし、香苗さんは去って行った


「……うむー」


あの子供っぽさ、一体いくつなんだ?


見た目は20代前半。でも花梨が10歳だからな……


「なんだあれは」


「ん?」


「なんだあれは!」


Bは遠ざかる香苗さんの背中を唖然と見つめている


「香苗さんの事か?」


「なんなんだあのエロ可愛いさは!」


「あ、ああ、そうだな。エロ可愛いな」


「なんなんだあのエロ可愛いさは!」


「お、落ち着けよ」


目が血走ってるぞ


「秋さんみたいな姉ちゃんがいて、元カノは鳴神? クラスの女とはヘラヘラ話してるわ可愛い後輩に付きまとわれてるわ挙げ句の果てにエロ可愛いお姉さんにおっぱいかよ!? 死ねよお前! つかすげぇ美人と歩いてたって話もあるし真田先輩と仲良いし子供にも囲まれて、いったいどこのヒーローだよ糞が!」


「なんでそんなに俺の事詳しいんだよ……」


だが言われてみると恵まれている気もしてくる。しかし結局は友達止まり、要はモテないって事だ


「お前とあんま変わらねーよ」


「はぁ!?」


「カレーだ。カレーを食って全てを忘れようぜ」


いつだってカレーは俺の心を癒してくれる


「うるせぇ死ねや!」


「ああ!? せっかく人が穏やかに終わらそうとしてるのに、死ねだとこのやろう!」


「うるせぇこのやろう!」


「なんだ馬鹿野郎!」




今日のおかわり


俺>>B


「おかわりだこのやろう!」


「俺もおかわりだこのやろう!」


「更におかわりだこのやろう!」


「お、俺もおか……ぐふ」



大盛




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