綾のお買い物 3
エロニーニョ書店の棚は、人妻で溢れていた
「……綾さん」
「はい」
「これですか?」
平積みされている本はパンツ丸出しのエロ表紙、エロ妻だらけ。18禁真っ盛り
その中でも特にエロい本、それがシコ太郎だった
「これです! 今回もシコいですねー」
「俺、18以上に見えますかね」
一方、綾さんは美人だし雰囲気こそあるが、やはり高校生にしか……って、ん? よく見たらいつもより大人っぽい
「綾さん化粧してます?」
「はい、ちょっと」
なるほど、化粧で年齢を誤魔化しているな。それなら俺も
「コンビニでマスク買ってきますね」
顔が半分隠れていれば何歳か誤魔化せるはず
「あ、待って下さい。誤解しているかもしれませんがシコ太郎は18禁じゃありませんよ?」
「マジで!?」
このエロさで!?
「健全な、ちょいエロ少年コミックです」
「少年コミック!?」
乱れた着物の裾からバタフライな紐パンが天に飛翔しようとしているこの本が!?
「な、なんてこった」
今の少年達は俺の闘力を超えているのかもしれない
「でも残っていて良かった。はい、お金です」
そう言って渡されたのは、樋口さん
「あ、はい」
細かいのが無いのかな
何気なく本の裏を見ると
「3704円!?」
普通の単行本なのに!
「ちびフィギュアの特典付きですから。男性はバタフライ幸子、女性は田中シコ太郎が付いてきます」
「そ、それが狙いなんでしたっけ」
「はい!」
なんて清々しい顔だ。心が洗われるぜ
「分かりました。それじゃ買ってきます」
全年齢なら怖くない。俺は肩で風を切りながら、レジへと向かった
で、10分後
「ありがとうございました」
店の外で綾さんは俺に礼を言い、本と特典を嬉しそうにバッグへ入れた
「いえいえ。はい、これお釣りです」
「はい。ところで……」
財布にお金をしまいつつ、ちらっと俺を見て
「お腹空きません?」
「空いてます」
帰りに牛丼でも食ってくかー
「それでしたら、ええと」
「綾さん?」
言い淀み、気まずそうに視線を泳がしている。どうしたんだ?
「んー、えへん」
わざとらしい咳払いをし、綾さんは笑顔で一言
「ご飯食べに行きませんか?」
「ご飯ですか? いいですね、行きましょう」
綾さんと食うの楽しいんだよなー
「なに食べます? この辺、和洋中と、だいたい揃ってますけど」
「どれも美味しそうです。佐藤君は何が食べたいですか?」
「牛丼でも食うかって思ってましたけど、何でも美味しく食べますよ」
秋姉の料理を食べている俺に好き嫌いの概念はない
「あ、牛丼屋さん。私も行きたいです」
意外と食いついてきた!
「じゃ牛丼行きますか」
「おー」
そんな感じで話ながら駅へ戻り、歩いてすぐの牛丼屋に
「へらっしゃー!」
店内は15人ぐらい座れそうなU字型のカウンター1つと、2人座れるテーブルが5つ
店員1人、客は3人。人数は少ないが、皆それぞれ餓狼のような凄味がある
「テーブル席にしましょう」
「はい」
綾さんを奥のテーブルへエスコートし、向かい合わせで椅子に座る。なんか照れるな
「話には聞いていましたが、内装はこうなっていたんですね」
興味津々な様子で店内を見回している。もしやと思ったが、来た事なかったのか
「野郎共の巣窟って感じですよね。最近は女性もそれなりに……っ!」
マイガッ! テーブルが小さくて気を抜くと綾さんの足に触れそうだぜ!
「佐藤君? ……あ」
にやり。そんな擬音が聞こえそうな程、悪意に満ちた笑顔が目の前にあった
「あ、綾さん?」
「あたっても大丈夫ですよ。それとも、こうやって絡めてみます?」
「え? ちょっ!」
綾さんの細く、しなやかな足が、俺の足にゆっくりねっとり絡んできて……って
「どんなシチュエーションだ!?」
牛丼屋でやる展開じゃない!
「佐藤君は隙が多すぎです。処女の私ですら襲いたくなりますもん」
「もんって……」
ちょっと可愛く言ったって、台詞が全く可愛くないぞ
「ともかく、ちょっとぐらいあたっても大丈夫ですから、遠慮なく足を伸ばして下さいね」
それを言いたかっただけなんだろうが、なんて回りくどい人なんだ