綾のお買い物 2
駅から東、町外れの方へ30分ほど歩くと、目的地である2階建ての本屋が見えてくる
そこは普通の本屋と少し違っていて、マニアックな本を中心に取り扱っているらしい
そんな本屋に綾さんは欲しい本があると言うのだが
「買えるのが1人1冊までって厳しいですね」
「特典が付くのですが、数量限定らしくて。ずるいとは思うのですが、どうしても特典が欲しいんです」
言葉に強い想いを感じる。これは本気だ
「それ分かります。前に俺もゲームの特典が欲しくて隣の県まで探しに行った事がありました」
結局買えなかったが
「それで、なんてタイトルの本なんですか?」
「どす恋シコ太郎です」
「……ん?」
なんか今、不適切な単語を聞いたような……
「すみません、もう一度言ってもらっても良いですか?」
「どす恋シコ太郎、人妻編。奥さんの四股で僕のお股もシッコシコ〜です」
「ま、マジですか?」
「マジです」
「マジかー」
買いたくねー
「純愛ものです」
「そのタイトルで!?」
驚愕している間に本屋の前へ着き、そのまま突入。入り口にある等身大のスケベパネルが俺を拒む
「2階です。新刊コーナーかな」
パネルを気にする事なく綾さんは2階へ上がり、階段側の新刊棚を物色し始めた
「新刊コーナーには無いみたいですね。棚差しの方かも」
この本屋は出版別に本を並べているらしく、綾さんはドスケベ出版のア行へって、なんちゅー出版社名だ
「うーん、見つかりませんね。人気本なので売り切れたかもしれません」
「そんなに人気あるんですか?」
「前作、奥さん力士ですは30万部発行されました」
「お、おー凄い」
世の中知らない事だらけだ
「店員さんに聞いてみます」
「あ、ち、ちょっと待って下さい。奥に検索機みたいのがあるので、まずはそれで」
店員は最後の手段にしたい
「じゃ試してみますね」
検索機の前に行き、タイトルを打ち込む。1件ヒットしたが、出版社はエロニーニョ書店とある
「ありましたけど、エロニーニョ書店から出ているみたいですよ」
「何がでしょう?」
綾さんは、きょとんとした顔で俺を見つめた
「何って、あれですよ。綾さんの探してる本」
「私がですか? エロニーニョ書店?」
「ほら、あの力士がどうとか」
「力士? お相撲さん?」
話が噛み合わない。出版社が違うから、別の本の話と勘違いしているのか?
「だ、だから……。お、奥さんシッコシコ」
「急に何を言い出すのです?」
「真顔は止めて! ……あ、綾さんが探してる本、どす恋シコ太郎。奥さんの四股で僕のお股もシッコシコ〜がありました」
「はい、よく言えました」
満面の笑み
「ドSか!?」
「佐藤君が可愛くてつい。ごめんなさい」
謝っていながらも唇はほころんでいて、多分本気で俺を可愛いと思っている節がある
「う……はぁ。やっぱ綾さんには敵わないです」
じゃあ誰に敵うんだと聞かれても答えられないが
「私も佐藤君には敵わないので、お互い様かもしれませんね」
「え〜」
納得いかねー
「だから、たまにはいじめて欲しいです」
「ドMか!?」