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春のカッパ騒動 18

「我々はただ、面白いテレビが作りたかっただけなんです」


静まり返った会場の中、黄金カッパは独白する


「正装なんか着ちゃってさ、カッパなんか追いかけちゃってさ。走りにくいねそうねウフフ、そんなのが見たかっただけなんです」


その結果、全てを失った。カッパは力なくひざまずく


「なのに彼が、番組の主役にしようと思っていた彼が! ポロリで乳揉んだ最低のド変態が!!」


怒り、悲しみ、そして愛。その叫びには人の心を揺さぶる何かがあった。いや、よく分からないが


「……帰るか」


これ以上ここに居たら精神が病みそうだ


「え、もう帰んの? まだ何か面白そうなんだけど……あ、そうか。たく、しょうがね〜な兄貴は」


両手で胸を隠しながら春菜は言う


「俺はお前のその冷たい目を3ヶ月は忘れない」


主に俺が作るおやつの質に影響する


「はぁ……帰る前にファミレスで服着替えきゃな」


このまま帰る訳にもいかないし、面倒だが仕方ない


「すみません、俺達帰りま……」


声をかけて帰ろうとする俺の目に、嫌なものが入った


それは縄や刺又を持った5人のカッパ達。大江戸捜査網かよと合ってるかどうか分からないツッコミを入れてしまう


「変態を捕まえろー!」


「うわ! いきなりきた!?」


カメラまで回して逮捕密着24時ってか? 野郎ふざけやがって


「捕まるかよ!」


迫まりくるカッパ達を華麗にかわし、そのままダッシュ――


「足重っ!?」


生まれたての小鹿みたいにガクガク震えてくる


「囲め囲め〜」


「神妙にお縄につけぃ!」


震えてる間に囲まれ、スポンジで出来た柔らかい刺又で動きを封じられた


「公然わいせつ罪で逮捕するカッパ」


「こ、公然わいせつ罪……だと?」


夏によく出るコート紳士と一緒にされるのか!?


「俺は無実だー」


「性犯罪者はみんなそう言うカッパ!」


「さぁ歩けカッパ」


左と右のカッパに腕を掴まれ、ロケバスの方へと歩かされる。カッパは勝利の歌を歌い、会場は大いに盛り上がった


「何でこんな目に……」


家で大人しくゲームをやってれば良かった。もう二度とカッパなんかに関わらないぞ


「兄貴!」


「は、春菜!?」


そうかお前が誤解を解いてくれれば! さすが春菜。決める時は決めてくれるぜ


「私、先に帰ってるよ。頭痒くって」


「アホか!?」


兄の危機に頭!? アホか!


「キリキリ歩かんか! カッパ」


「おらカッパこの野郎カッパ」


「くっ」


微妙な語尾を付けやがって


「パパーあの変態、何をしたの?」


「見ちゃ駄目だよ坊や。変態がうつるからね」


どいつもこいつも!


「車に乗れぃ! カッパ」


「はいはい!」


もう好きにしろや


「待ちなさーい!」


心を閉ざした俺が車に片足を乗せたその時、銀の弾丸のように清浄で力強い声が会場を撃ち抜いた。これは


「花梨か!」


「そいつ、さ、佐藤お兄ちゃんは春菜さんの胸を隠そうとしただけ。変態なんかじゃないわ!」


物怖じする事なく、花梨は真っ直ぐに俺の無実を訴える。気のせいか後光が差して見えるぜ


「ち、ちょっと花梨。あんなの庇ってたら花梨まで変態に」


「リサ」


「な、なによ」


「それ以上言ったら友達止めるから」


「え! な、なによそれ!? 私は別にあなたと友達じゃ……ま、まぁ、それならそれでも良いんだけどね! んん、コホン。コラァ! その人は無実、カッパの癖に気持ち悪い事言うな馬鹿ー!!」


リサがそう叫ぶと、見物していた千里もそうだそうだと応戦する。ああ、俺の味方はこんな所に居たのか


「あれ? 兄貴って変態じゃないの? なら何で胸を触りたがってたんだ?」


あいつは敵だ


「で、ですが、証拠の映像があります」


戸惑いながら話す黄金カッパに、花梨は妖しく微笑む


「映像? ふぅん。それなら確認してみたら? 今、ここで」


「え? 今ですか? ……青カッパちゃん、映像チェックして〜」


はーいと青カッパちゃんは応え、持っているカメラを操作し始めた


「チェック入りまーす。えーと、3時頃だから……このへんか」


「全部消して」


「え? 何を消すのよ」


「なんでもない。……よし、消えたわね。行くわよリサ」


「どこに?」


「負けたんだから着替えて帰るの!」


「あ、待ちなさい花梨! 行くわよ千里!」


「あいさー」


花梨は最後に俺を見て、ベーっと舌を出して去っていた


「あ、えっと……じ、じゃーな花梨、ありがとよ〜!」


なんか怒ってるっぽいが、庇ってくれたのは本当にありがたい。花梨の言葉に観客もざわつき始めたし、隙をついて逃げるか


「あー!!」


突然、青カッパが叫んだ。俺の心臓に55のダメージ


「映像がありません!」


「な、なに!? どういう事だカッパ!」


そうだ、どういう事だカッパ!


「カッパ追いかけっこが始まってからの映像が全て消えています! それはもうぷっつりと」


青カッパの言葉に黄金カッパ他2匹は慌ててカメラに向かい確認。そして絶望


「な、なんて事だ。これだからテープにすべきと言ったのに!」


「ど、どうしましょう。もう一回撮影……は出来ませんよね」


「ああ……。参ったぞこれは」


「……ふむ」


どうも証拠の映像は無かったようだな。それならば


「君ぃ」


俺を右手を掴むカッパに声を掛ける


「な、なんだカッパ」


「どうやら私は無実のようだよ? これ以上私を侮辱するなら、知り合いの弁護士に話をつけてもらわないといけないねぇ」


「弁護士!?」


「警察にも顔が利くんだよ?」


悪い意味で


「うっ……た、田所さーん」


俺のハッタリに右カッパはおののき、黄金カッパの方へ走って行った


「……貴方は行かないんですか?」


左カッパにも声を掛けてみる


「めんどくさいですカッパ」


「そうですかっぱ」


うつるなこれ




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