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正月山行 6

もう四月ですけどね……

「寒い寒い寒い〜」


山頂に着いてから10分経ったか、未だ日の出は遠かった


「寒い寒い寒い寒い寒い〜」


強くなってきた風は野ざらしな俺達の体を冷やし、なんて言うかこうウォーっと叫んで走り周りたくなる


「こ、このままだと死ぬ、死んでしまうわ!」


ちなみに、さっきからうるさいのは姉ちゃんだ


そんだけ着込んでるのにまだ寒いのか、なんて思わなくもないが、まぁ車も出してくれたし? 感謝を込めて見守ってあげよう


「……なによその生暖かい目は」


しかし本当に寒い。動いていればまだ良いのだろうが、こうして突っ立っていると、もろに寒さを実感する。このままでは風邪を引いてしまうかも……


「くしっ」


「秋姉?」


秋姉は口を両手で覆いながら、何かを呟いた


「くしゅん」


「……あ!」


くしゃみか! あまりにも美しく麗しいから気付かなかったが……って秋姉がくしゃみ!? 


く、くそぅ山風め、滅多に風邪を引かない秋姉になんて事を!!


「秋姉、俺のコート羽織って!」


俺はコートを脱ぎ、秋姉に献上致し奉る

秋姉が暖まるのならば、俺は裸で下山も辞さない


「……ちゃんと着なきゃ駄目」


「う、うん」


たしなめられてしまった


「寒いならみんなでくっ付けば?」


ベンチの春菜さんがそんな提案をしてきた


「くっ付けって、おしくらまんじゅうでもやれってか」


懐かしいが、この歳でやるのは流石に恥ずかしい


「そうじゃなくって、みんなでくっ付いて座るんだよ。ちょっとは暖かいんじゃない?」


「あのなぁ、そんな」


「……いいかも」


「最高だなそれ。天才か?」


「だろ? 夏姉も良い?」


「な、なな、なんでもももいいいからららははややくくく」


震えすぎて、姉ちゃんが二重に見える


「よし、じゃ私が一番左。で、夏姉、秋姉、兄貴の順な」


俺と春菜が外側か。妥当な選択だな


「それじゃ座ってみようか」


3人掛けであろうベンチに、俺達4人は詰めるように座る。当然ぎゅうぎゅうであり、微妙に暖かい


「やっぱ狭いな」


「……寒くない?」


「全然。秋姉は?」


「……暖かい」


そう言って秋姉は微笑んだ


この微笑みの為なら俺は、自分の体温をカーボンヒータ(弱)並に上げる事が出来る


「みんな一緒って、なんか久しぶりだよな〜」


体を燃やしていると、春菜がふと思い付いたかの様に呟いた


「そうだな」


秋姉は超多忙だし、春菜も部活に受験と大変だ。姉ちゃんだって……姉ちゃんはよく分からんが忙しそう


だから、揃ってノンビリお出掛けってのは中々出来ない


「これで雪も居たら無敵だったね」


「だな。今ごろ最高に幸せな初夢を見てる頃だろうよ」


ナスだか鷹だか知らないが、大量に雪葉の所へ行きやがれ!


「来年はユキも連れて来ましょう。ところで、さ。まだ日の出じゃないの!? 寒いんだからさっさと出しなさいよボケが!」


すげぇ、天に向かってガン付けてる。これじゃビビって出て来れないんじゃない?


「まだ寒いのか? それなら抱き締めてやるよ」


そう言って春菜は姉ちゃんの首に腕を回し、自分の胸元に引き寄せた


「……なんでこんな男前なのよアンタ」


姉ちゃんは呆れ顔


「男に生まれてたらえらい事になってただろうね」


モテすぎて、どっかで刺される未来しか見えない


「ヤダよ男なんて」


「あれ、そうなの?」


どっちでも良いって訳じゃないのか


「だって私が男だったら嫌だろ? 弟になっちゃうじゃん」


「ん? ……弟か」


キャッチボールやろうぜ兄貴!


兄貴〜めしめし〜早く作って〜


よーし北に遊びに行くぜ! まずは北海道、着いてこい!!


「…………」


あんまり変わらないんじゃ……


「私は妹だから可愛いんだ。だから男になる気はねーよ」


「そうか」


まぁ俺も女になれって言われたら嫌だけどな


「でさ……私、今年はもっと可愛くなる。きっとすっげー可愛くなるぞ? だから、だからね……こ、今年もいっぱい私を可愛がれよな!」


その不安げな瞳は捨てられた猫を思い出す。どこか逆らいがたく、どこか切ない


「……これ以上可愛がったら孫とじいさんレベルだぞ?」


撃ち抜かれた。そんな目で俺を見るのか


「じーちゃん」


「やめろぃ!」


ずっと笑っていてくれていたから、きっと少し寂しいだけ。何だかんだ言っても俺が居れば大丈夫


そんな筈ないのに俺は自分を誤魔化していた


「……ま、ほどほどに可愛がってやるよ。たとえば勉強を見てやったり」


「え〜勉強かよ。そんなんじゃなくて毎日メシ作ってくれるとかさ〜」


「お前ねぇ……」


親父が生きてるのか死んでるのかすら分からない。それがどんなに異常な事か、毎日が凄く楽くて忘れていたよ


「……私が作ってあげる」


「え!?」


「ええ!?」


去年は帰って来なかった。不安だ、怖い悲しい。早く帰って来てくれ親父


「や、やややっぱメシはいいや! 母ちゃんが作ってくれてるし」


大丈夫、俺は居なくなったりしない。ずっとそばにってのは無理だけど、絶対泣かしたりしない


だけどそれだけ。それだけしか出来ない


「……遠慮しなくても良いんだよ?」


「あ、いあ……あ、あの……じ、じゃあ一度だけお願いしよう……かな」


「ん……がんばる」


俺は何をすれば……


「うぅ……あ、兄貴? そうだ兄貴も」


「ん?」


「兄貴も一緒に食べようぜ!」


「……ああ、一緒だ」


いくら考えても俺は親父にはなれない。きっと春菜の寂しさの半分も埋めてやれない


「う、うん……ん?」


だけど俺は兄貴。たとえ何も出来なくても兄貴。だから


「今年も宜しくな、春菜」


いつも通り、いつもの笑顔でお前を見守る。大丈夫、俺はお前を信じてる


「は? ……んー、よく分かんねーけど、おう! 今年も宜しくな兄貴!!」


冬でも元気なひまわり笑顔。きっと寂しさにだって、太陽にだって勝っちまう


「……ふん。ようやく明るくなってきたわね」


本当、計った様なタイミングで空が明るくなってきやがったぜ


「持ってるね〜」


「なにが? 菓子?」


「ちげぇよ。つか昇る瞬間を見逃すなよ春菜! 1番見やすい所へダッシュで移動だ!!」


「お、おう兄貴!」


グダグダ考えて悩んでカッコつけてたけど、もういいや。何かをしてやろうなんて、何か違う


「うぉー出た太陽! ヤッホー!!」


「馬鹿、ちげぇよ! えっと初日の出は……ば、バカヤロー!!」


「あはは、バカヤロー!! 夏姉達も早く来いよー」


「あ、あんたらね……」


「ん。バカヤロー」


「あ、アキ……ば、バカヤロウが!」


「怖っ」


「あはははは!」


今年も一緒に楽しく暮らそう。な、春菜




今日のおみくじ


春>秋>俺>夏



「はぁ、ようやく帰れるわね」


「ん」


「……少しはスッキリしたのかしら」


「ん」


「春菜もあいつも、いろいろ悩んでたみたいだし」


「ん」


「きっとアタシらじゃ駄目なのよね」


「……うん」


「来て良かったわ」


「うん」


「……で、アキはなんか悩みないの? 聞くわよ」


「……姉さん」


「お、なになに、なんでもしてあげちゃうわよ」


「姉さん、もっとしっかりして」


「…………はい」



爪先




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