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正月山行 3

ウィーンと開く自動ドアを通って店に入る。中は春かと思うほど暖かく、厚着をしているので少し汗ばんでしまった


正月だからか客はなく、ぱっと見店員の姿もない


「水は四本で良いのかな?」


「ん」


秋姉は頷き、コンビニのカゴを取る


「あ、俺が持つよ」


カゴを受け取ると、秋姉は何故か優しい眼差しで俺を見上げた


「秋姉?」


「……ありがとう、恭介」


にこ


「ぐっ……い、いいんだよ秋姉」


ふー危ない。危うく血を吐くところだったぜ


俺も大人だ、いつまでも秋姉の美しさに負けてる場合じゃない


「……どうしたの?」


一人でウンウン頷いている俺を、秋姉は不思議そうに見ている


「あ、えっと……そう、ドーナツ! レジ横のドーナツが結構うまいらしいんだけど、食べてみない?」


ごまかす俺を見て、秋姉は一瞬呆気にとられたような顔をした。だがそのあと、いたずらっぽく微笑み、ささやくように


「お姉ちゃん、太っちゃうよ?」


「ゲハァっ!」


たまらず膝をつく!


「き、恭介?」


「ち、ちょっとつまずいただけ、平気平気」


なんてことだ、俺が進化する倍以上のスピードで秋姉もまた進化している


「さ、さすが秋姉」


俺の……俺の完敗だ!


「?」


「よーし、スッキリした所で色々買っていこう!」


「??」


水×4、お菓子×4、眠気覚ましのガム×1、つまみ×2、コーヒー×2、お茶×2。これらをカゴに入れていく


「こんなもんかな」


「ん」


「あと他には……あ」


菓子の棚にあるあれは、懐かしの五円があるでチョコ


「懐かしいな〜」


「……五円チョコ? 好きだったね」


「秋姉がよく買ってくれたし、うまかったから」


俺がイジメられていた頃、泣きながら帰ってくる俺に秋姉はいつもオヤツをくれた


月の小遣いなんて、500円も貰ってなかったから、買ってくるのは安いものばかり。それでも最高に美味しかった


『う、ぐす……みんな嫌い! もう学校行きたくない!』


『恭くん……、ねぇ恭くん。お口をあけてみて』


『え?』


『あーん』


『あ、あーん……あれ? 甘い』


『……おいしい?』


『チョコ?』


『ん。……おいで』


『ひざまくら?』


『うん。……今日は一緒にいよう?』


『秋お姉ちゃん……』


『大好きだよ、恭くん』


秋姉は俺が落ち着くまで、ずっと側にいてくれた。言葉は少なかったけど、正直かなり救われていた


それにしても……。昔から甘やかされてるよなー俺って


去年だって反省する点は多々あった。今年こそは真面目に生きなければ


「……恭介?」


「五円チョコ、買ってこうか」


「ん」


どうせ姉ちゃんの金だ、ドサドサ買ってやる!


「よし、50個! 秋姉は何か欲しいものないの?」


「ん……平気」


「そっか。それじゃ買ってくるよ」


「ん」


あざっしゃっしゃー!


眠そうな店員の見送りを背に、コンビニを出る


「さみ〜!」


やっぱ外は寒い!


「秋姉は寒くないの?」


中と外、表情が全く変わらない


「ん、寒い」


秋姉は首を縮こませ、ふるふると震えた


「あ、寒かったんだ。そりゃそうだよね」


秋姉ならマイナス30度ぐらいまでなら平気だと、勝手に思ってしまっていた


「山も寒いかな」


もっと厚着の方が良かったか?


「……きっと歩いてれば暖かくなると思う。それでも寒かったら……手を繋ぐ?」


新年早々いきなりビッグボーナス!?


い、いや、俺は真面目に生きると誓ったんだ。いつまでも秋姉に甘えている訳にはいかない!


「あ、いやほら、俺の手は握り心地が悪いから」


よし、えらい俺。こうやって少しずつ姉離れを……


「……恭介の手、温かくて好きだよ」


「うっおー、めっちゃさみー! 手を繋がないと山ごと凍るねこりゃ」


姉に弟が甘えて何が悪い! 弟は甘やかされて育つ、それが真理だ!!


「さー登るぞー!」


寒さは吹き飛び、気合いも入った。もはや誰も俺を止められねぇ!


「ん。……初日の出、楽しみ」


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