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ハッピークリスマス 6

雑になりましたが、ようやくクリスマスが終わりました。つ、次は正月……

「サンタっていつまで信じてた?」


柚子がいない間の暇潰しトーク。テーマは純真だ


「4歳。それ以降は信じてるフリをしていたわ」


「早いな」


俺は忍者みたいなサンタだったせいで、8歳ぐらいまで気付く事が出来なかった


「新谷はどうだった?」


「僕は小学生の頃でしたね。正確な時期は分かりませんが」


「俺はつい最近まで信じてましたぞ!」


「へぇ……」


カチャ。基本どうでもいい話の中、ドアが静かに開く


見ると、サクロースの帽子をかぶった柚子が入って来た


「メ、メリークリスマス。ケーキです」


持っているトレイには薪みたいな形のケーキが2つ。それと15号ぐらいのイチゴケーキだ


「よっ、待ってました! すげー美味そうじゃん」


「う、うん。えへへ」


少し重たいらしく、微妙にふらつきながらも柚子はテーブルにトレイ置き、


「第一弾です。第二弾もすぐに持ってくるから、食べていてね恭にぃ」


と、小悪魔な笑顔で再び出ていく


「第一弾……」


すでに5人で食うには充分すぎる量だが


「柚子を甘くみてはいけませんよ、マスター。彼女はテルモピュライのペルシャのように圧倒的な戦力をもって僕達を追いつめるでしょう」


「ならお前はレオニダスだ。死ぬ気で食えよ?」


俺もそれに準じよう


「アホな会話してないで早く食べなさい。美味しいわよ」


「西洋の菓子はまこと奇っ怪な形をしてますなぁ」


鈴花は小さく切った薪ケーキを上品に、赤田は一本の薪ケーキを手に丸かじり


「赤田がいれば余裕か」


俺も残った薪を半分に切って一口


「うん、うまい。これってロールケーキ?」


メレンゲに包まれたスポンジはしっとりふわふわで、中は甘さ控えめのマロンクリーム


乗っている栗はグラッセか、甘くてフルーティなチェリーリキュールの香りがする


「ビュッシュ・ド・ノエルというロールケーキだと思います。フランスではクリスマスの定番らしいですよ」


「ふーん」


すぐに忘れそうな名前だ


「それにしても柚子はセンス良いよな。こっちのケーキも、うまそうだし」


「それを柚子が聞いたらきっと喜びます」


「なら後でみんなで言ってやろうぜ」


その後、第二弾ケーキ(さっきの倍)を照れる柚子と一緒に食い、余ったクラッカーなんかを鳴らして雑談していると、あっという間に7時を過ぎた


「それじゃ、さようなら。楽しかったわよ」


「では俺も。世話になったな新谷、童女」


鈴花は門限が近いということで帰る事になり、それを赤田が送る


そして残ったのは俺と新谷兄妹、大量のコップに汚れた皿


「祭りの後……か」


なんとも言えない気だるさ、もの悲しさがある


「さーて、もう少ししたら俺も帰るか」


「本日はありがとうございました」


「それは俺らの台詞だろ。今日は楽しかった、ありがとう」


握手でもしたい気分だぜ


「柚子もありがとな」


「う、ううん。わたしの方こそありがとう」


「いやいや、俺の方がありがとう」


「え!? え、えと、あ、ありがとう」


「いやいやいや俺が」


「マスター、あまり柚子を困らせないであげて下さい」


新谷は苦笑いで俺をたしなめる


「悪い悪い。柚子が可愛くてつい調子に乗ったわ」


って、おっさんか俺は


「や、やだ恭にぃ……恥ずかしいよ」


「恥ずかしい?」


「……しらない」


新谷の後ろに隠れてしまった。まずいなマジで調子に乗りすぎたか


「あーと、そうだ! 渡したいものがあってさ」


部屋の隅に置いといた紙袋の前に行き、来る前に買ったプレゼントを取り出す


「これ。柚子に」


1/144スケール、触手モンスターハスターさん。41センチもある不気味な模型だ


「あ、それ……。どうして?」


これを欲しがっていたのは調査済みだ。柚子の瞳に驚きと戸惑いが混ざっている


「今日は柚子が頑張ってくれたおかげで本当に楽しいパーティーだった。だからこれは俺達から柚子へのお礼、受け取ってくれるか?」


「…………」


柚子は新谷から離れ、恥ずかしそうに俺の前へ来てくれた。そして俺を見上げて


「わ、わたしにプレゼント……、下さいサンタさん」


「ああ、どうぞ。メリークリスマス」


柚子の手にハスターさんを渡す。柚子は笑顔でそれを抱きしめた


「可愛い!」


「う、うむ、可愛いな、ははは」


不気味だが喜んでるならいい。ほぼ無一文になったかいがあったぜ


「……参りました」


「ん?」


「柚子は一度機嫌を損ねると、三時間は口をきいてくれません。それなのに短時間で二度も柚子の機嫌を直すなんて……」


さすが平成のシスコン王ですね。新谷は爽やかな顔で言ってくれやがりました


「シスコン王?」


新谷と俺の顔を見比べて小首をかしげる柚子。単語の意味を理解していないらしい


「……どこでそれを知った?」


ひた隠しにしていた称号を


「鈴花先輩が教えてくれました。マスターは変態だから気をつけなさいと」


「あのやろう……」


春休みに【秋姉と行く公園お花見散歩ツアー】に参加させてやろうと思ったが、取り止めだ


「ですから僕も最初はマスターを変態だと思って、柚子に会わせるのを躊躇しました」


「おいこら」


「本当に最初だけですよ。知り合っていく内にマスターの優しさや大きな器、懐の深さに感服しましたから」


「や、止めろー!」


めちゃくちゃ恥ずかしい!


「先ほども言いましたが、これからも柚子の事をよろしくお願いしますねマスター」


「う、うむむ、そう畏まれても困るんだが……。柚子はいい子だし、大切な後輩の妹でもある。だから出来る限りの事はする、なんかあったら俺に言え」


柚子の一人や二人、養ってやるぜ! って養ってどうする



「恭にぃ? 兄さま?」


話についていけてないのだろう、柚子はきょとんとした顔で俺達を見比べている


「なんでもないよ柚子。さぁ最後に庭へ出てみようか、ツリーを光らすよ」


どこか儚い笑顔で優しく柚子に語りかける新谷。少し心配になってくるな


「梶井 基次郎的な展開になるんじゃねーぞ?」


「え? ふふ、大丈夫ですよ。僕は丈夫ですから」


「まぁなぁ」


俺より元気かもしれん


「うぉ、寒っ!?」


庭に続く食堂のドアを開けると、冷たい風が吹いてきた。その温度差に体が悲鳴をあげる


「この外履き借りて良いのか?」


「はい」


ベランダに置いてあったサンダルの中から一番大きなものを借りて、いざ庭に


「う〜寒い」


「手を繋ぎましょうか」


「なんでだよ!?」


そっちの趣味は無いぞ!


「柚子とですよ? ね、柚子」


「はい兄さま。……恭にぃ?」


左手を新谷に、右手をおずおずと俺に伸ばす


「ああ、そっか。はいよ」


ぎゅっと俺の手握る柚子。暖かいな


「こうしていると家族みたいですね」


妻娘夫


「や、やめてくれ」


おぞましい


「あはは。それでは電気をつけます」


新谷はポケットからリモコンを取りだし、ポチっとボタンを押す


次の瞬間、暗かった庭に光が溢れた


「……すごいな」


ツリーは純白。それを際立たせるのは、空から降る薄青の光


静かに、美しく。幻想的な光景に息を呑む


「ハッピークリスマス。いい年であるよう願いましょう」


お前はレノンか、なんて無粋なツッコミはせず、俺はただこの美しい光景を、小さくて暖かい手と一緒に魅入った



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