パッピークリスマス 5
「それじゃ始めるか」
メリークリスマス!
午後5時30分、食堂でクリスマスパーティーが始まった
買ってきたクラッカーを鳴らし、飲めや歌えや大騒ぎ。まぁ騒いでいるのは俺と赤田だけだが
「お寿司が届きました」
「おっしゃ! 寿司だ寿司だ〜」
「ワサビがないのは食べてあげる」
テーブルには寿司やチキン、飲み物がところ狭しと並んでいる。参加費3000円のパーティーとはとても思えない豪華さだ
「随分予算オーバーしてるだろ?」
「父が僕らに用意してくれた予算内で間に合っています。それなのに先輩方からお金を頂いてしまって……」
最初、新谷は俺達から金を受け取ろうとしなかった。だけど何とか説得し、ようやく受け取ってもらったんだが……
「全然少ないんだけどさ。ほんの気持ちって事で」
「……はい、ありがとうございます」
「こっちこそな」
しかしそれにしても豪華だ。ローストビーフは色鮮やかで、宅配寿司の器も明らかに高級。ちょいとつまんで食ってみると、どれもこれもが美味い
「ほんと、うまいなぁ」
今なら目の前で大トロばっか食ってる外道がいても、笑って許せるぜ
「か〜うまいっ! いくらでも食べれるなこれは。おや? どうしましたかマスター。そんな熱い目で俺を見て」
「ほんの殺意だ、気にするな」
20貫はあったのに残り3。ぶん殴ってでも止めるべきか
「恭にぃ、コップの氷持ってくるよ?」
氷が溶けた俺のコップを見て、柚子が側にやって来た。赤田の後ろを通る時、少し距離を空けたのは気のせいだろうか
「お、サンキュー。でも大丈夫だから食べてな」
「……そっか」
あれ? しょんぼりしてる?
「ごめん、やっぱり欲しい」
「うん! しょうがないから持ってきてあげる」
柚子は俺のコップを両手で持ち、てててと軽快に食堂を出ていく。やはり赤田は避けられていた
「甲斐甲斐しいわね」
「役に立てて嬉しいのだと思います。普段あのような日常的な事は、全て家政婦さんがおこなってくれますので」
「日常的な事?」
「はい。食事の用意や掃除、警護。後は入浴や着替えの手伝いなどを」
「……そう」
鈴花は困った顔で頷いた
なんだろう、俺が知ってる家政婦(は見た!)と新谷が言う家政婦のイメージが一致しない
「お前それ、家政婦ってより」
「いけないわ、マスター。そこから先は深淵よ」
「……だな」
深く聞くと、冥土に落ちてしまいそうだ
「お待たせ恭にぃ」
「サンキュー」
戻って来た柚子からコップを受け取り、茶を注ぐ。数回氷を泳がしたら飲みごろだ
「ふー、うまい。やっぱ茶は冷えてないとな」
「言ってくれれば、いつでも持ってくるからね」
「ああ、ありがとう」
「うん!」
特上の寿司に特上の笑顔。そして気のおけない仲間たち
ヤバイな、何か凄く満足してる。これじゃ来年も彼女いらないか?
「そういう台詞は、モテてる人が言うべきよ」
「ここにもエスパーが!?」
何故だ、何故考えている事が分かる?
「確かにその通りなんだけど……」
「だ、大丈夫だよ恭にぃ!」
俺が落ち込んでいると思ったのか、柚子は力強くフォローする
「恭にぃは、恭にぃはね。恭にぃは、ええと……」
「あ、いや、無理しなくても良いぜ?」
モテないのは事実だし
「あの、あのね……き、恭にぃは体が丈夫だよ!」
「……うん、ありがとう」
ありがとう、ありがとう
「くすくす。良かったわね、マスター」
普段、笑わない奴に笑われた
「確かにマスターは丈夫ですからな。俺も鍛えてますが、マスターには及びませぬ」
寒空の下、フンドシ姿で稽古する変態が何言ってんだ
「わ、わたし、丈夫な人、好きだよ? 病気とか駄目だもん」
オロオロと、必死に俺を慰めようとしてくれている。ええ娘や……
「ありがとな。丈夫なのは結構自慢なんだ」
丈夫じゃなければ、姉や妹(狂暴な方)の相手なんか出来やしないぜ
「新谷も風邪とか引くイメージないよな?」
体は細いが、弱々しい感じはない
「柚子に嫌われたくありませんからね。多少なりとも鍛えています」
「に、兄さま。変な冗談は止してください」
「ごめん、ごめん」
「……もう」
爽やかな兄に、可愛い膨れっ面の妹。ほんと絵になる兄妹だよな〜
「あー食った食った、食いすぎた。暫くはマグロを食いたくないな」
この野郎、結局一人で大トロを食いやがった
「ま、俺も色々食ったけどさ。ごちそうさま」
寿司桶も殆ど空になった。後はいよいよケーキか?
「ごちそうさま。美味しかったわよ」
鈴花はタマゴやカツオなど、ワサビが入ってない物ばっか食っていた。よし、こいつとは割り勘友達になろう
「僕もごちそうさまでした。柚子は――」
「ごちそうさまです兄さま! あっ、わたし、少し用事を思い出しました。行ってきます!」
いそいそと部屋を出ていく柚子。さて、ベルトを弛めるとするか