ハッピークリスマス 2
午後3時50分。さっき買ったプレゼントを片手に、再び駅前へ
ここに戻ったのは人と待ち合わせしていたからなのだが、その相手は既に来ていたらしい
「よう」
「遅いわよ」
声を掛けた俺を、への字眉で睨み付けるチビッ子、鈴花。我が会の預言者である
「まだ時間前だぞ」
「たとえ約束の時間より前だとしても、私を待たせた事実に変わりはないわ。以後気を付けて」
「分かった、分かった」
見た目は小学生の癖に、中身はバブル期の女子大生並みに厳しい
「つか今日は珍しい格好してるけど、自分で選んだのか?」
ふんわり白ニットに赤のスカート。季節に溶け込みつつも、暖かみがある
「なにそれ。馬鹿にしてる?」
「そうじゃなくて、いつもと雰囲気の違う服を着てるから、ちょっと気になっただけだよ」
普段はシンプルなブラウスにサスペンンダー付きのショートパンツ、そして変な柄のネクタイ。こんなセンスの奴が普通の格好してきたから、少し面食らってしまったのだ
「やっぱり馬鹿にしてるわ」
「言い方が悪かったか、ごめん。そういう格好も似合ってるぞ」
雪葉にも似合いそうだ。今度一緒に服でも見に行こう
「……貴方に褒められても嬉しくないけれど、今日は素直に受け取ってあげる。それじゃ行きましょうか」
「ああ」
そして俺達は並んで歩き出す。デートですかって? いいえ違います
答えは、さっきの回想の続きになるのだが――
『柚子の事?』
『はい。最近、柚子の様子がおかしいのです』
『どんな感じでだ?』
『クリスマスが近付くにつれ表情は沈みがちになり、夜ともなればどこか物憂げに星を見上げている、そんな様子です』
『そういう年頃なんじゃないか?』
『ひょっとしたら僕に内緒でサタンを呼び出すつもりかもしれません』
『そこはサンタにしとけや』
『レコンキスタのですか?』
『そりゃサンタマリアだろって、変なツッコミさせんな!』
『すみません。ですが、流石マスター。まるでプルソンと話しているかのような心地よさ』
『誰が序列20番目の王(物知り屋さん)だ』
おっと、無駄に話が長くなりそうだ。短くまとめると……
海外で勤務中の柚子の両親は、クリスマスに合わせて日本へ帰って来るはずだった。だけど急遽帰れなくなり、柚子は寂しそう。それで新谷は柚子を慰めるべく俺達をクリスマスパーティーへ招待したって訳。わー簡潔
「プレゼントは買ったし、サプライズは用意してあるし。クラッカーとかも買っておくかな」
この時期ならコンビニに売ってた気がする
「マメな男ね」
「せっかくやるんだし、楽しい方が良いだろ?」
雪葉達も呼びたかったが、向こうは向こうで軽いパーティーがあるらしい
「マメでモテないなんて可哀想」
飛べない鳥を見ているかのような、深い憐憫の眼差しだ
「お前ね……」
「だけれど貴方には秋様がいるのよね。それだけで人生の勝利者よ」
鈴花は沈んだ声で言い、羨望の眼差しで俺を見上げた。さすが秋姉、一気に評価が逆転だぜ!
「ふ、ふふ。その通りだよ鈴花君。秋姉ならば1人で3万人の勝利者を倒す事が可能だろう」
「馬鹿なの?」
「…………」
「馬鹿なの?」
「悪かったよ!」
そんな話をしている内に、新谷の家が見えてきた。相変わらずデカくて偉そうな家だ
「赤田はもう来てるかね」
「さあ。居ても居なくても、その存在自体もどうでも良い」
真顔で言っている所を見ると、本気でそう思っているらしい
「え、遠藤とかも来れれば良かったんだけどな」
遠藤と岡部は受験のため、欠席。リオンは教会でピアノコンサート。みな、それぞれ忙しい
「受験生だから仕方ないわよ。秋様は推薦?」
「10校ぐらいあったみたいだけど、全部断ったよ」
推薦で行ける所よりも、良い大学を目指す。そんな気概を持つ姉なのだ
「大学決まったら教えて。絶対、受験するから」
たとえ海外でもと、鈴花の瞳は熱く燃えていた
「お前なら秋姉と同じ場所に行けるかもな」
それに比べて俺は、学力が秋姉に届いていない。悪魔(長女)にみっちり勉強を教われば、なんとかなる可能性はある。が、その代償は計り知れないだろう
「どうしたの、マスター。死んだ目が腐ってきてるわよ」
「ちょっと未来に不安を……」
それにしても新谷の家は広い。もう門周りだってのに、まだ歩かせやがる
「今度、会のメンバーで泊まりに来てみるか。1日中遊べそうだ」
メシも美味いだろう
「女1人で貴方達と泊まれと?」
「お前を女だと意識してる奴は……た、沢山いるから危ないな」
飛べない鳥を屋上から突き落とす。そんな目で睨まれたら、そう言うしかない
「たぶん貴方、一生モテないわ」
「恐ろしい預言をするな!」
「ふん」
「けっ!」
顔を背けあう陰険な雰囲気の中、門の前に着く
「鈴花君、インターフォンを押してくれたまえ」
「ええ」
ピンポーン。重厚なイギリスアンティーク風の鉄製門には似合わない、軽い音が鳴った
「もっと金持ちらしい音にすれば良いのにな。ナリキ〜ンとかさ」
「金持ちですけど? 的な音声でも良いと思うわ」
「いいな、それ。それがどうかしましたか? って感じの傲慢さが良い」
やっぱ鈴花とは気が合う。こんな時だけだが
「あ、出て来たわ。今日は何秒かかるかしら」
「10秒だな」
玄関から出てきた新谷は、やっぱり10秒掛けて俺達の前にやって来た
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
鉄の門を開け、俺達へ爽やかな笑みを浮かべる新谷に、こちらも爽やかな笑顔を返す
優しげで金持ちな男前。おのれ新谷、爽やかキャラの座だけは譲らんぞ!
「本日はお忙しい中お越しいただきまして、ありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はしなくて良いよ、楽にいこう!」
「失礼しました。それでは屋敷の方へご案内します」
「分かったよ! それじゃ行こうじゃん」
「普通に話して。ウザったいから」
「……だな」
失敗を認めつつ新谷の後を追い、敷地内へと入る
庭には放し飼いにしている犬が3頭ほどいて、その内の2頭は窺っているのか、こちらをじっと見ていた
「あれって、ドーベルマンか?」
「はい、ヨーロピアンドーベルマンです。先月、番犬用にと父が送ってくれました。大人しくて可愛いですよ」
「ほぅ……」
犬は好きだが、あの大きさは流石に少しビビる
「本日は家政婦の方々が休暇をとっていますので、大したおもてなしは出来ないかもしれませんが、自分の家だと思っておくつろぎ頂ければ幸いです」
玄関のドアを開けながら、そんな事を言う
「……ちょっと聞きました鈴花さん」
「ええ、聞きましたわマスターさん。何、家政婦って。アホなの?」
「どうかなさいましたか?」
ヒソヒソ声で話す俺達に、新谷は不思議そうな顔を向ける
「けっ、ブルジョワが」
「ぼけ、かす、こけろ」
口悪いなコイツ
「あはは、参りました。どうぞお入り下さい」
く、爽やかにかわしやがった
「邪魔するぞ」
新谷に促されて入った玄関は相変わらず広く、靴の置き場に困ってしまう
ホール中央には、3メートルはある巨大な観葉植物が……
「でか!?」
前、来たときは無かったのに!
「え? ああ、パキラですね。空間が寂しかったので、先日モミノキと一緒に購入しました」
駄菓子屋でうまか棒を買った、ぐらいのノリだ
「ほ、ほほぅ、なるほどね。モミノキはツリー用に?」
「はい。本当は家の中に入れたかったのですが、10メートルとなると中々難しく、今は庭に置いてます」
「ふ、ふ〜ん、さすが金持ち、スケールが大きいぜ」
このやろう畜生!
「呪われれば良い、一生モテなくなれば良い。そうだ鈴花に頼もう、鈴花に奴を呪ってもらおう。黒幕は俺。そう思ったわね、マスター」
「思ってねーよ!」
自分が呪いたいくせに、俺のせいにするつもりだな!
「だいたいお前は術者じゃなくて預言者だろうが……。あ、そういや赤田はもう来てるのか?」
自称剣士
「ええ。今は風呂に入っていらっしゃってます」
「何でだよ」
クリスマスに人の、それも後輩の家の風呂に入る理由が分からん
「10キロほど走ってからお越しになられたらしく、汗で体が冷えていましたので、風呂をお勧めしました」
「馬鹿かあいつは」
「今頃気付いたの?」
言い放つ鈴花。なんて冷たい目だ
「い、一応俺達の先輩なんだから、もう少し尊敬してやろうぜ」
形だけでも
「新谷には迷惑を掛けてるな、すまん」
「赤田先輩の様に豪快で男らしい方は、僕にとって憧れですから。迷惑なんて事はありません」
「そ、そうか」
フンドシ一丁で町中を歩く。それも1つの男らしさなのかもしれない