ハッピークリスマス 1
腰の骨折で入院してました。天井を眺める日々は、ただただ地獄だった
クリスマス、正月、バレンタイン。あえて今書く、新しいスタイル
ピコピコピコリ、パピペポラー
《KO!》
「や、やられた」
「腕が落ちたなハロウィン・キッド」
「くっ!」
男達の挽歌、クリスマスのゲーセン
Fと駅前で別れ、気まぐれにゲーセンへ立ち寄った俺を迎えたのは、かつてのライバル達とランキング戦だった
その中で現在ランキング3位に君臨するハロウィン・キッドが、俺と格闘ゲームで勝負したいと言ってきた
そして奴との闘いの末、俺の圧勝。今に至る
「この短期間に一体何があったと言うのだ、キョーよ! その強さ、クイーン(インフィニティ・フラット・ガール)をも凌ぐ」
「孤独」
「こ、孤独?」
「それだけが男を強くする。故に貴様は俺に勝てぬ」
そう、彼女連れでゲーセンに来やがった貴様にはな!
「そ、そうか、俺は幸せと引き替えに、愛と引き替えに力を失ってしまったのか!」
慟哭し、うちひしぐキッド。そのキッドにそっと寄り添い、慰める彼女
果たして本当の勝者とは
「……で、どうすんだ。もう一戦、別ゲーやるか?」
「いや、負け犬は去るさ。それに今日はこの子と映画を見に行く約束してるから」
さっさと行けやボケ!
クリスマス。みんなの心が一つになる素敵な日
10分後――
「はん、キッドのやつクリスマスに彼女とデートだってよ! 日本男児として恥ずかしいぜ」
HAHAHA
店内のみんなが無表情で笑う。そう、俺達は孤独のヒーロー
「よしKO! 次の相手は?」
こうなったらトコトンやってる!
「ヘイ、キョー。もうこの店にアンタと戦えるタフガイはいないぜ」
「キョー兄ちゃんは日本一の孤独者。だから、最強なんだ!」
「ははは、こやつめ」
応援してくれる少年の頭をゴリゴリと撫でた後、俺は店を飛び出る。居たたまれなくなったのだ
「……ふー」
白い息を吐いて、両手をジャケットのポケットに突っ込む。木枯らしは暖房で暖まった俺の体を冷やし、早くも店内を恋しくさせた
「クリスマスかー」
今年も家族クリスマスなのだが、別にそれでも十分楽しいんだよな
あ、もしかしてこの感覚が、もう女は飽きたぜってやつ? ふふ、とんだプレイボーイだぜ
「…………」
虚しい
ジングルベール、1人のやーつ、死んじまえ〜♪
帰り道、駅前の商店街へ入ると、さっそく攻撃的な歌が聞こえてきた。人間でも入っているかのような、大きな袋を背負う赤い死神の姿も見える
カップルなどの姿も目立ち、てかコロッケ片手に商店街デートかよ。健全すぎて応援したくなってくるじゃないか
「……さむ」
体が冷えてきた。約束の時間までは、まだあるし、行きつけの喫茶店で茶でも飲んでくか
「と言う訳で、店内と店主の頭が寂しい喫茶店に入り」
「悪かったな!」
カウンターで美味いコーヒーを片手に、新聞読んで時間潰しだ
「まったくもう……。はい恭介君、これおまけ」
頭が寂しい店主は、俺の前にプリンを置いた
「ありがとうございます。しかしクリスマスだってのに、休まずに仕事をしているんなんてマスターは偉いですねぇ」
喫茶、エルキュール。マスター岡田 武、41歳バツイチ
「恭介君もカップル溢れるこの店に、1人で来てくれてありがとう。普通、なかなか1人じゃ入れないからね」
「あっはっは、どういたしましてハゲ」
「あはははは未来の君だよー」
とまぁ、このオッサンとはこんな風に憎しみ……もとい軽口を叩き合う仲だ。俺の隠れ家と言っても良い落ち着く場所なんだが
「今日は混んでますね」
7つあるテーブル全てがカップルで埋まっている
「クリスマスにこの店でコーヒーを飲むと、良いことが起きるってジンクスがあるんだとさ」
若干、うんざりした声だ
「あまり嬉しそうじゃないですね」
「落ち着いた店ってのが売りだからさ」
ああ、なるほど
「ま、今日ぐらいは良いじゃないですか。みんなの幸せ運ぶハゲタクロースって事で」
「良かねぇよ」
んな感じでグタグタと話していたら、店の鳩時計が3時を報せてくれた。なかなか良い時間だ
「そろそろ引き上げます。プリンごちそうさまでした」
「あいよ。来年も宜しくね」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
会計をして、店を出る。次はオモチャ屋だな
さて、何故俺が家に帰らず商店街をぶらついているかと言うと、その理由は先週にある
では唐突に。
先週の回想〜
『マスター。マスターに相談にのっていただきたい事があるのですが、お話してもよろしいでしょうか?』
夕暮れ時の会議室
【クリスマスを前に秋姉へアプローチかけてくるド外道どもをヴァルハラにブチ込む会】の会議終了後、熱くなった頭を窓際で冷やしていた時に新谷が話し掛けてきた
『いいよ、今話せるか?』
『はい。相談させていただきたいのは、クリスマスの事です』
『クリスマス?』
クリスマスの相談つったら……
『恋愛相談か?』
そうだったら逃げよう
『いえ、そう言った話ではなく、妹の柚子の話です』
『柚子の?』
『はい。実は――』
「ありがとうございました〜」
買い物が終わり、回想も中途半端に終わったところで、時刻は4時を過ぎた。もう少しうろついたら新谷の家に行こう