春のカッパ騒動 11
「回転寿司でカッパ巻き食うと損した気分になるのは何でだー」
原価が安いからだー
「…………」
さて、長い回想が終わり現在。競技場の中央に集められた俺達は、司会者と見られる黄金カッパの演説をずっと聞いている訳でして
「……来るんじゃなかったわ」
花梨の言葉が俺達の総意と言っても良い。春菜ですら若干ウンザリした顔をしている
「なんかまた眠くなってきた」
「頑張れ」
兄は耐えているぞ
「さぁ盛り上がって来ました!」
「微妙」
司会者の言葉に千里はつまらなそうに返し、妹大会の方が面白かったと俺を見上げて言う
「あの大会、気に入ってるんだな」
「うん。金髪の珍プレイいっぱいあったし、恭君もかっこ良かった」
「お、ありがとう。千里も頑張ってて偉かったぞ」
「メルシー」
「あいよ、ビッテシェーン」
フランス貴族っぽい会話だな
「それはドイツ」
「…………」
「さーおまったせしましたー! それではいよいよ紳士淑女の祭典、勝つか負けるか笑うのは誰だ! みんなで見よう世界ウルトラ横断カッパクイズの開幕ッッ!!」
ヒャッハー!!
カッパ祭りじゃあぁぁ!!
昭和の香り漂う呼び掛けに、会場にいるオッサンらが雄叫びをあげた。凄まじい熱気だ
「よ、ようやく始まってくれるな」
「うん」
俺を温かく見守っている、千里の視線が痛い
「あ、そうだ春菜……春菜?」
「…………」
返事がない。ただの屍のようだ
「って、どうした? 調子悪いのか?」
目を閉じてフラフラしている
「……後5分だけ寝かせて」
「寝てるだけか!」
どうりで静かだと思ったよ
「さて第1回目の今回は、8月20日に地方テレビでの放送を予定しています」
「放送!?」
春菜の心配をしている間に、えらい話が飛び出してきた
言われてみると、確かにカメラや機材を担いだカッパがあちこちにいる
「またテレビ? 安い番組には出たくないんだけど!」
リサはベテラン女優みたいな事を言い、花梨にはこのぐらいがお似合いかもねと嘲笑う
「…………」
「あら、何か言いたそうね花梨ちゃん」
フフンとにやけるリサ。花梨はそれをチラ見し、
「別に」
「え!? な、何でよ! いつものように私を罵倒すればいいじゃない!」
罵倒されてる自覚はあったのか
「バーカ」
「何で千里が言うのよ!?」
「言ってほしそうだったから」
「私は花梨に言ってほしいの!」
その発言に俺と花梨が凍りついた。もしかしたらと思ってはいたが、まさか本当に……
「あ、あんた」
「ドン引き」
リサから距離を取る花梨&千里。当の本人はキョトンとしている
「なにを……あっ! ち、違うから、別に花梨だけとかじゃなくて、みんなに言われたいんだからね!」
「…………」
「…………」
「…………」
やべぇ、こいつマジだ
「あ、あれ? 私、間違えた?」
リサは戸惑った顔で俺達の様子を伺っている。なんて声を掛ければ良いのやら
「もうリサは遠くに行ってしまった」
「思えばアホな子だったわね」
2人は遠くの空を見上げ、かつての友人を懐かしそうに語った。美しい青春の1ページに見えなくもない
「な、なによぉ、2人で私を馬鹿にして」
む、マジでヘコみやがった
「あー、ほれ、なんかめっちゃ盛り上がってるぞ」
場を和らげようと適当に言ってみたのだが、確かに会場は盛り上がっている。周りの声を聞いてみると、あのレジェンドが帰ってきたとかどうとか
「なんか有名人がこの大会に来ているらしい」
奇特な人もいるもんだ
「その方は6人の妹様を引き連れ、見事優勝した、そうあのお方です!」
まさかあのお方が!? と、会場の中年達は盛り上がっているが、アホとしか思えんな、そのお方
「そうです! この大会のスポンサーでもありますカ〇ビー様が主催した妹大会。その優勝者、平成のシスコン王佐藤 恭介様が参加して下さったのです!!」
俺か!?
「うっおーすっげー、生のシスコンだー!」
「坊や見てごらん。あれが平成のシスコン王と呼ばれる偉大なお方だよ」
「や、止めろおぉぉー!」
カメラを向けるなぁああ!!
「あ、あんた……」
「キモいッ!」
「ドンガバチョ」
「お前らだって関係者だからな!?」
そして渋すぎるぞ千里!
「あちらの方が伝説のシスコン王、佐藤 恭介様です! どうぞ皆様、惜しみない拍手を!!」
パチパチパチパチ
「ぐっ……」
なんて屈辱だ
「佐藤 恭介様は妹大会で素晴らしいシスコン振りを見せて下さいました。そしてそれだけではなく、カ〇ビー系列のデパートイベントにて妹様とお接吻をなされ、見事優勝したベスト禁断カップルでもあるのです!」
あのイベントもコイツらが絡んでやがったのか!
「おせっぷん?」
「お接吻。昔の武士がやっていたやつ」
「それは切腹でしょ。そんな事より妹とって……」
「い、いや、あれは」
うまい言い訳が思い付かない。ピンチだぜ!
「よくある事よね。アタシも弟達にされるもの」
あら、助かった?
「ま、まぁ俺達の場合は半分強制的にさせられたもので、別にシスコンとかじゃなくて」
「恭介様はシスコンである事に誇りに持てと私達に教えてくれました。妹が好きで何が悪い、俺は恭介だシスコンだ。シスコンと書いて恭介と読め、世界中のシスコンを恭介と呼べ。俺の妹は俺のもの、お前の妹も俺のもの等、数々の名言を残し」
「も、もう止めてくれ〜!」
捏造があまりにも酷くて涙が出そうだ
「佐藤お兄ちゃん……ちょっとそこのカッパ! そんな話はどうでも良いから早く始めなさい!!」
「す、すみません! 英雄の登場でつい興奮してしまい、話を広げてしまいました。と、とにかくそんな凄い人もいる中、カッパ大会の始まりです」
花梨の鋭い一声に、夢心地で喋っていた司会者が我に返った。流石花梨、ポスト夏紀と呼ばれるだけはある(俺だけ)
「花梨カッコいい……」
リサが花梨の横顔をポーと見ているが
「……なによ?」
「ひ、ひとりごと! 別に貴女に言った訳じゃないんだから勘違いしないでよブス!!」
名前呼んでたがな
「な、なにお〜」
「なによ!」
睨み合う2人。寝ている1人に、空を見て我関せずな1人
俺ももうズタボロだが、こんな状態で戦えるのだろうか