春のカッパ騒動 9
もうすぐインターハイなので。その1
・徳永 綾音(表バージョン)
土佐の白狼、日永 宗院の最初で最後の弟子
常に冷静で、寒さを感じさせるほどの美貌を持つ彼女は、都内の選手達から氷の女王と呼ばれ恐れられている
剣道の基本スタイルは、受けが得意なカウンター型。精密機械のような正確さと、僅かな筋肉の緊張すら見逃さない動体視力が彼女の武器
本人は謙遜しているが、実力は秋とほぼ互角。秋との戦いでは、奇策に走りすぎた(師匠が悪い)
性格は真面目。目上を尊敬するし、目下への面倒見も良いので部活内では大人気
品が良くておしとやかな人なので、普通なら友達100人ぐらい楽に出来そうなものだが、何故か友達は少ない。彼女のクラスメートによると、仲良くなったつもりでいても、どこか壁のようなものを感じる時があるそうな
・麻代 真葉
剣道インターハイ個人2連覇中の最強女子高生
強迫観念でもあるのかってほど自分に厳しいが、他人にはそうでもない
毎日適当なルールを作って、それを守っている。一例をあげると、学校まで誰とも目を合わさないとか、公園で知らない人の隣に座ってみるとか。以上のように、少し変わった性格をしているが、付き合いにくい人間ではない
休日の練習量は10時間を越え、その努力に応えるかの如く無限の才能は伸び続ける
この小説で1、2を争う化け物。秋のラスボス。例によって美人だが、ほとんど笑わない。ちなみに笑い方はキモい
・六桜 静流
虫。彼女の試合を見ると、思わずそう言ってしまうぐらいピョンピョン動きが早い
その事を彼女に言うと、虫ですか……。と、しょんぼりしてしまう
鬼のように厳しかった父親を強く憎み、恐れていたが、同時に深く尊敬もしていた
稽古以外、何かをしてもらった記憶はなく、優しい言葉すらかけて貰えなかった。それでも静流は、父との繋がりを求めて戦う
宗院とは幼い頃からの知り合い。なついていた
・宮田 かなた
人を小馬鹿にしているような態度を取り、実際小馬鹿にしている小悪魔な人。尊敬する相手には、忠実
何となくで剣道部へ入り、何となく日々を過ごしていた頃、練習試合をしに来た秋の試合を見て一目惚れ(恋愛感情ではない)それからは熱意をもって部活に励んだ
毎日かなり走り込んでいるため、強靭な足腰。飛び込みのスピードは高校生トップクラス
綾音とも3度対戦しているが、全敗(だから大嫌い)
「牛が好きかー!」
好きだー
「カッパは好きかー!」
わりと好きだー
「カッパの国に行きたいかー!」
そーでもねー
「…………」
今、目の前で起きている光景を、どう説明したら良いだろう
地元の競技場にて正装を身に付けた老若男女が、何十匹かのカッパに囲まれて叫んでいる。この説明で、何となく理解して頂けるだろうか。うん、出来ないね
では、少し時間を戻してみよう。そう、ファミレスを出た後の話だ。ファミレスを出た俺達は、橋を目指して歩いていた
「んー眠気とれた」
体を伸ばし、ぐいっと反り返る。形の変わった胸が、辺りを歩いていた数人の男どもの視線を集めた
「気を付けろよ。露出が多い服なんだから覗かれちまうぞ」
胸元、背中とぱっくり開いているデザイン。もし秋姉がこんな服を着てしまったら、地球の温暖化が加速しかねない
「涼しいけどな。これからどうする?」
「それなんだけど……って、なんだこの視線は!」
何もしていないのに、すれ違う人々みんなが凝視してくる。うちの姉妹達と歩いていると嫌でも注目されるが、これはちょっと異常だ
「なーんか見られてんな」
「やっぱ気付くか。ドレスだから目立つのかね」
とはいえ、見られているのは春菜だけな気がする
「お前の格好がちょっとエロいから、つい見てしまうのかもな」
「えっち」
春菜は腕で胸を隠す仕草を見せるが
「冗談でも止めてくれない?」
いつか本当に社会から抹殺されるぞ俺
「つか賞品の為とは言え、ここまでする価値あるのかね」
金も随分減ってしまったし、今のところ後悔しかない
「パーティーで、なんか旨いもん食えるかもよ?」
まだ食う気か
「つか、まともな食い物が出るとは限らんぞ。なんせカッパ☆パーティーだし、出てもキュウリとかじゃね?」
「キュウリかー」
あんまり興味なさそうな顔だ
「キュウリと言えばさ」
「ん?」
「ケツに刺すと風邪が直るんだぜ?」
「そりゃネギだ」
「あ、そうだっけ。今度兄貴が風邪引いたら刺してやるよ」
「止めろ」
「目怖っ!」
恐ろしい事を言う春菜を睨みながら歩いていると、前の方に似たような格好をしている人達を発見した。橋の方へ向かっているみたいだが、パーティーの参加者だろうか
「タキシードって、河川敷には本当合わないよな」
紳士どころか変態にすら見えてくる
「私なんかカツラにドレスだぜ? かいーし、歩きずれーしマジ馬鹿みてー」
「お前は美人だし様にはなってるだろ」
ドラマの撮影に見えなくもない
「な、なんだよもー。今日は褒めすぎだぞ! んな褒めたって何も奢んねーからな?」
「期待してねぇよ」
生まれてこのかた、こいつに奢られた記憶がない
「でも手は繋いでやるよ。ほら」
「だからいらんて」
何でこんなに繋ぎたがるんだ?
「と、ようやく橋に着いたな」
橋の前には意外と多くの人が集まっていて、やれカッパだなんだと賑わっていた
「大人ばっかだな」
タキシードなオッサンだらけ。暑苦しい
「あ、だけど少しは子供もいるか」
大人達から少し離れた場所でたむろっている。ヒラヒラふわふわなドレスが可愛らしい
「あれって花梨達じゃん」
「そうなのか?」
分からなかった。やっぱ目、悪くなってんな〜
「あいつらは強敵だぜ」
実力は妹大会で証明済みだ。風子がいないのが救いと言える
そんな手強いライバル達を見ていたら、その内の一人が近づいて来た。あれは花梨か
「お前達もここまで辿り着けたんだな」
そう言った俺に、花梨は複雑そうな顔をする
「…………」
「どうした?」
「瓶の、あのヒントを聞いたから、ここまで来れた。春菜さん達が見つけたヒントだったのに、勝手に使っちゃって……ごめんなさい」
しょんぼりと花梨は頭を下げる
「ああ、そっか。相変わらず真面目だな」
なでりなでり
「な、なでないでよ! 謝ってるんだからぁ」
顔を真っ赤にして怒るが、涙目なので怖くはない
「答えを見つけたのは花梨だろ? お互いの協力があったから、ここまで来れたんだ。だから謝る必要なんかないんだよ」
「でも……」
「それよりドレス似合ってるぞ。うん、かなり可愛い」
「かわっ!? に、似合ってなんかないわよ! バカじゃないの!!」
馬鹿って……
「なぁ、馬鹿」
「お前も言うな!」
ついに本音が出たなこの野郎!
「あ、わり間違えた。えっと、兄貴? なんか向こうで変な奴がみんなを集めてるぞ」
「変な奴? ……うわー変な奴」
橋の真ん中ら辺で、スーツを来たカッパが皆に何かを説明している
「俺達も行ってみるか」
「ああ。花梨達も一緒に行こうぜ」
「は、はい。……リサ、千里。覗いて無いで行くわよ」
「覗いてなんか無い!」
「見守っていた。捕まったらそう言えって言われた」
花梨が草場の陰に声をかけると、そこからリサ&千里が飛び出してきた。せっかくのドレスが草まみれだ
「はいはい。それじゃいきましょう、春菜さん」
「ああ」
2人並んで歩いてゆく。残された俺達
「……見捨てられたな」
リサが
「わ、私が見捨てたんだけど!」
「あえてね」