春のカッパ騒動 4
「入れ物に間違えられる生き物か」
水の精霊からヒントを聞けたのは良かったが、その答えが分からず俺達はブラブラさまよっていた
「春菜は何か思い付くか?」
またあの鋭い閃きを兄ちゃんに見せてくれ
「……そうか、分かったぞ!」
「もう解けたのか!」
やだ、やっぱりこの子、天才かも
「答えはフグだ!」
「なにぃ! その心は!?」
「なんか風船みてーだし水いっぱい入りそうじゃん。入れすぎたら破裂しちゃうけど」
「…………」
うちの妹は天才ではないらしい
「どうだ!」
「いや、違うと思うぞ」
そんなふんぞり返られても
「それじゃもうわかんねーよ」
ぷいっと横向く春菜さん。拗ねてしまったようだ
「ま、もう少し考えてみようぜ。む?」
麦わら帽子をかぶった女の子が、道の先からこちらに向かって歩いて来る。虫アミを肩に担いだその様は、渋さすら感じてしまう
「どしたの? ……んー、あれって雪の友達?」
「花梨だな。おーい」
手を上げて呼ぶと、花梨は帽子を深く被り直しながら踵を返し、そのまま早足で立ち去ろうとした
「どうしたんだあいつ。なぁ、春菜……は、春菜?」
うちの妹は消えていた
「よ!」
「キャア!?」
「早っ!」
消えた妹は花梨の隣に立っていた。何を言っているのか俺にも分からねぇ
「飯ん時以来じゃん。虫取ってんの?」
「い、いえ、虫じゃなくてカッパ……」
急に声をかけられて惑っているようだ。無理もない
「花梨〜」
手を大げさに振りながら2人に近寄る。花梨は、ほっとしたような逃げ出しそうな微妙な顔で俺を佐藤お兄ちゃんと呼んだ
「無理にお兄ちゃんをつけなくてもいいって」
「無理なんてしてない。それで……なによ?」
強気な目で俺を見上げる。うむ、いつもの花梨に戻ったみたいだ
「ちょっと探し物をしにきたんだよ。花梨は虫取りか?」
「……カッパ」
「カッパ?」
「捕まえに来たのよ、カッパを」
目をそらし、恥ずかしそうに言う花梨。小学生ですら恥ずかしがるものを、平然と求めている俺達って一体……
「なら私らと一緒じゃん」
「春菜さんも? ……佐藤お兄ちゃんも」
春菜の事は、へー意外。って目で見ているが、俺の事は馬鹿じゃないの? って目で見て下さってやがる
「別に信じてないからな」
「分かってるわよ。でもそっか、春菜さんが参加してるなら優勝するの難しそうね」
俺もいますよ〜
「んな事ねーと思うぜ。今だって答えが分からなくて詰まってるし」
「答え?」
「水の入れ物に間違えられる生き物。これがカッパを捕まえるヒントらしいんだけどさ、答えが分からないんだ」
眉間に皺をよせ、春菜は悩む。勉強する時も、こんぐらい真剣になってほしいものだね
「水の入れ物。それって……」
「花梨?」
「それってカメの事じゃないかしら。ほら瓶と亀で」
こいつ鋭い!
「天才はここにいたか……」
「負けたぜ!」
「な、なんなのよ、もう」
しかめっ面ではあるが、褒められて、まんざらでもなさそうだ
「しかしよく瓶なんて知ってたな」
最近じゃ見たことすら無いわ
「水道が止まった時の為に大瓶で雨水を貯めてるのよ。トイレ流すときに使えるでしょって何言わせるのよ!」
お、ノリツッコミ。やるな
「とにかく助かったよ、ありがとな」
「……それじゃアタシもう行くから。カッパが逃げちゃうもの」
虫アミを担ぎ直し、花梨は遥か先を見据える。こいつ、いい目をしてやがる
「つか一緒に行こうぜ。1人より2人、2人より1人って言うだろ?」
「戻っとるがな。だが俺も春菜に賛成だ、3人の方がいい」
かくれんぼの時にも思ったが、花梨は侮れない。俺達に足りないものを補ってくれる筈だ(頭脳)
「で、でも……」
いつもハッキリな花梨が、珍しく躊躇している
「都合悪いか? ……あ、そうか、リサと待ち合わせしてるのか」
なんだかんだ言っても仲が良い
「してないわよ。してないから」
二度言った!?
「あれに会ったの?」
「まぁ……な。この道を戻った所の広場で待ってるぞ。カッパの格好で」
「……何をやってるのよあの子は。呼び出して来たから何かあるとは思っていたけど」
妙に大人びた表情でぼやき、携帯を取り出した。そしてどこかへ連絡をする
「……もしもし? さっさと着替えて来なさい。着替えたら橋の前に集合。30分以内よ」
それだけを言って、電話を切った。うちの姉ちゃん並みの指示だ
「はぁ……。仕方がないから、今日はあれと行動するわ」
「そうか」
「だから春菜さん達とは一緒に行けないのだけど……ごめんなさい」
「いいよ。どっちが早く捕まえるか勝負だな花梨」
「ええ。……負けるわね、この勝負」
花梨の中でリサと行動する事は、敗北に繋がるらしい。どこか悟った風に言い、俺達へ別れの挨拶をして去って行った
「大変だな、あいつも」
花梨には苦労性の相が出ている
「私らも早く行こうぜ」
「ああ」
まずは亀を探さないとな