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春のカッパ騒動 2

速い――。俺は改めて、あいつの速さを思い知った


これが格差、これが現実。どれだけ必死に頑張っても、俺とあいつの差は広がっていく


そんなことずっと前から分かっていた。俺は春菜に勝てない


だけど、それでも俺はあいつの兄貴だ。あいつが自分の人生を一人で歩めるようになるまで、あいつの前に立ち、見守ってやりたい


だから、ようするに


「まだ負けるわけにはいかねぇ! ウォォォォ!!」


神様、仏様、秋姉様! 今この時この瞬間、俺に奇跡の力を!!


「ウォリャー!」


周りなんか見ず、前だけ向いてがむしゃらに走る!


「うわ!? 一気に抜かれた! 兄貴はえーじゃん」


ど、どうだ、これが兄の背だ。お前を守る兄の背中だ!


「うーヤベ、燃えてきたー。全力で勝負だ!」


「おう! かかってこ……あ」


っと言う間に抜き返えされて、


「だよねー」


今後は後ろから見守らせていただきます


「あれ? なんだよ、走るの止めるのかよー」


「もう疲れた。何もかもが嫌になった」


そうだ旅に出よう


「しょうがねーなー」


春菜は俺の隣に戻ってきて、手を握ってきた


「や、止めい。暑い暑い」


「遠慮すんなって、引っ張ってってやるよ。へへ」


前でグイグイ俺を引っ張っていく。ふ、立派な背中だぜ


「ほら兄貴、あそこ。あそこにいるだろ? 緑色の」


「どれ……ふむ」


春菜が指差す方を見ると、川辺にある草むらの中に、草木のものではない人工的な緑色が見える。それと


「……どっかで見たことあるな、あのちびっ子」


両手を上げながら、緑の周りを囲むように歩くちびっ子。宇宙と交信してるのかってぐらい、不可思議な動きだ


「とりあえず行ってみようぜ」


「ああ……手、離せよ」


「繋いでちゃ駄目?」


「駄目」


「兄貴はケチだぁ」


「ケチで結構。先いくぞ」


土手を降り、謎のちびっこに近寄る。途中、おかしな歌が風に乗って聞こえてきた


「カッパッパー、カッパッパー」


「…………」


見なかった事にして戻ろうか


「恭君、ちっす」


戻る前に声を掛けられてしまった!


「ち、ちっす。何やってんだ?」


「カッパ呼んでる。あれエサ」


「誰がエサよ!」


草むらからカッパが飛び出してきた!


「って、マジで何をやってんだお前らは」


俺の質問に踊るちびっこ、千里は動きを止めて真顔で言う


「リサがカッパを捕まえたいって言うから渋々協力」


「ちょっと!」


カッパは歯を剥き出しにし、威嚇。あーこれは狂暴な生き物ですよー


「馬鹿にした目で見ないでよ! これは花梨を騙す為なんだから」


両手を腰にあて、ふんぞり返るリサカッパ。顔だけ出るタイプの着ぐるみだなこれは


「……ん? 花梨を騙す?」


どういう事だ?


「うふふ、そうよ。さっき、花梨にこの辺りでカッパを見つけたわって連絡したの。浅ましい花梨は賞金に釣られ、私を見て喜び飛び付いてくわ。そしたら突き放して言ってやるのよ! あら、私を捕まえてどうする気? 確かに私は高貴で、まばゆいけれど、ダイヤモンドじゃないんだから捕まえたってお金にはならないわよ? あーはっは」


暇なのかな


「ビョーキだから気にしなくていい」


「ああ」


ダイヤと言うより、ただのカッパだし


「病気? 私、風邪なんか引いてないわよ?」


「リサは風邪引かない」


「まーね!」


晴れやかな笑顔だ。余計なことは言わないでおこう


「そういう訳だから、どっか行ってよ。花梨にバレちゃうでしょ」


「はいはい。じゃ二人とも、程々にな」


「ラジャった」


「早く来い花梨!」


「元気だな……。じゃまた」


別れを告げ、少し離れて待っていた春菜のところへ戻る。春菜は神妙な顔で「兄貴の友達って変わってるよな」と、おっしゃってくれた


「つーか雪葉の友達だぞ。さて発見したカッパは偽者だったわけだが、これからどうしようか」


「このまま歩いてようぜ」


「それは構わないが……」


何処かからか、芳ばしい醤油の匂いが漂ってくる。うまそうだ


「少し腹へってき……うっ」


なにこの輝いた目。何でこんな熱く見つめられちゃってんの俺


「兄貴……」


「…………なんか食う?」


「うん!」


満面の笑み。仕方ない、大阪へ行く金が足りなかったらゲームを売ろう


「分かったよ。何食べる? なるべく早く食えるものな」


「たい焼きとか?」


「あれば良いけど、この辺ってコンビニかラーメン屋ぐらいしかないだろ」


基本、川しかない


「あれは?」


「あれ? ……うわ」


あれは酷い


「カッパ饅頭、カッパ巻き。カッパとうもろこしにカッパ焼きはいらんかねー」


覇気のない声で屋台を引くオッサンが、道の先にいる。薄汚れたカッパの衣装が哀れすぎて涙が出そうだ


「……そうだな、あれにしよう」


売上に少し協力してあげたくなってくる


「やった! おっちゃん、カッパ焼き1つ〜」


「はい、ありがとうございます」


嬉しそうに駆け出す春菜を、これまた嬉しそうに迎えるおっちゃん。なんだか昭和の風景だ


「おや、君は……春菜さんでしたか。それに恭介君も」


「こんにちは宗院さん。バイトですか?」


「ええ。カッパブームに乗りまして」


「ブームですか」


いつの間に


「すぐ作りますからね」


屋台を広げ、鉄板に火をつけた宗院さん。どうやらカッパ焼きと言うのは、焼きそばの事らしい


「俺もカッパ焼きお願いします」


「ありがとうございます。では……ほっ、よっ」


熱したフライパンの上で肉や野菜、麺が舞う。具材が焼ける音と、漂うソースの匂いがたまらない


「うまそう! 超うまそうだな兄貴!」


「腕を組んでくるなって、暑いんだから」


親父に対してもそうだったが、こいつはスキンシップが過ぎる


「仕上げにこのカッパパウダーを入れて……」


カッパパウダー!?


「はい、出来上がりました。どうぞ」


「サンキューおっちゃん!」


透明な容器が閉められない程、たっぷりと入れられた焼きソバは、肉や野菜もたっぷりでボリューム満天。パウダーの正体が気になるところだが、唾がわいて食欲を抑えられそうにない


「いただきまーす!」


「いただきます」


もらった箸で一口


「う、うまい!」


並の腕じゃないぞ、このおっちゃん!


「ありがとうございます。つまみ食……味を研究したかいあります」


「本当うまいですよ。これならいくらでも食える」


味の濃さ、焼き加減ともにベストだ


「うまいな、春……」


「ごちそうさま! すっげーうまかった」


「早すぎ!」




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