第159話:春のカッパ騒動
《昨日、東京都〇×町でカッパを目撃したとの情報が相次ぎました。目撃者の一人である、田吾作さんの証言です》
《オラァ見ただ〜。頭に皿乗せた、とんでもねーバケモンを!》
「…………」
わりと近所だが……アホらし
「あにき〜」
朝10時。部屋でニュースを見ていた時、ドアがバーンと開かれた
「カッパ捕まえにいこーぜ!」
「……行ってらっしゃい」
どこまでも自由に
「兄貴も行こうぜ!」
「行かん」
「行こうぜ〜」
「行かんってか、はい寄るな。ズボンを履け」
春菜はチュニック一枚のみと言う、涼しすぎる格好なのだ
「ね〜行こ〜」
「行かないってか、すり寄るな。暑い」
たく、何がカッパだよ。見つけたいなら寿司屋にでも行けや
「ちぇ。見つけたら100万と松阪牛、一年分貰えんのに」
「カッパぜってー捕まえる!」
てな訳で、参加決定
「で、カッパはいずこに?」
「うちの中学近くの川付近。ランニング中に見たって奴がいるんだ」
「誰だよそいつ」
酒でも飲んでたんじゃないの?
「部活の後輩」
「ふーん」
それなら少しは信用できるかな
「じゃ行くべ」
「おー!」
拳を上げて気合い充分だが、
「とりあえず着替えてこい。パンツ見えちまうぞ」
妹のパンチラは地味に腹が立つ
「ん? ほら」
ちらり
「わぉ、パンツ丸見えフィーバーって、何でこんなにノリが良いんだ俺は!」
この陽気な性格が憎らしい!
「おもしれーな兄貴は」
「面白がるな! たく、あっちこっちで俺を変態にしやがって」
いい加減、泣くぞ
「な、なんだよ、私は兄貴を変態になんかしてないぞ!」
心外だと言わんばかりの顔だ。悪気や自覚が無いのだから恐ろしい
「……とにかく今後一切、俺とパンツを結び付けるな」
「わ、分かったよ。ちぇ」
「んじゃ、準備しよう」
さて、それから一時間後。やって来ました川の側
土手には走り回る子どもや、虫アミを持った腕白なオッサンの姿がチラホラ見える
「あっちの駐輪場に止めよう」
「ああ」
150台は止められる広い駐輪場は、既に殆どが埋まっていて、俺達は空いていた所へ乗ってきた自転車を止めた
「いたぞー、カッパだー!」
「向こうだ、向こうに行ったー!!」
「……盛り上がってるな」
オッサン達が、カッパを求めて一心不乱に走り回っている。この町は大丈夫なのだろうか
「お祭りみたいなものだからな。私らも負けてらんねーぞ兄貴っ」
ソワソワと、今にも飛び出して行きそうだ
「だな。じゃ適当に行くとしますか」
「おう!」
ん、いい返事だ
「とは言え、どういう風に捜す? オッサンらを追って、橋を渡るか?」
ここは川の下流層。平均幅が30メートルもあり、向こう岸に行く為には橋を渡る必要がある
「上流の方に行かない? 人少ねーし」
「ほう」
オッサン達を敢えて無視するのか。人が少ない分、発見さえ出来れば捕獲するチャンスだが
「結構な賭けだな」
無駄足になる可能性が高い
「ま、いいじゃん。見つからなくたって散歩だと思えばさ」
「意外とこだわって無いんだな」
カッパ捕獲に、もっと気合いを入れてるものだと思っていた
「んー。兄貴と一緒に出掛けられたし、捕まえられなくても良いかなって思ってきてさ」
「そうなのか?」
欲の無い妹だ
「昼飯奢ってくれるし」
「奢らねぇよ!?」
そんな金は無い!
「何だよそれ! そんなの聞いてないぞ!」
「俺だって初耳だよ! びっくりだよ!」
「ぐぐぐ」
「ぬぬぬ」
「ぐぐぐぐ……あ!」
睨み合っていたら、春菜が急に驚いた声を出した
「ど、どうした?」
「カッパ!」
「なにぃ? どこだ、どこに居る!」
捕らえて金に変えてやる!
「あそこに緑色のが見えた、行くぞ兄貴!」
「おうよ!」
俺達の戦いは、こうして始まった。しかしそれがまさか、あんなことになるなんて……