楓のお土産 2
ピロロン、パラポラー。パラポラピー
家に帰って、早速のロープレ。アイス片手にレベル上げに励んでいる
「ふむ」
だいぶレベルが上がって来たし、そろそろ次の場所へ行くか……お! レアモンスター見っけ
コンコン
「どうぞ〜」
鳴ったノックに振り向かず、入室を許可する。ゲームから目が離せん
「お邪魔します、お兄ちゃん」
「ああ雪葉か。どうした?」
くっ、逃げ足が早い敵だな
「うん。ねぇ、お兄ちゃん。私、お兄ちゃんに聞きたいことがあるの」
「俺に?」
ゲームを中断し、なんだいと雪葉の方へ振り向いた瞬間、俺は息が止まった
いくつもの死線(主に夏紀)を乗り越えてきた俺だからこそ分かる僅かな違和感に、危険を感じたからだ
そう、この違和感は俺を殺す
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「あ、い、いや……雪葉?」
「なぁに」
甘えた口調だ。にこにこ笑顔だし、おかしな所は何もない
しかしどうだ、この背筋を走る悪寒は。気を抜いたら殺される、そんな気すらしてきた
「お兄ちゃん?」
「う、うむ……」
何ビビってんだよ俺は。目の前にいるのは、いつもの可愛い妹じゃないか
「は、はは、ごめん、ごめん。で、どうしたんだ?」
「これは、なに?」
唐突に小さな唇から発せられた声は、至って穏やかだった。しかしその目は全く笑ってなく、一切の言い分、言い訳を聞きませんと雄弁に語っていた
そんな雪葉が手に持つ物は、得体の知れない怪物が描かれた布。それは
「そ、それは」
楓さんの……
「なに、かなぁ」
「な、なんでそれを雪葉が」
「お洗濯のお手伝いをしていた時に見付けたの。お兄ちゃんのズボンから」
「あっ!」
そういえばポケットに入れたまま、返してなかった!
「き、聞いてくれ雪葉」
「うん聞くよ、聞きますよ。ほら早く聞かせて、どうしたのおにーちゃん」
消えた。俺の築き上げて来た信頼は、いま完全に消え失せた
もはや雪葉に言い訳は効かない。きっと他人のパンツを平気で盗む、ゴミでクズなド変態のシスコンカス野郎としか思ってない
だが説得を諦める訳には!
「あ、あの、それはその……ま、間違えて持ってきてしまったものなんだ。だからなんの他意も悪意もなくて」
「そうなんだー間違えて持って来ちゃったんだーそれは困ったねー」
何を言ってるの、言い訳なの? 死にたいの、むしろ死ねばいいのにゴミ野郎。雪葉の心の声が聞こえる気がする
「う、うぅ」
どうしよう、どうしよう。この危機を乗り切るには、どうしたら良いんだ……
1、泣き落とし
2、冷静に解説
3、小話を交えつつ、説得
選択肢は3っつ。さぁ答えはどれだ!
1『お、俺は嫌だって言ったのに、楓さんが無理やり……。俺は被害者なんだ、可哀想な子羊なんだよ!』
『ふーん。じゃあ死ねば? 』
2『パンツと言うのはですね、元々は西洋からやって来た物なのですが、日本人、特に女性に普及したのは意外と遅く、一説によると1932年に起きた白木屋の火災がきっかけだったとする説が多く」
『ふーん。じゃあ死ねば?』
3『そこではっつぁん、驚いた! パンツが空から舞い降りて、あれよあれよとポケットに』
『ふーん。じゃあ死ねば?』
せ、正解が見えない!
「あ、あのな雪葉、その……」
「……お兄ちゃん。雪葉は、お兄ちゃんを責めている訳じゃないの」
「……雪葉」
ああ、やっぱり俺の妹は天使だぜ。見よ、この優しい顔を、微笑みを。これが世界に誇れる妹だ!
「これが何かを聞いているだけだよ?」
「うんうん……え?」
「これは、なに? おにーちゃん」
ニタリ。天使は今、堕ちた――
俺は震える声で、呟く
「…………です」
「え? なに? 聞こえないよ、お兄ちゃん」
「ぱ、パンツです」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。もう一度言って? 大きな声で」
「パンツです!」
「パンツ? パンツって下着のパンツ?」
「はい、パンツです!」
「へーパンツなんだー。可愛い柄だね、お兄ちゃんの?」
「楓さんのパンツです!」
「楓お姉ちゃんの? なんで楓お姉ちゃんのがお兄ちゃんのポッケに入ってたのかなー」
「拾ったのを返そうとして、そのまま忘れていました!」
「へーそうなんだー返すの忘れちゃったんだー大変だねー」
こんなやり取りが、この後も30分続きまして
「すみませんでした!」
「え? 雪葉、怒ってないよー。なんで謝るのかなー」
「すみませんでした、許して下さい!!」
「……ん。今度はちゃんと返してあげてね、お兄ちゃん」
「はい! ありがとうございました!!」
なんとか許してもらいました
今日のドS
雪>>>>>夏>>>>>>>>俺
焼き土下座
プルルル、プルルル。ガチャ
「あ、もしもし恭介です。楓さんのパンツが」
「うるさい」
ガチャ。ツーツー
「…………」
酷すぎる……