第158話:楓のお土産
開けた窓から生ぬるい風が部屋へ入って来る、八月三日の昼。俺は部屋でボーッと天井を眺めていた
「……暇だな」
ところで暇って字を良く見ると、リュックサックを背負った野郎が女の子を横抱きしてるように見えません? いや、どうでも良いんだけどさ
「……暇だ」
昨日、病院で点滴を打ってもらったのが効いてるのか、今日は朝から体調が凄く良い。だから余計に暇をもて余している
「よし」
コンビニでも行こう!
そう決め外へ出掛けてみると、すぐに額から汗が浮かんできた。俺のHPが削られていく
とは言え、コンビニまでは300メートル程度。軽い散歩と言える距離だ
直進、左折、そしてまた直進。熱したフライパンのような道を、ズンズン進む
しばらくすると、家とコンビニの中間点にある、小さな公園が見えてきた
そこは秋姉が早朝トレーニングをする場所として有名で、その神々しいお姿を一目見ようと、観光客達が連日押し寄せるらしい(捏造)
「ん?」
そんな霊験あらたかな場所に、人影が一つあった。どうも美月っぽいが……やっぱりそうだ
「おーい、美月〜」
「え? あっ、兄ちゃん! 兄ちゃ〜ん」
「はは……ぐふ!?」
美月は俺の方へ駆け寄り、その勢いのまま腰に飛びついた。17のダメージ
「さ、サッカーの練習してたのか?」
さっきまで美月が居た場所には、古ぼけたサッカーボールが転がっている
「うん!」
「そっか。なんか飲む?」
熱中症になったら大変だし(経験者談)
「ううん。それより兄ちゃんと少し遊びたいなぁ」
抱き付いたまま、上目遣いで窺うように言う。遠慮してるのか?
「ん、良いぞ。一時間ぐらいな」
「やったー」
俺から離れ、ぴょんとジャンプの美月さん。よ、マサイ族!
「で、なにやるんだ?」
「サッカー!」
「オッケー。じゃ最初は軽くパス練でもするか」
「うん!」
「よし、公園に戻ろう」
「うん!!」
それから適当な話をしながら、パスやドリブルの練習。正直、美月は俺より上手いが、体格の差で何とか面目を保っている
「うわわっ。ナイスドリブル! やっぱ兄ちゃん超うめー」
「美月も上手いぞ、前より成長してる。ほら」
「と、春ちゃんに教えてもらってるからね」
美月はパスしたボールを器用にリフティングしながら、そう言えばと言葉を続けた
「そう言えば兄ちゃん、女の子のパンツ集めてるんでしょ? 今度、使ってないの一枚あげる」
「おお、いいのか? サンキュー。もうすぐ100枚を突破するんだよって、んな訳あるか!」
何とんでもない事を口走ってくれてんの、この子!?
「え? でも集めてるって……」
「集めてない、集めてない! まったく全然一切集めてない!!」
「そうなの?」
「ああ!」
「でも春ちゃんが言ってたよ?」
「またか!?」
アイツは俺を、この町から追い出したいのか!
「兄ちゃん?」
「アイツの話は七割ぐらい適当だから、話し半分に聞いてくれ」
むしろ聞かなくても良い
「半分? 七割?」
どっち? と、くりくりの目が迷っていた
「ワイドショー程度ってぐらいだな」
「わいどしょー?」
「うーん、じゃ天気予報の30%ぐらいの信頼率とか?」
「じゃあ全然、信用出来ないね!」
あら良い笑顔
「でも、そっか。パンツ欲しがるなんて、変な兄ちゃんって思ってたんだ。違ってて良かった」
美月は安心したと笑う。危うく美月にまで変態認定される所だったんだな……
「全く春菜の奴は」
帰ったら説教だ
「あはは。あ、そろそろ一時間だよ兄ちゃん」
「そうか? ……本当だ。あっという間だったよ」
「だねー。遊んでくれて、ありがと!」
「楽しかったぞ。また遊ぼうぜ」
「うん! じゃーね兄ちゃん」
大きく手を振る美月と別れ、先に進む。シャツが汗で背中に張りついて気持ち悪い
さて、それから何分か歩き、目的地であるコンビニへと辿り着く。店内は涼しいと言うよりも寒く、身体が冷える前に買う物を買って、直ぐに店を出た
「……ふぅ」
やっぱり外は暑い。けど、寒いよりは余程いい。美月はまだ公園に居るかな?
来た道を戻り、公園の前を通る。中には誰もおらず、どうやら美月は帰ったようだ。なら俺も早く帰って、ゲームでもするか