会の観賞会 3
「では行こう、次なる希望の地へ」
「ええ」
秘宝を求め、俺達の旅は続く
「我をお供にお付け下さいませ~」
「まずは服を着ろ!」
さて、そんな感じで剣士を仲間にした俺達は、新谷んちを目指して出発した
三件目、新谷宅
「新谷んち行くの久し振りなんだよな」
会の課外活動でたまに行くが、それも数える程しかない
「わたしもよ。行きづらいもの」
「だよな~」
そう、新谷んちは行きづらい。何が悪いって訳じゃないが、気後れしてしまう
「……ま、あれだからな」
赤田の家から僅か3分弱歩いただけで見えてくる新谷の家。その敷地は300坪を越え、建物も馬鹿でかい
「相変わらず立派な屋敷ですな」
黒い屋根を見上げ、赤田は感嘆する
「しかも芝生の庭だぜ? どこの外国産だよ」
さらに赤レンガ仕様の高い塀。客を威圧してやがる
「庭をコリーが走っているわ。きっと名前はジョックよ」
「単純に太郎とかじゃないか?」
あるいは金持ち風にカトリーヌとか?
「しかし凄い。リアル版スネ夫の家って感じだ」
愚痴りながら門の前まで来たが、家の立派さに改めて圧倒される
「赤田君。インターフォンを押してくれたまえ」
「はっ!」
ポーン。軽い音がした
「もっと金持ちっぽい音にすればいいのにな。ゴージャースとかさ」
「しりぞけ、庶民ども。でもいいわ」
「いいな、それ。貧乏人ごときが勝手に押してんじゃねーぞって感じがして」
金持ちはそのぐらいじゃないと
「マスターと鈴花は気が合いますな」
「考え方が似ているからな」
ひがみとも言うが
「お、新谷が出てきましたぞ」
「ああ。10秒はかかるぜ、きっと」
玄関から出てきた新谷は、予想通り10秒掛かって俺達の前へ来た
「よう」
「こんにちは先輩方」
新谷は頭を下げ、次に真剣な顔を俺達へ向ける
「皆さんがここに来られたと言う事は……ついにあの星が動き出したのですね」
「どの星だよ。てかどの星も普通に動いているだろうが」
「動いていないのは貴方の頭だけよ」
「――暗黒星、メギド。神が残した浄化の火」
「お前の頭が暗黒だよ」
「メギド脳ね。既に焼かれているわ」
「まぁそれはともかく、ちょうど一息つけようと思っていた所です。お茶でも入れましょう」
俺達のダブル突っ込みを笑顔で受け流し、新谷は家へと戻って行く。つかみどころの無さは、プライベートでも変わらない
「上がってみるか?」
「任せるわ」
「鈴花に同じく」
「うむ。では行ってみよう」
新谷の後に続き、そのまま玄関へ入る。入った先にあるのは広い靴置き場とロビー。ホテルかよ、オータニかよ! と心の中で突っ込みつつ、上がり込む
「客間で大丈夫ですか?」
「いいよ。てか今日はお前一人か?」
親とかいると緊張するんだよな〜
「二階に妹がいますよ。後で会ってあげてくれますか?」
「遠慮しとく」
「それは残念。どうぞ」
「うむ」
ドアを開けてもらい、客間に侵入。ここだけで一家全員が住めそうな広い部屋だ
「お茶を入れてきます。では、おくつろぎ下さい」
「ああ」
新谷が出ていった所で、一人用のソファーに腰を下ろす。ふかふかして気持ち良い
「中は涼しいですなマスター」
「だな」
冷房とか見当たらないのに、不思議だ
カチャ
「お、早かっ……あれ?」
戻って来たのかと振り返ってドアを見てみたが、そこに新谷の姿はなく、代わりに僅かな隙間があった
「どうしました、マスター。ぬ?」
「っ!」
赤田が覗き込むと、ドアはバタンと閉まる
「今のは一体……」
「ふむ」
立ち上がって、静かにドアへ近づき
「わ!!」
「ひゃっ!?」
一気に開けて、驚かせてやったぜ
「うっす」
脅かした相手、柚子は、腰を抜かしたのかしゃがみ込んで俺を見上げている
「どうした、立てなくなったか?」
「ぅ……び、びっくりさせるな、けだもの〜」
「ケダモノって……あ」
柚子が着ているフリル付きのスカートや、周りの床が濡れていた
「……ごめんな」
どうやら漏らさせてしまったらしい
「え? ……あ! ち、違う! こ、これは我が過去の記憶と引き換えに契約したエレメント、水のアルトルーンから教わった神聖結界、エターナル・ディープシー」
「ほら、大丈夫だから。全然恥ずかしい事じゃないんだからな?」
柚子をよいしょと抱き上げて、いざ洗面所へ
「本当に違うの! ポケットの水なの!!」
「おっと」
腕の中で、パタパタと暴れる柚子。力は弱いが、落としてしまいそうになる
「こらこら暴れんなって。ん?」
その時スカートの後ろポケットから、潰れたペットボトルが床にコロンと落ちた
「あ、これか」
尻餅ついた時、潰したんだな
「それならそうと言えって。まったく、人騒がせだぞ柚子」
そう言って下ろしてやると、涙目で睨まれた
「……恭にぃが勘違いしただけ。あ、違うから! 我が名は神聖騎士団魔法隊詠術長、バルフット・タマコロガス。柚子ではない!」
「もうちょい可愛い名前にしろって。ファーブル昆虫記かって突っ込まれるぞ?」
俺だけか?
「……可愛いの似合わない」
「似合うだろ? 柚子は可愛いし」
パッチリした目に、色白の肌。肩まで伸ばした栗色の髪は少し癖があり、先端がくるんと丸まっている。11歳にしては体が小さいが、ほっそりしてて普通に美少女と言えるだろう。ま、雪葉には敵わんがね!
「ほ、本当? それなら改名する。ええと……ヘラクレス・オニヤンマ!」
「虫から離れろって」
どんだけ虫好きやねん
「……じゃあ恭にぃがつけて」
「俺が? ……うむ〜」
謎の賞金稼ぎ、フロム・A。神の戦士、ゴッド・カーチャン……
「うむむ〜」
思い付かんな。いっそ俺の名を譲ろうか
「あまり悩まなくていいよ?」
「いや、ここはじっくり熟考を……」
「柚子?」
廊下で突っ立ってた俺達へ、声が掛かった
「あ、にいさま」
「あまりマスターを困らせてはダメだよ」
トレイを持った新谷は、少し強めに妹をたしなめる
「……はい、にいさま」
しょんぼりしてしまった
「話に少し付き合ってもらっただけで、困ってなんかないぞ。それより雑巾ないか? 水を溢しちまった」
「そうでしたか、ごめんね柚子。雑巾ですね? とって来ます」
「うむ、行くがいい」
ふ。金持ちをアゴで使うのは気分がよいのう
「…………」
「……なんだ?」
無言でジッと見られると落ち着かん
「あ、あり……」
「蟻?」
「……がと」
がと?
聞き返す間もなく、柚子はダッシュで逃げて行ってしまった