表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
436/518

第154話:会の観賞会

《こっちは無事でーす。てゆーか、もう最高っ! 今日から私、右手だけで生きていく!》


逃げ出した後、加奈ちゃん達の身を案じ連絡を待っていた俺達へ、こんなメールが送られて来た


意味は全く分からないが、とにかく無事らしい。ほっとした所で綾さんを駅まで送り、そのまま帰宅


「ただいま〜」


「ふぁーあ。……おかえり」


リビングに入ると、ソファーの上で寝転びながらニュースを見ている姉がいた


「豚が宇宙にねぇ。ふぁーあ」


「…………」


最近、姉ちゃんから活力を感じないのだが、大丈夫だろうか


「コーヒー入れて。濃いめで」


「あいよ」


ま、大丈夫か


「よっと」


キッチンへ行き、コーヒーメーカーやフィルターを用意しながら、ミネラルウォーターを沸かす。使う豆は三種類、こだわりのブレンドだ


「温めたカップに注ぎ……よし、いい香りだ。お待たせ〜」


「ご苦労」


コーヒーを持っていくと奴はようやく起き上がり、最初の一口飲む


「どれどれ。……うん、なかなか美味しいわ」


「そりゃ良かった」


既に好みは把握している。もはや姉ちゃんは、俺の意のままだぜ!


「このお菓子嫌い。別の用意して」


「はいはい」


用意ついでに俺も何か飲もう


「そういえばアンタさ」


「うん?」


「今日、朝から居なかったわよね? どこに行ってたのよ」


「……ふふふ」


聞いてくれたか姉ちゃんよ


「溝口って知ってる? 俳優の溝口 文之。その人とボウリングしてたんだ。はい、どら焼き」


麦茶を手に、俺もソファーに座る。もしファンだったら自慢してやろう


「溝口? あまり聞かない名前ね」


「あ、あれ? 知らない? 有名な人なんだけど……。最近だと、オラがいなかっぺってドラマに田吾作の愛人として出てた人だよ?」


「あ、そう」


めっちゃ無関心だ!


「だ、だけどほら、結構テレビに出てる人だから。いやー凄いよねーテレビ」


「テレビだったらアンタの姉も出てるでしょうが」


「傷害で?」


ありそうな話ではある


「出ても良いわよ? 今すぐに」


「……すみません」


拳を握る姉には逆らえん


「たく。アキのことよ、アキの。この間、剣道の特集でインタビューされていたわ。あの子、アタシに似て美人だし聡明だし可憐だし美人だし、そりゃ絵になるわよ」


「……嘘、だよね?」


「あん? 何がよ」


「秋姉がテレビに出たって」


俺が知らない筈がない


「出てたわよ、何日か前に。あの子なーんも言わないから、たまたま見てビックリしたわ」


まったくしょうがないわねと、姉ちゃんは溜め息をつく。マジなのか?


「ろ、録画とか」


「してない」


「っ!?」


「……事もないけど。そうねぇ、一時間のマッサージと引き換えにって、あら? ち、ちょっと!? 最後まで話を聞きなさい!」


俺は走った。家を飛び出してひたすらに走った


見たいから。秋姉のインタビューがめちゃくちゃ見たいから!


「……とは言え」


どこに行けば見れるだろう。誰か撮った奴はいないのか?


「むぅ……あ!」


会の連中なら撮ってるかもしれん。とりあえず行ってみるか


て、事で!


DVD放浪記。一軒目、リオン宅



うちの家から歩いて数分の距離にある庭付き一戸建て。ここでリオンは世話になっている


リオンが言うには、この家はホストファミリーではなく、日本に住む叔父さんの家らしい。家族みんな凄く親切だと褒めていた


「ポチっとな」


カメラ付きのインターフォンを押し、しばし待つ


「…………」


留守か?


《はい、どちらさまでしょう》


もう一度インターフォンを押す前に、女性の声で応答があった


「あ、僕、リオン君と同じ高校に通っている、佐藤 恭介と申します。リオン君はご在宅ですか?」


《あなたが佐藤君? よくリオンから聞いてるよ。すぐ開けるね》


言葉通り、すぐに玄関の鍵が外れる音がし、ドアが開く。すると


「お待たせ。こんにちは、佐藤君」


スタイルグンバツのパツキン姉ちゃんが現れた!


「は、ハロー。ナイストミーチュー」


英検3級(わりと簡単)の実力を見せる時がきたか!


「日本語、大丈夫だよ。もう何年も暮らしているんだから」


そう言うパツキン姉ちゃんの日本語は、確かに流暢だ


「そうみたいですね、全然違和感ないです」


なんか不思議な感じだが


「そう言ってくれると嬉しいな。今ね、リオン、ピアノの練習中なんだ」


「そうですか。それならまた今度来ます」


次は鈴花の所にでも行ってみるか


「後、10分で終わるよ。だからそれまでお話しよう?」


「話ですか?」


「うん。上がって」


返事を聞かず、パツキン姉ちゃんは家に入って行く。素敵な強引さだ


「じゃあ少し。お邪魔します」


言葉に甘えて家に上がると、玄関で待っていたパツキン姉ちゃんはニッコリ笑って言った


「エレクトナ」


「はい?」


「私の名前。エトナでいいよ。火山だから怒ると噴火しちゃうからね?」


あははと笑っているところを見ると、ギャグなのだろう。高度すぎて良く分からんが


「それじゃエトナさんって呼びます。これで火は消えましたね」


「ふに? ……そっか!」


キャッキャと笑うエトナさん。うん、いい意味で子供っぽい人だ、秋姉と同い年ぐらいかな


「はい、リビングに到着。何飲む? だいたいあるよ」


「いえ、お気になさらず」


「飲もう?」


「は、はい。では炭酸系がありましたらお願いします」


「うん!」


元気に頷き、エトナさんはパタパタとリビング奥へ消えいった


「……ふむ」


リオンが言った通り、凄く親切な人のようだ。うちの姉(目付きの悪い方)にも見習わせたいね、こりゃ


「おまたせ。コーラだよ」


「ありがとうございます」


お〜氷入り


「いや〜最近めっきり暑くなりましたね〜。エルニーニョってやつですかね、わっはっは」


ハンカチで額を拭きながら大人トーク


「ね〜。あ、そだ。私に敬語使わなくていいよ」


「そう言われましても……。実は歳上の方にタメ口使うの苦手なんですよ、逆は全然平気なんですけどね」


「そうなんだ、よかった」


「え? あ、あはは〜」


何が良かったんだ?


「私、リオンより年下だから」


「マジでか!?」


色っぽい姉ちゃんだな〜って思っていたのに!


「それじゃあクイズ。私は何歳でしょう?」


「え、ええと……14ぐらいですか?」


「ブブー。答えは12歳。そんなに大人に見える?」


そう言って後ろ髪を両手でかきあげる様は、大人っぽいとしか言えん


「お兄ちゃんって呼ぶ?」


「い、いえ、名前で大丈夫です」


「じゃあ恭介。はい」


エトナさんは俺に向けて手を伸ばし、何かを促した


「はい?」


「エトナ」


「え、エトナ」


「うん! ラブリーだよ恭介」


「ら、ラブリーですかね」


そうか俺はラブリーだったのか……


「あ、時間だ。リオン呼んでくるねー」


「お、お願いしまーす」


そしてまたパタパタと消えていった


「…………むぅ」


知らない家で一人だと落ち着かんな


「マスタ!」


「お、リオン。邪魔してるぞ」


心細くなる前に、リオンがドアを開けてやって来た


「遊びに来てくれたの?」


「いや、少し聞きたい事があって……エトナさん?」


ドアの所でジッと俺達を見ている


「お話、続けて?」


「は、はぁ……でさリオン。何日か前に秋姉がテレビ出たのって知ってるか?」


「秋様が? 知らなーい」


「そうか……」


俺ですら知らなかったぐらいだしな


「ねーねーリオン。秋さまって?」


「マスタのおねーさん。凄くかっこいーおサムライだよ」


「わぉ、だから恭介もブシドーなんだね!」


俺のシャツを見て、エトナさんは目を輝かせた


「いや、これはただのシャツで……て、お前、秋姉を侍だと思ってたのか?」


「うん! ……違うの?」


つぶらな瞳で俺を見つめるリオン。今までこいつの入会理由が分からなかったけど、もしかして侍好き?


「……まぁ、現代の侍かもな。秋姉は」


「うん! マスタもおサムライ!」


「はは」


しかし此処に映像が無かったのは残念だ。やっぱり次は鈴花の家にでも行くとしよう

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ