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綾の大切 10

「溝口さん皆さん、今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました!」


ボール等を片付け、ゲーム料金も払い終わった所でそろそろ合コンもお開きかという雰囲気の中、加奈ちゃんが皆に向かって頭を下げた


「特に春菜のお兄さんと徳永先輩。私、すごく感謝してます! ね、真理」


「私はあんまり……正直、邪魔だっグフ!?」


い、今、真理ちゃんの腹に加奈ちゃんの高速裏拳が入ったような……


「とにかく、本当に本当にありがとうございました!」


「……おう」


真っ直ぐなお礼を言われ、さすがの溝口さんも照れ臭そうに表情を和らげた。うむ、いい雰囲気だ


「それであの……、サインを頂く事って出来ますか?」


「ああ、書いてやるよ。どこに書くのか言え」


「じ、じゃあこの手帳にお願いします!」


「分かった、分かった」


目を輝かす加奈ちゃんと、苦笑いをしながらも優しい顔で手帳を受け取る溝口さん。その微笑ましい光景を遠巻きに見ていたら、いつの間にか綾さんが横に来ていた


「綾さん」


「はい、恭介さん」


「今日は色々とご苦労様でした」


途中、溝口さんのテンションが上がったのも、綾さんが何か言ってくれたからだろう


「ううん。苦労なんてしていません、凄く楽しかったですから」


「そ、そうですか?」


飯食って納豆まみれになって変なテンションでボウリングして……


「……そうですね」


最終的には楽しかったかもな


「ですが……」


微笑んでいた綾さんの顔が少し曇り、


「あちらを収める事は出来ませんでした」


「ん? うっ!」


加奈ちゃんの後ろで真理ちゃんは、親の敵を見るような目で俺を睨んでいる


「な、なんであそこまで嫉妬を……。綾さん、あの日真理ちゃんに何をしたんですか?」


以前聞けなかった事を尋ねると、綾さんは困った様に首を傾げた


「う〜ん、大したことはしてないのですが……。ちょっとスカートの中に手を突っ込んだだけです」


「やらかしすぎでしょアンタ!?」


あの短時間でとんでもない事をしやがって!


「じ、冗談ですよ。普通に説得しただけです」


「…………」


「そ、そんな目で見ないで下さい。佐藤君は私を信じてくれないんですか?」


「うん」


「キュン! あっさり頷かれて好感度激アップ! 期間限定イベントで、黒ひげだよ綾音さん。早く刺して? よしきた俺のジャックナイフで穴貫通! が開放され」


「い、いくらなんでも下品過ぎません?」


「…………ん」


顔を真っ赤にし、コクンと頷く綾さん。恥ずかしいなら言わなければ良いのに


「あ、ありがとうございます! 宝物にします!!」


さて、どんなツッコミを入れてやろうか思案していると、真理ちゃんが感激の声を上げた。それを合図に、溝口さんは店の入り口へと歩き出す


「帰るぞ結城」


「う、うっす」


いきなり呼ばれ、慌てて溝口さんを追う結城。部下は大変だね


「兄さん?」


「……わりと楽しめた。サンキューな」


後ろ手を上げ、そのまま振り向かずに店を出て行く。う〜んマンダム


「たく、先輩はいつもああだからマジ困るわ〜。えっと、今日は俺もすっげ〜楽しんだからさ、ありがとねみんな。んじゃまたな恭ちゃん」


「ああ。またな結城」


「うん!」


爽やかな笑顔を残して、結城もまた店を出て行った。貰ったサイン、自慢出来る日まで大切に取っておこう


「……相変わらず照れ屋ですね」


二人の背中を消えるまで見送った綾さんは、どこか嬉しそうな口調で呟いた。そして俺達の方へ向き直り、


「私達も帰りましょうか」


と、優しく微笑む


「ええ、そうですね」


俺も何となく嬉しくなって、微笑みながら頷く。そしてそのままボウリング場を出ると、外では人だかりが出来ていた


「ほ、ほんとに溝口君だ!」


「溝口君、こっち向いて〜!!」


「隣に居る子も見たことある! ……気がする」


「するだけかよっ!」


おお、ナイスつっこみ。やるな結城


「兄さん達、囲まれちゃったみたいですね」


「ですね」


ボウリング場前の歩道で、溝口さん達が数十人のファン達に囲まれて立ち往生している


「どうします?」


助けた方が良いのか?


「ああなってしまったら、私達では助けられません。警察に連絡をして――」


「あ! た、助けて恭ちゃん!!」


俺達を見付けたらしい結城が、女の子にもみくちゃにされながら悲鳴を上げた


「あ、あの野郎」


俺達を巻き込もうとしてやがる


「恭ちゃんって……あの子?」


ファン達が一斉に俺達を見た


「あの子も芸能人かな?」


「見たこと無いけど多分。だって凄く可愛いし……」


「……ぬぅ」


参ったな、このままでは俺もスター扱いされてしまうかもしれない。サインとか書かないといけないのか


「やれやれ」


頼まれたら、きちんと説明して断ろう


「あ、あの!」


ふ、早速来おったわ


「すみません。僕はただの一般」


「どいて!」


「うわ!?」


ファンの連中は俺を突き飛ばして綾さんの前へと向かう


「どこの雑誌に載ってます!? てゆーかモデルの方ですよね!」


「え? い、いえ、私は……。そ、それより大丈夫ですか佐藤君」


「は、はい。驚いただグハァ!」


再び突き飛ばされて92のダメージ!


「撮ってるのに邪魔しないでよ! あんたが入ったから心霊写真になっちゃったじゃない!!」


「1人で勝手に切腹しとけやこの腐れ屍が!」


「…………」


うちの姉より酷い罵倒だ


「そいつらは関係ねぇ! 一般人に絡んでんじゃねぇぞテメェら!!」


「わー、溝口さんが声を掛けてくれた」


「わたしにもお願いします〜」


溝口さんの怒声にファン達は益々盛り上がり、そちらに集中した。その隙に綾さんの手を取って、体で庇うように引っ張り寄せる


「今のうちに逃げましょう!」


溝口さんには悪いけど


「そうですね。ごめんなさい兄さん。後はお願いします」


「真理ちゃん達も行くよ」


二人も何人かに声を掛けられていたが、今なら逃げ出せるだろう


「恭ちゃ〜ん、ヘルプミー」


「アデュー結城。そしてフォーエバー」


今日からお前のスター伝説が始まるのだ。多分


「あっ! 屍が女の子達を連れて逃げるわよ!」


「追え、追え〜」


「しまった!」


囲まれる!


「春菜のお兄さん! 私達が注意を逸らすから逃げて!!」


「か、加奈ちゃん?」


「か、加奈! 私はお姉様とグフっ!?」


「お二人とも、今日は本当にありがとうございました〜。えーい!」


追って来る人混みに向かって、加奈ちゃんは真理ちゃんを放り投げた!


「ここから先は一歩も通さない!」


「っ!? ……むぅ」


カッコいい。俺が女なら惚れてる所だ


「早く行って!」


「すまん、後は任せた! さぁ行きましょう綾さん!」


「は、はい。ありがとうございます加奈さん、真理さん!」


そして俺達は逃げ出した。まるで闇夜を行くロミオとジュリエットのように……って、警察に連絡しとこ



さて、それから5分の全力疾走。駅とは逆の方向に走って、


「ハァハァ、ハァハァ。こ、ここまで来れば」


「振り切れたみたいです」


無事逃亡。めっちゃ疲れた……


「ふぅ。全然息切れしてませんね」


かなりのハイペースだったのに、凄いな


「部活のおかげです。それより佐藤君」


正面に立ち、綾さんはジッと俺の顔を見つめる


「な、なんです?」


なんか緊張するやんか


「助けてくれてありがとう」


乱れた髪や衣服なんか、気にならないぐらい可憐に微笑む綾さん。本物のジュリエットみたいだ


「……はい。どういたしまして」


照れる。照れるが、俺も微笑む。とてもロミオには見えないだろうが


「……あーえっと、あ、あの時、俺だけは放置されてましたし、助けられるのは俺しかいませんでしたからね! だから気にしないで下さいなってか誰も俺のサインなんか欲しがりませんわな、あははー」


「佐藤君」


照れすぎて適当な事を言う俺を、綾さんは穏やかな声で呼ぶ


「は、はい?」


「私、佐藤君のサインが欲しいです」


「え? ……綾さん」


この人はいつもこうだ。ただの変態に見せかけて、いつも人の気持ちを気遣ってくれる


「書いて頂けますか?」


そんな気遣いをしてもらったら返事は一つ


「はい、喜んで」


「では、タンポンに恭介と」


「書くかアホー!」


駄目だ。やっぱりこの人はただの駄目変態だ!


「今日から恭介を挿入する時、なんだか凄くゾクゾクしそうです」


「勝手に命名しないで!」


名誉毀損で訴えたろか!!


「うふふ。やっぱり佐藤君は可愛いですね〜」


「へっ! どうせ俺は、からかわれ担当の腐れ屍納豆野郎ですよ!」


あ、自分で言ってしまった……


「ううん、違います」


拗ねる俺に綾さんは小さく首を振って、


「私の大切なお友達です」


とても嬉しそうに笑ってくれた




今日のスコア


俺>>結>加>綾>>>>真>溝


「まぁ、本当はナプキン派なんですけどね」


「今さらかよ!」



続け



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