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綾の大切 8

忙しい。忙しいったら忙しい



おもいで。6



『夏紀お姉たん』


『なぁに、恭ちゃん』


『夏紀お姉たんっておっぱい大きくてカッコいいね』


『そう? ありがとう恭ちゃん』


『触ってい?』


『ええ、いいわよ。ほら、ぎゅ~』


『わ~柔らか~い』


『うふふ』


『でも何で夏紀お姉ちゃんだけなの?』


『え?』


『秋お姉ちゃんはまっ平らだよ。この間ぎゅってしてもらったら硬くて痛かったよ。秋お姉ちゃん、女の子なのに何でまっ平らなの?』


『え、えっと、それは……はっ!』


『…………平ら』


『い、居たのアキ。だ、大丈夫、すぐに成長するわ! これから、これから!!』


『…………平ら』


10年後。現在


「そこの坂が平らになってさ。いつ埋めたんだろうね、もうまっ平らだよ」


「…………平ら」


まだ気にしてた


《ストラーイク、やったね!》


パチ、パチパチ


機械おねーさんの声と、まばらな拍手が客の居ないボウリング場に響いた。俺がストライクをとったからだ


「お疲れ! やるね〜」


「ありがとう」


ボウラーズベンチに戻る俺を、二人は笑顔で迎えてくれた


ベンチはスコアボードを挟んだ形で三脚ずつあり、左側のベンチを真理ちゃん、溝口さん、加奈ちゃん。右側を俺、綾さん、結城が使っている


「凄いです、恭介さん。どうしたらあんなに球をカーブさせられるのですか?」


「手首の使い方ですね。こう、ていや! っと」


「こう? てい、ていっ」


「次、俺〜。応援してな?」


「ああ、頑張れ」


「頑張って下さい結城さん」


「あ〜い」


綺麗で可愛い女の子と、華やかな芸能人の美少年。そして戦闘力5の俺


性別も立場も異なる三人の若者が、仲良くボウリングをしている姿は、どっかのテレビ局へ持ち込みたいぐらい爽やかなことだろう。……この三人だけなら


「…………」


「…………」


無言だ。溝口さんと真理ちゃんは、ボウリング場に来てから一言も喋らなくなっていた


「あ、あの……はぁ」


二人に挟まれた加奈ちゃんが、何とか話をしようと頑張ってはいるけど、どうにもうまくいっていない。もうお前ら何しに来たんやねん状態だ


《ストラーイク、やったね!》


パチ、パチパチ


「うっし、決まった! やったね!」


目元で横ピースをし、機械おねーさんの真似をドヤ顔でする結城。ちょっとウザい


「次は私ですね」


軽めの球を持ち、ピンを目掛けて、ていっと投げる。変なフォームだったけど球の勢いは強く、ぶれる事なく真っ直ぐにレーンを転がっていった


《ストラーイク、やったね!》


「わ、やりました!」


「最高です、お姉様! 最高です!!」


「やりましたね」


笑顔で戻って来る綾さんを、ハイタッチのポーズで迎える


「うん? はい」


何でか手を重ねられ、ギュッと握られた


「い、いや、そうではなくて、こうイエーイってやつを……」


「いえーい?」


「やりません? 学校とか部活で」


「いえーい?」


綾さんの顔がハテナだらけになってしまった


「や、やりませんよね、すみません」


そういえば誰かがやっているのを見かけた事がない。我が家だけの風習なのだろうか


「外国のエッチ番組でよく言っているのは知っていますが、なぜ今、ここでやるのかなと」


「……それってもしかして、オーイエーの事ですか?」


外国産エロビデオ定番の!


「かもーん♪」


「カモーンじゃないでしょ」


ポンと綾さんの頭にチョップ


「あいた」


「まったくもう……うっ!」


向かいから視線を感じ、そちらを見てみると、溝口さんと真理ちゃんが凄い目をして睨んでいた


「……あの野郎」


「殺して……いいですよね? 穢れた手でお姉様の手を握ったあげく、叩いたんです。殺した方がいいですよね」


二人ともボソボソ声なので何を喋っているのかいまいち聞き取れないが、その雰囲気だけでただ事じゃないのは分かる


「あ、綾さん」


「はい」


「あの二人、めちゃくちゃ怖いんですけど……」


それが証拠に、溝口さん達に挟まれた加奈ちゃんが泣きそうな顔をしている


「え? ……確かに機嫌悪そうです。兄さんの方は任せて下さい」


「真理ちゃんの方は?」


「…………」


綾さんは視線を逸らし、溝口さん達の方へ行く


「兄さん、次お願いします」


「……ああ」


面倒くさそうに立ち上がり、これまた面倒くさそうに球を投げる。3ピンほど倒してまたベンチに


「兄さん、もう一投お願いします」


「代わりにやっとけ」


「あ、じゃあ私が代わりにやります!」


溝口さんに代わって加奈ちゃんが元気よく立ち上がり、スパッと投げた。難しいところが残っていたのだが、見事に倒してスペアをゲットだ


「やった!」


「お〜、やるね!」


「球が凄い曲がってました。やはり、ていっですか?」


「これは負けてらんねーわ。な、恭ちゃん!」


パチパチパチ


「あ、あはは……」


溝口さんにも何か言ってもらいたいのだろう、その顔をチラ見する。だが当の溝口さんは全く無視で、ジンジャーエールを飲みながら天井見上げてふんぞり反っていた


「…………」


しょんぼりとベンチへ戻って来る加奈ちゃん。……せっかくの好投だし、なんか奢ろうかな


「加」


「文之兄さん」


俺が声を掛けるよりも早く、綾さんが先に溝口さんへ声を掛けた


「なんだ」


「家の事で少〜しお話がありますので、一緒に来てくださいませんか」


「あ? どこへだよ面倒くせぇ。ここではな――」


「来て下さい」


ピシ! その一言で辺りは空間にヒビが入ったような緊迫感に包まれた


綾さんの口調や表情は至って穏やかなのに、なんだこの怖さは


「ぐ……お、おう」


分かる人にしか分からない静かな殺気を前に、溝口さんは額から汗を流しながら頷く。その様子を周りはポカーンと見ている


「では行きましょう、兄さん」


「……ああ」


そして溝口さんは、どこかへ連行されていった


「…………ふぅ」


さすが秋姉を苦しめた女傑よ。いざとなれば隠した牙を見せおるわ


「どうしたんだ、先輩達」


「お姉様の様子、ちょっと変だった……」


やはり殺気には気付いてないらしい


「ま、まぁ良いじゃんか。ほら、次は真理ちゃんだぜ?」


「お姉様に見てもらいたかったな……。いきます」


ゴロゴロゴロ。ガータ


「……ほら!」


「なんで自慢げ?」


真理ちゃんに投げ方でも教えながら、綾さん達を待つか



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