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綾の大切 4

「誠に申し訳ない事をしまして……」


納豆ぶっかけ事故から三分。隣の座敷へと案内された俺達は、店主と見られる初老のおっさんに、ずっと頭を下げられていた


「もう気にしないで下さい。新しいシャツも買ってもらいますし」


逆に得した気分?


「誠に申し訳ございませんでした。クリーニング代の方はこちらで出させて下さい」


「ありがとうございます。そこまでして頂ければ、なにも文句ありません」


納豆臭いけど


「タオルもありがとうございます。助かりました」


10枚も貰ってしまった


「いえ……それでは何かありましたら」


「はい」


おっさんは低いテンションで去って行き、部屋は静かになる


「それにしても……」


恥ずかしい。今の俺は上半身裸なのだ


「恭ちゃん腹すげ〜。普通に割れてんじゃん」


「鍛えてるな」


男二人が感心したように言うが、


「見んといて!」


マジで恥ずかしい!


「春菜のお兄さん、目さえ死んでなければわりと上等なんだけどね」


「し、失礼だよ加奈。瞳孔が開いてるだけで、あれでもまだ生きているんだから」


「…………」


なんて正直で失礼なコンビだ。さすが春菜の友達


「……ん?」


何気なく綾さんを見ると目が合った。あの人、なんかウズウズしているような……


「うずうず」


あ、口に出しちゃってるよ。どうしたんだ?


「恭ちゃん?」


「あ? あ、ああ……さて、だいたい拭き終わったかな。ちょっと顔を洗って来るよ」


少し水拭きさせてもらおう


「では私が案内いたします」


返事をする前に、綾さんは座敷を出て俺を待った


「あ、ありがとうございます」


「それでは行きましょう」


靴を履き、歩む綾さんの後に続く。トイレは厨房の奥から行くらしく、途中で従業員や店主達に頭を下げられてしまった


「普通なら追い出されているでしょうね」


タオルで隠しているとはいえ、未だセクシーな格好なのである


「火傷は本当に大丈夫ですか?」


「はい」


「……良かった。化粧室はあちらから行きます」


厨房の奥にある木ドア、それを開けると通路へ出た。それを右に行くと倉庫、左に行くと洗面所があるらしい


「あちらの白いドアが化粧室です」


「ありがとうございます」


やっと顔が洗える。ドアをノック後、中へ……


「……何故に貴女も入ってくる」


洗面所は個室で、洗面化粧台と中ドアがあった。狭い


「私、タケノコよりキノコ派です」


「なんの話!?」


「ちょっとご相談がありまして」


周りに誰もいないってのに、綾さんは声を潜めながら耳へ口を近づけてきた


「って、ち、近い、近いですって!」


「……ふー」


「ひゃー!?」


耳に息を吹きかけられた!


「い、いきなり何をするんですか!」


ゾクゾクしたやんか


「だって仕方ないじゃないですか!」


「だからなんで逆ギレ!?」


「私、怒っているんです! だから今のはその仕返しなんです!」


「お、怒ってる?」


身に覚えは無いが、綾さんが怒るなんてよっぽどだ、真剣に聞こう


「俺、何かしてしまいましたか? よかったら話して下さい」


「合コンが始まってから私、何度も佐藤君に合図をしたんですよ、助けて下さいって。なのに佐藤君はずっと無視して……」


言葉を詰まらせ、綾さんは下を向いてしまう。その肩は微かに震えていた


「……すみません」


なにやってるんだ俺は。春菜の事であれだけ世話になっておいて、綾さんのSOSに気づきもしないなんて


「えっと……、どんな合図をしていたんですか? もう絶対その合図を見逃しませんから、教えて下さい」


「……はい。こうやって人差し指と中指の間に親指を入れて握りまして、ヘルプ・ミーと何度も合図を」


「あほかー!?」


「あいたー!?」 


「知らない人が真似したらどうするんですか! 色んなところから訴えられますよ!!」


人前では絶対やらないようにしましょう


「間違いちゃいました、てへ♪」


「だから可愛くないですって」


むしろ小憎らしい


「それにしてもあれですねー、合コンは疲れますねー」


お、いつもの綾さんに戻った


「真理ちゃんの相手、大変そうですもんね」


「私は立派な男好きなのに、昔から女性に慕われてしまう事が多いんです。立派なキノコ好きなのに」


「なぜキノコに変えた」


「ですが真理さんよりも、文之兄さんが疲れます」


「そうなんですか?」


仲良さそうなのに


「あの人、昔から礼儀作法に厳しいんです。だから大人しくしていたのですが、佐藤君たら魅惑のボディを見せつけて私の身体を疼ませるんですもん。我慢するの大変でした」


綾さんは足をモジモジさせ、潤んだ目で俺を見上げてって


「誤解をまねく言い方はやめて下さいな」


綾さんの眉間に人差し指を近づける


「ンン? ……うずうず」


「それでご相談と言うのは?」


綾さんの身体を疼かせながら尋ねると、綾さんは浅く息を呑んで


「佐藤君、午後はなるべく私の側にいて下さいませんか?」


と、真剣な顔で言った


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