綾の大切 2
「こんにちは。遅れてすみません」
「どうもー」
俺の所へやって来た二人は、辺りを軽く見回しながら頭を下げた
「こんにちは。晴れて良かったな」
「ですね」
胸元が開いたシャツの裾を直し、加奈ちゃんは頷く。太ももが露になったミニスカートに、このシャツ。随分エロっぽい格好をしているが、あまりエロくない
「あの……皆さんはまだですか?」
「ああ。さっきまで綾さんもいたんだけど、今はちょっと外してるよ」
どこか不安げな真理ちゃんにそう答えると、横で聞いていた加奈ちゃんの目が細くなり、疑うような目付きに変わる
「男性はお兄さんだけって事はないですよね?」
「そんな目で見られてもな……。綾さんが約束したんだんだろ? なら信じなよ」
綾さんは約束を破らない。多分
「あの人のこと、あんまり知りませんから」
「……だな。とにかくもう少し待ってなよ」
「まぁ、いいですけど」
釈然としてなさそうだが、とりあえず待つことにしてくれたらしい。加奈ちゃんはスマートフォンを取り出し、ちこちこ操作をし始めた
「あの……」
「ん? なに?」
「お姉様は、いらっしゃってるんですよね?」
「お、お姉様?」
「綾音お姉様の事です!」
「…………」
俺の直感が言っている。これは関わってはいけない話だと
「ああ、いるよ。もうすぐ来るんじゃない?」
平静に、平静に
「そうですか……。早く来ないかな〜」
手のひらを合わせ、恋する乙女の顔で綾さんを待つ真理ちゃん。あの日、二人の間に一体なにがあったのだろうか……
「こちらです、文之兄さん」
「お、戻って来たみたいだよ」
声の方を見ると、綾さんが背の高い二人の男を連れて来ていた。多分どちらかが噂の溝口君なのだろう
「きゃー! 溝口く〜ん」
「うわ!?」
加奈ちゃんが、いきなり叫ぶ
「きゃー! お姉様〜」
真理ちゃんも負けずに声をあげてって、なんだこのテンション
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。紹介します、こちらが私の従兄弟で溝口 文之です」
「どうも」
紹介された男は無愛想に返事をし、髪をかきあげる
スマートな体躯に小さな顔、そして長すぎる脚。美貌の青年と呼ぶには中性さが足りず、男とらしいと呼ぶには荒々しさが足りない
だがカッコいいかどうかと聞かれれば、九割の人間がイエスと答えるだろう、そんな容姿。どことなく性格悪そうに見えるのは、きっと俺のひがみだ
「で、こいつ後輩。暇そうだから連れてきた」
「ちぃす、近藤です。今日は先輩ともどもよろしくね」
続いて紹介された茶髪の男は、普通に美少年だった
色白で綺麗な肌、長いまつ毛と、小憎らしいほど艶やかな赤い唇。子供の無邪気さと女の色気を兼ね備えたような顔で、立派なガタイと低い声がなければ、女性と見間違えるかもしれない
「わ、私は小杉 加奈です。今日は宜しくお願いします!」
震える声で加奈ちゃんは挨拶をし、目を潤ませる。そんな加奈ちゃんへ近藤って奴が声をかけ、軽いジョークで笑いをとった。なんか良い奴っぽいなコイツ
「…………むぅ」
「どうかなさいましたか?」
いつの間にか俺の隣へやって来た綾さんは、一人唸る俺に微笑みかけた
「あ、いや……、なんか場違い感が半端ないなって思いまして」
俺と彼らとでは輝きが違う。100ワットぐらい違う
「そうですね。兄さん達は、常に人目を気にしなければならないお仕事をしている、言わば特殊な人間ですから。場違いなのは否めません」
申し訳ございませんと、まるで自分が悪いみたいに綾さんは頭を下げた
「ち、違います、違います。あの人達がではなく、俺が場違いだなーっと」
「?」
俺の言葉に、綾さんは不思議そうな顔をする。そして暫く考え込んだ後、合点がいったのか顔をほころばせた
「私は恭介さんの方が親しみをもてますし、好きです」
「え!?」
「だから場違いなどと言わないでください。私、悲しくなってしまいます」
「綾さん……」
なんだろう、この柔らかい優しさは。いつもと変わらないような気もするし、全然違う気もする
「……あ、分かりました! いつもの邪念が無いんですね」
これじゃただのお嬢様だ
「邪念? うふふ、恭介さんは楽しい方ですね」
頬に手をやり、たおやかに笑う綾さん。やはりおかしい
「おい、綾音」
そんなおかしな綾さんを、溝口さんが呼ぶ。「はい」と返事をする綾さんへ、面倒臭そうに言葉を続けた
「気付かれた。場所変えるぞ」
「だから変装をしてくださいと申しましたのに……。分かりました、移動しましょう」
「車あるけど、どこか行くか?」
「は、はい! 行きま」
「ごめんなさい、文之兄さん。この辺りで遊びましょう」
加奈ちゃんの声を押し退けて、綾さんは断言する。別段いつもと変わらない言い方なのに、どこか逆らい難い
「じゃお前が案内しろ。俺らこの辺、知らねーから」
「はい。それでは参りましょう、皆様」
あくまでも穏やか淑女な綾さんの合図で、この気の進まない合コンは始まった