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第153話:綾の大切

7月29日、晴れの日曜日。待ち合わせを約束していた駅の前で俺は一人たたずんでいた


「…………はぁ」


気が進まない。凄く進まない。きっと疲れるだけだそんなこと分かっているのさ、はははん


なんたって、これから妹の友達と合コンに行くのだ。もし俺が妹だったら兄貴にチョッピングライトを食らわしているだろう、ふざけた話。テンションなんか上がる訳がない


「時間は……」


腕時計の針は待ち合わせ時刻の10分前を指している。待たせるよりは良いけど、早く来すぎたな


「佐藤君」


と、丁度その時、声を掛けられた。綾さんの声だ


「あ、こんにち……」


顔を上げた俺は、綾さんの意外な姿に驚いてそのまま固まってしまう


「はい、こんにちは。今日は宜しくお願いします」


「あ、はい。こちらこそ宜しくお願いします。……服、お似合いですね」


綾さんは胸元の小さなリボンが可愛い、白のシフォンワンピースを着ていた。上品で清楚、どうみてもお嬢様にしか見えない


「ありがとうございます。楽なんですよね、これ」


そう言って、スカートの裾をちょっと摘まんで微笑む。うむ〜可憐だ


「けれど参ったな、俺なんてこんな格好ですよ?」


いつものジーンズにブルーのシャツ。シャツには大きなかき氷の絵が描いて、そこに手のひらサイズの白熊が突進しているという、なんとも不可思議なものだ


「とてもお似合いですよ」


「あ、ありがとうございます。でも綾さんを見ていると、もう少し気を使えば良かったと思います」


相手が春菜の友達なので、なるべく気取らない服をと思ったのだが、いくらなんでも適当過ぎたかもしれん


「これじゃ場違いになってしまいますね」


「そんなこと……佐藤君」


アハハと愛想笑いをする俺に、綾さんは穏やかな表情で諭すように言う


「服装なんてただの目安にすぎません。良いに越したことはありませんが、本当に大切なのは中身です」


「綾さん……。はい」


この人はいつもこうだ。普段はふざけていても、油断していると世の中の真理を鋭く突いてくる


「そうですね、まったくその通りです」


服装で評価が左右されないぐらい、立派になれってことだろう。また一つ綾さんに学ばされたな


「そうですよ。例えばこのスカートをめくったら、中に何をぶっさしているか分かったものじゃありません」


「…………」


駄目だ、この人からは何も学べない。そう言う類いの人だって事をいい加減理解しろよ俺


「ちなみにタ〇ポンです」


「やめろー! これ以上俺を汚すなー」


「なんてね♪」


「可愛くねぇよ」


「タ〇ポン使う人は先天的にマゾって本当ですか?」


「知りませんよ!」


「ふむふむ、佐藤君はナプキン派っと」


「アホか!」


「……あっ!」


「わ!? ど、どうかしましたか?」


「今気づいたのですが、ナプキンとス○フキンってちょっと似てません?」


「カバ似の妖精に怒られますよ」


「タノ○ンとタ○キンは似てますね」


「怒りますよ俺が」


「ふぅ……。日本語って本当に難しいです」


「生粋の日本人でしょう貴女は」


黒髪日本美人。黙って見返ってれば、切手になってもよさそうなのに実に惜しい


「む〜」


「可愛く口を尖らせても駄目です」


「ちぇ。……あ、佐藤君。ちょっとこちらへ」


綾さんは噴水の側へ行き、ちょいちょいと手招きをする


「なんですか?」


後を追うと、綾さんはしゃがんで地面を指差した


「これを見て下さい」


「ん? ……へぇ、タンポポですか。見事なワタボウシですね」


何処かからか飛ばされて来たのか、アスファルトの破れ目に一本だけワタをつけたタンポポが咲いていた。その生命力には驚かされる


「この季節ですと外来種ですね。ダンデライオン、見事なタンポ〇です」


「まだ続ける気か!?」


「タンポ〇使う人って、性的関心が強いって本当ですか?」


「だから知りませんって!」


「あ、綾音は前と後ろに一本づつしか入れてないんだからねっ!」


「十分変態だよ!」


「タンポ○とチャンポンって」


「似てません!」


「ところで私は何回タンポ○と言ったでしょう」


「クイズ!? えっと……7回だ!」


「答えは6回。○ックスですね」


「変な所を伏せ字にするなー!」


「それにしても皆さん遅いですねー」


「いきなり話を変えないで下さいよ……。でもそうですね、もう十分もたってます」


「十分もたってるんですか?」


「目を丸くしながら人の股間を見ないでくれません?」


「なら何処を見ろって言うんですか!」


「何で逆ギレ!?」


「だって……。佐藤君、仮にも私は乙女ですよ? 町中で股間を見てるなんて言われたら恥ずかしいです」


「え!? あ、いやそうか……」


そうだな。やや変態寄りとは言え、綾さんは女性だ。少し配慮が足りなかった


「ごめ」


「具体的には、ちん」


「やめい!」


「あいた!?」


綾さんの頭にポンっとチョップを食らわせた所で、駅から騒がしい声が近付いて来た


「あそこにいた! おーい春菜のお兄さ〜ん」


「ん? 来たみたいだな」


手を振りながら春菜の友達二人がやって来る


「佐藤君」


二人に手を振り返す俺を、綾さんは小さな声で呼んだ


「なんでしょう?」


「キャラが違っててもビックリしないで下さいね」


「はい?」


「ギャップに萌えて下さい」


謎の言葉を残し、綾さんはふらっと何処かへ行ってしまう。残された俺は曖昧な笑みを浮かべながら、春菜の友達に挨拶をした


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