バレンタインの話 前編
風邪が長引いてしまい、死にそうです
誰が喋っているか当ててみよう。答え合わせ
1、秋姉
「……私、最初からいたんだよ?」
2、春菜
「兄貴は馬鹿だから仕方ねーって。私は気付いてたぜ?」
3、F
「誘ってくれてありがとう、佐藤くん。ほんとに楽しかった」
4、戸田さん
「あはは、楽しかったよねー。ね、M」
5、M
「記号で呼ばないでって。……たく佐藤のやつ。ハーレム扱いされるし、散々よ」
6、綾音
「うーん、S君じゃないのが残念ですね」
7、燕
「ハーレム……。い、いや! やぶさかではない等とは思っていないぞ、ふしだらすぎる!」
8、ゆかな
「自爆してるわよ、燕。……燕と一緒ならハーレムも悪くないけれど」
9、真田先輩
「貴女の方は爆死してるわ……」
10、美月
「兄ちゃん、大好き!」
11、花梨
「い、いきなり何告白してるのよ美月! あんな奴、あんな奴を好きになったら……うぅ~」
12、なづなちゃん
「お姉ちゃん、顔まっか。またチカンさんにお尻触られたの?」
13、リサ
「な!? なんてうらやま……じゃない! とんだド変態ね、あの死人! 訴えるわ!!」
14、風子
「誤解だよリサ。お兄さんはそんな人じゃない。……少しうかつな人だけれどね」
15、鳥里
「か、風見さん? もしかして怒って……」
16、千里
「風ちゃんより、こっちが怖い」
17、雪葉
「『また』お尻を? ……ふふふ。面白いね、それ。もっと詳しく聞かせてほしいなぁ」
18、鈴花
「……さすがマスターの妹。禍々しい」
19、浅川
「あ、あれはキングブラザーの腹心、預言者鈴花! 取材させて下さ~い」
《今日はバレンタインデーです。皆さんはあげる人、いますか?》
そんな言葉がテレビから流れる2月14日。学校が休みだった今日、俺は春菜と部屋でのんびりとバレンタインを過ごしていた
「あ、そうだ。チョコレートくれ」
俺のベッドに寝転んでいる春菜が、小さなスプーンで水飴を混ぜながら思い付いたように言う
「ってお前、水飴はベッドの上で食うもんじゃねーだろ」
落ちたらベトベトになるやないか
「これあれだぜ? ねるやつだぜ? イチゴの」
「だからなんだってんだよ。てかまだ売ってたんだ」
俺も昔、ハマったな
「今、八種類ぐらい出てる」
そう言って春菜は、スプーンへ水飴を何重にも巻き付けて、いっぺんに食った。手間の割には一瞬で終わるおやつだな
「兄貴のベッドってやっぱ固いな、寝づらいから柔らかくしてくれよ」
「俺にはちょうど良いんだよ。嫌ならどけ」
つか何で毎日、俺の部屋に来るんだろうねコイツは
「やだ、どかねー。チョコレートくれたらどく」
「あのなぁ、本来なら俺がお前から貰う立場なんだぞ? それに今日は男にとって、一年で一番チョコレートが買いづらい日だ」
そんな日にチョコレートを買いに行けって、どんな罰ゲームだよ。リボンなんか付けられたら引きこもるぞ、このやろう
「じゃあ、やるからくれ」
「いらねーから自分で食え」
だいたい奴は、家に訪ねてきた後輩達から沢山のチョコレートを貰っている。今さら欲しがる理由なんかない筈だ
「…………」
「なんだよ?」
不満げな顔をしやがって。俺なんか0だぞ、0。足しても引いても、かけたって0。ナッシング
「兄貴ってさ」
「あん?」
「兄貴って絶対、私の事嫌いだよね」
じっと俺を見つめた春菜は、いつになく真剣な口調で聞いてきた
「はぁ? 馬鹿言うなよ、俺ぐらいお前を事を好きな奴もそうは居ないぜ」
「ほんと?」
「ああ」
「……へへ! 煎餅も食おーっと」
バリボリ、バリボリ
「まったく」
後で掃除しないと
さて、それから一時間経っておやつ時。久しぶりに勉強をしていたら、ドアがココンと鳴った
「どうぞー」
ガチャリと音を立ててドアが開く。振り向くと、トレイを持った雪葉が笑顔で部屋へと入ってくる
「おやつだよ」
そう言い、雪葉はトレイをテーブルに置く
トレイの上には黒くて丸いカップケーキみたいなものと、ミルクティーが二つずつ乗っていて、雪葉はそれをテーブルに並べた
「今年はフォンダンショコラにしてみました」
聞きなれない名前のケーキだが、ふんわりと香る甘い香りが食欲をそそる
「サンキュー、雪葉」
よっこらせとケーキの前に座り、フォークとナイフを手に取る。三口サイズってところだが、随分本格的だな
「……うまそう」
「春お姉ちゃんもどうぞ。それじゃ雪葉は部屋に戻るね」
満足した表情を浮かべ、雪葉は部屋を出て行く。感想ぐらい聞いてけば良いのに
「雪って最近、兄貴の姉ちゃんみたいだよな」
「ならお前の姉ちゃんって事でもあるな」
俺達は暫しにらみ合う。この家で一番幼いのは、俺か春菜のどちらかだと言う事を互いに理解しているのだ
「とにかく冷めない内に食おうぜ」
出来立てなのだろう、ケーキから湯気が出ている
「いただきまーす。うわ! スゲー」
春菜がケーキを切ると、中からドロリと溶けたチョコレートが溢れだした
「あむ。…………う」
「ど、どうした?」
一口食った春菜が固まってしまった
「……うまい。普通に超うまい!」
「そ、そうか。どれどれ」
チョコレートを生地にたっぷりとつけ、一口
「…………」
「な、うまいだろ?」
「……ああ」
とろけるような食感に、ちょっとビターなチョコレートの風味。そしてほんのりとした温もりが、口内を優しく包む
「俺、将来ケーキ屋やろうかな」
経理担当で
「あ、じゃあ私もやる。味見担当な」
「味見はいらん、働け!」
レジやらせとけば、客は勝手に来るだろう
「ごちそうさま。あーうまかった」
「これで1個貰えたなっと。あとは母ちゃん待ちで……」
あれ、なんだろう。なんだか心が寒いや