第31話:風のさようなら
夕方5時。コンビニへ行くついでに美月を家まで送る
「じゃーね、兄ちゃん!」
「ああ、またな美月!」
ぶんぶん手を振る美月に負けないぐらい手を振ると、美月は更に大きく手を振った
「む! やるな!」
「バイバーイ!!」
「ああ!!」
太陽のような美月の笑顔をちょっと惜しみながら、俺は振り返りコンビニへと向かう
美月の家から歩いて5分の場所にあるコンビニ、家族マート
家族マートに入って必要な物をカゴに入れ、アイスケースの前へ
「……アイスでも買って春菜に見せびらかすか」
あいつが一番好きなホームランバーを10本買ってコンビニを出ると、強い風が吹いた
「おっと……」
強いけど、清々しく清純な風だ。
まるで秋姉のよう……なんてね
「やあ、お兄さん」
「ん?」
横から呼ばれ、右を見ると帽子を深く被った男の子
「…………って風子か!」
「偶然だね。いや運命なのかな?」
「運命?」
「ふふ。……少し時間良いかな?」
「ああ、いいぜ」
「ありがとう。それじゃ河川敷の方に行こう」
風子と共に川の方へと向かい歩く
「…………」
「…………」
奇妙な沈黙。お互いに話すきっかけを探している感じ
「…………ほら」
「え?」
「ホームランバー。一本やるよ」
「……懐かしいな。ありがとう、お兄さん」
風子はホームランバーを舌で軽く舐めた
俺もホームランバーを口にくわえ、黙々と食べる
一本目……二本目……三本
「……当たり」
「ん?」
三本目を食べようと、紙包みを破いた所で風子がボソッと呟く
「ふふ、当たりだよ? お兄さん」
俺に当たりと書いてあるアイスの棒を見せる風子は、歳相応の可愛い笑顔だった
それから10分程度歩いて河川敷へと着く
「……座ろうか?」
河川敷と川を繋ぐ石階段。その一番上に座り、風子と川を眺める
夕日の光に淡く反射し、緩やかに流れる川
「綺麗だね」
「ああ」
「……本当に綺麗だ」
風子はこの景色を焼き付けるかのように凝視し、そして満足したのか、ゆっくり視線を外した
「僕、引っ越すんだ」
唐突の言葉
「…………ああ」
予想していた言葉
「……いつだ?」
「明日」
「雪には?」
「言ってない。お兄さんが最初。そして最後」
「……お前らしいな」
「僕は風だからね」
そう言い微笑む風子は、とても大人びていて、ガキな俺は気の利いた一言すら言えない
「誰かにお別れを言いたかった。この町はとても楽しかったから……未練だね」
「風子……」
「目を閉じて、お兄さん」
「え?」
「僕の最後のお願い」
「……分かったよ」
瞼を閉じる
「僕が良いと言うまで開けちゃ駄目だよ」
「分かった」
俺は更に強く瞼を閉じた
「……ありがとう」
多分、心からのお礼
そして
「…………ん」
左の頬に触れる柔らかい感触
「……風子?」
「開けちゃだめ」
耳元で甘く囁く声と、俺の瞼に優しく触れる指
「わ、分かった!」
高鳴る鼓動をごまかす様に強く頷き、風子の言葉を待つ
…………………………………………?
「まだか? 風子」
その問いに答える声は無く不安に目を開けると、風子の姿もまた無い……いや、風子が被っていた帽子だけポツンと置いてあった
「……風子?」
帽子を手に取り、風子の姿を捜す
河川敷の上、十数メートル先に風子の姿
「…………風子」
「…………お兄さん」
風子の長い髪が、風になびく
「……行くのか?」
「うん」
「…………」
「……さようなら、お兄さん」
振り返り、歩き出す風子
まるでこれが今生の別れかの様に
「っ!! さよならなんて言うな風子! 風は、風は必ず舞い戻って来る! お前は俺達の元に必ず戻って来る! そうだろ? そうだろ! 風子ー!!」
「……ありがとう、お兄さん」
最後に風子は泣き笑いの顔を見せ、風の様にあっさりと去っていった
「…………風子」
せっかく雪とも仲良くなったってのに!
「くそ! くそー!! 太陽のバカヤロー!!」
俺はこのやり場の無い怒りを、沈んでゆく太陽に向かっていつまでも吠え続けた
ちなみにアイスは溶けていた
「あ、兄貴のバカヤロー!」
今日の涙
風≧俺>>春>>>父
つづく