第151話:俺の帰還
ただいまと言えばお帰りと返事がある。それを当たり前だと思える俺は、きっと幸せなのだろう
「……着いた」
三時間を越える長旅を終えた俺は、真っ直ぐに帰った家の前で感悦に浸る。たった二日なのに、半年も留守にしてた気がするぜ
「ただいま〜」
玄関のドアを開け、荷物を床に置きながら自分の帰宅を中に知らせた。するとリビングに続くドアが開き、
「おかえりなさい、おに」
「おかえり兄貴!」
雪葉を押し退けて春菜が飛び出して来た!
「疲れたろ? ご苦労様」
「お、おう」
春菜は俺の左腕を抱き、体をすり寄せる
「は、春菜?」
「なんだよ、あにき〜。へへ」
「う……」
な、なんだこの上機嫌は。土産が目当てか?
「ほら早く兄貴の部屋に行こーぜ。マッサージしてやるからさ」
「あ、ああ」
靴を脱ぎ、部屋の方へと引っ張られ……
「お兄ちゃん!」
春菜のなすがままとなっていた俺へ、雪葉が気合いの一声。思わず、何でしょうかと敬語を使ってしまう
「お茶を入れます、来てください!」
怒っているのか雪葉も敬語を使い、俺の右手をくいくいっと引っ張る
「ゆ、雪葉?」
「なんですか!」
「い、いえなんでもありません……」
な、なんだこの不機嫌は。何か悪いことでもしてしまったか?
「兄貴は私のマッサージを受けるんだよ!」
ぐい、ぐい!
「お兄ちゃんは雪葉とお茶をするのです!」
くいくい、ぐ〜い! !
「ち、ちょっと待ってくれ! 一体どうしたんだ二人とも」
このままじゃ俺の体が裂けてまうで!
「だって……」
「なんかさ、兄貴と会うの久しぶりな気がするんだよ」
そう言って二人は少し潤んだ目で俺を見上げ、抱き付いた腕を更にギュッと強く抱き締めた
「……たく、何言ってんだよ。1日居なかっただけじゃないか」
悪い気はしないけど
「そうなんだけど、なんかさ……。まぁいいや! とにかくマッサージして体ほぐしたらさ、そのあとは一緒に風呂でも入ろ〜」
「入らんわ! アホか!!」
腕白にも程があるわ!
「お疲れのお兄ちゃんには甘いお菓子と熱いほうじ茶が一番です。さぁお兄ちゃん、一緒にリビングへ参りましょう」
「す、少し見ない間に随分大人っぽくなったな雪葉」
思わずさん付けで呼びそうになってしまった
「ほら兄貴、行こうぜ」
ぐい
「こっちだよ、お兄ちゃん」
くい、くい
「……む!」
「む〜!」
ぐい、くい、ぐいぐい、ぐい〜!!
「い、いてて、いてててて!? お、落ち着け二人とも!」
左右に引っ張られ痛がる俺の腕を、二人は慌てて離した。とある昔話ならば、二人とも母親認定されるだろう
「俺の事を思ってくれるのは嬉しいけどな、限度ってものがあるべさよ」
腕を盗られて、テリー〇ンピンチ! ってな事になりかねない。……十代どころか二十代にも理解出来ないかもしれないが
「……ごめんなさいお兄ちゃん」
「ごめん、兄貴……」
俺の説教に二人は肩を落とし、しょんぼりとする。このくらいにしとくか
「でもなんか嬉しかった、ありがとよ二人とも」
二人の頭をくしゃりと撫でて礼を言う。可愛い妹に慕われて本当、俺は幸せ者だぜ
「それじゃ改めて。ただいま雪葉、春菜」
「うん! お帰りなさいお兄ちゃん」
「おかえり兄貴!」
今日のべたべた
雪>>>>>春>>>>母≧秋>夏
「んじゃ兄貴の部屋で茶飲もうぜ」
「うん」
「ああ……っと、そうだ春菜。これ土産のげんこつ煎餅。好きだろ?」
「好き、超好き!」
「やるよ。いっとくけど、これは自腹だからな?」
「サンキュー! じゃ、もういいや。さっそく自分の部屋で食ってくる〜」
「お、お姉……」
「……ふ、所詮煎餅に負ける兄よ」
「そ、そんなことないよ? 春お姉ちゃんも、お煎餅なんかよりお兄ちゃんがずっと好きです!」
「目が泳いでまっせ」
ツルハシ