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元旦家族

ゆさゆさ、ゆさゆさ。一定のリズムが俺の体に優しく伝わっている


「お兄ちゃん、起きて」


まるで揺りかごの中にいるようだった。懐かしくて心地よい揺れは、俺を更に深い眠りの中に……


「起きろー」


「ぐぼぉ!?」


全身に衝撃が! 


「ごほ、ごほ!」


咳き込みながら目を開けると、俺を覗き込む春菜と目があった。どうやらこいつは俺に覆い被っているらしい


「起きた?」


「お、お前……」


「春お姉ちゃん! お兄ちゃんをいじめたら駄目だよ!」


絶句している俺に代わり、雪葉が怒ってくださった


「なんだよ、起こしてやっただけなのに。まぁいいや、母ちゃん雑煮〜」


ドタバタ足音を立てながら春菜は去って行く。姉ちゃんとは別の意味で悪魔みたいな奴だ


「大丈夫? お兄ちゃん」


「なんとかな」


俺でなかったら内臓が破裂していただろう


「いま、何時?」


「朝の6時30分過ぎ。もうすぐ初日の出だよ」


「そっか。明けましておめでとう雪葉」


「明けましておめでとうございます、お兄ちゃん」


寝ていたソファーから起き上がり、体に掛かけられていた羽布団をたたむ


ここはリビング。初日の出を見るために寝ないでテレビを見ていたのだが、いつの間にか寝てしまったようだ


「暖かいな部屋」


「お兄ちゃん、朝ごはん食べられますか?」


「ああ。雑煮だろ?」


「うん。何個お餅食べる?」


「いっこ、にこ、サンコーン!」


「分かった。焼いてくるね」


雪葉は嬉しそうにキッチンへ向かって行った


「……完全スルーか」


新しいの考えよ


チャンネルを手に取り、適当にポチポチ。面白そうな番組は見当たらなかった


「ふむ」


ニュースでも見るか


《え〜昨日、豚がトラックから逃走し》


新年早々、物騒な話だ


「うう〜ん、それアタシのお酒〜」


「…………」


向かいにあるソファーの裏から変な声がしたが、無視しておこう


「よこせ〜、お前の酒をよこせ〜」


変な人も転がって来たが、見なかった事にしておこう


「お雑煮出来たわよ〜」


「よっしゃー!」


キッチンからお椀を持って出てきた母ちゃんを、春菜が小躍りしながら迎えている


「お兄ちゃん、お雑煮出来たよ〜」


「おーし!」


俺も小躍りしながらテーブルに向かった


「いただきま〜す!」


全員がテーブルに着いたところで、朝食は始まった。俺や雪葉、母ちゃんは普通のお椀だが春菜はどんぶりを使用している


「お前、それ餅何個入ってんだ?」


たっぷり入るどんぶりなのに、餅でつゆが見えない


「10個だけど? 1個食べる?」


「……いや、いい。喉に詰まらすなよ」


「ああ! お〜伸びる伸びる〜」


餅をくわえて幸せそうだ


「どれどれ」


鰹をベースとした醤油のつゆに、かまぼこやミツバ、だて巻き玉子に鶏肉を入れた普通の雑煮。ちょっぴり焦げた餅の表面が食欲をそそる


「うん、うまい」


「良かったわ〜」


母ちゃんは嬉しそうに微笑み、いつもの糸目を更に細めた


「ずっと気になってたんだけど、それで見えるの?」


たまにこのぐらい目を細める事があるけど、閉じているようにしか見えない


「見えないわよ〜」


「え!? そ、そうなの?」


「だって閉じてるもの〜」


「や、やっぱり閉じてたんだ」


16回目の正月にして、また一つ母の生態が明らかにされたな


「ん? だけど前、そのぐらい目を細めながら料理してなかった?」


「閉じてても料理は作れるし〜」


「いやいや、普通に無理でしょ。目を閉じてたら何してるか分からないじゃん」


「大抵の事は勘で分かるわよ〜」


「勘で!?」


「慣れれば誰にでも出来るわ〜」


「出来ないよ!」


少なくとも俺は無理だ


「あれ? 兄貴は出来ないんだ。へ〜」


「お、お前も出来るんだ……」


やっぱ凄いな、こいつ。何でも出来やがる


「出来ないよ?」


「出来ないのかよ!?」


「危ね〜じゃん」


「正論か!?」


その通りだけど!


「あらあら〜今年も恭介は元気ね〜」


「お兄ちゃん、今年もどうか健やかに」


「いや、そんな二人で微笑ましく見守られても……あ、そういえば秋姉はもう出かけたの?」


友達と神社へ行き、初日の出を見てくると言っていた


「5時頃お友達が迎えに来たわよ〜。お昼前には帰るって〜」


「そっか。今年で卒業だもんね」


いよいよ春からは秋姉も大学生。大学生の姉……ふ、ふふふ


「酒〜、酒よこせおら〜むにゃむにゃ」


「…………」


そういえばあれも大学生だったな


「あの子もそろそろ起こさないとね〜」


「春菜、起こしてきなさい」


「や、やだよ! 兄貴が行けよな!!」


「あらあら〜」


母ちゃんはあらあらと呑気に立ち上がり、夏紀姉ちゃんの前に立った。そして


「起きなさい夏紀」


物凄く普通に声を掛けた!


「ッ!? は、はい! 夏紀起きました、ありがとうございます!!」


一瞬で起きた姉ちゃんは、そのまま直立不動。いや〜弱いですね〜


「そろそろ初日の出が上がるわよ〜」


「は〜い」


今年も母ちゃんには逆らわない方が良さそうだ。ま、何はともあれ


「明けましておめでとう」


今年もよろしく




俺の元日に続く


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