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クリスマスデート 前編

明けましておめでとうございます。それではクリスマスの話を……いや、すみません

12月23日



電子機器の耳障りな音が聞こえる。深い眠りに沈んでいた俺の意識は半ば強制的に水面へと引っ張り上げられ、淡い光を認識した


「朝……か」


最高に腐ったこの世界で、また朝日を拝むことになるとはな


「ふ」


太陽に乾杯


とまぁ寝ぼけた頭で適当にハードボイルドを決めてみたが、眠い。どうせ今日は休みだし、もうひと眠り……


ピンポコパンポコ


「むう」


音の正体は電話か。それに気付いてしまったら仕方ない、俺はベッドの棚に手を伸ばし、携帯を取った


「はい、もしもし」


「あ、もしもし。水野です」


「水野? ……ああ、Fか」


「う、うん……。なんで記号なんだろ」


同じクラスのF。こいつが俺に電話をしてくるのは珍しい、何かあったのか?



「どうした、こんな朝っぱらから」


「朝早くにごめんなさい。あのね、佐藤くんに相談したい事があって電話したんだ」


「俺に? いいよ。言ってみ」


「ありがとう、佐藤くん。ええと――」


んでFの話をまとめると、最近Fは告白をされたらしいのだが、付き合う気はなくて断ったらしい。しかしその子は諦めが悪く、今もFに付きまとっているとの事だ


「大変だな」


俺にはそんな経験が無いんで、投げやりに言ってみる


「うん……。付き合ってる人が居るからごめんなさいって言ったんだけど、信じてくれないの」


「ふ〜ん」


「それでね、その、えっと……」


話の途中でFは言い淀み、そのまま黙ってしまう


「F?」


「お、お願い佐藤くん、1日だけ恋人の振りをして!」


「…………ん? いや、ちょっと待て。なにを言ってるんだお前は」


一瞬何を言ってるのか分からず、理解するのに時間が掛かってしまった


「そ、そうだよね、ごめんね。振りでも嫌だよね」


「そういう問題じゃなくて、お前と恋人にってことだよな? なんかおかしくないか?」


「う、うん、おかしいよね。で、でも佐藤くんしか頼れる人いなくて……」


「そうじゃなくて、ほんとーに俺でいいのか? なんか色々間違えてないか? てゆーか絶対間違えてるよなお前!?」


「え、あ、あのっ、ご、ごめんなさい!」


つい怒鳴り声を上げてしまった俺に、Fは怯えた声を出す


「い、いや、俺の方こそ怒鳴ってごめんな」


しかしなぁ


「う、うん。……変な相談してしまってごめんなさい」


怒られたと思ったのか、しょんぼりとするFに罪悪感がわいてしまう


「……どのくらい困ってるんだ?」


「え?」


「かなりか? 少しなのか?」


「か、かなり?」


「…………はぁ」


深くため息をつき、次に続けるべき言葉を考えた


「佐藤くん?」


「いいよ」


「え?」


「恋人じゃなく友達として付き合ってやる、何をすればいいんだ俺は?」


「あ、ありがとう! そ、それじゃあ、あのね」


で、話を飛ばして


12月24日


「…………はぁ」


よりによって何で今日なんだろう


今日はクリスマス・イヴ。世間では家族や恋人、あるいは一人部屋の隅で膝を抱えて孤独に過ごす素敵な日らしい


そんな素敵な日の寒い朝に、何故か駅前の噴水前で突っ立っている俺。なんか泣きたくなるね、こりゃ


しかしあれだね、こうして見てると世間にはカップル野郎どもが多いことに気付くね


「…………」


一人で居る事が何となく気まずくなり、間を持たせようと時計を見る。まだ待ち合わせには10分早いようだ


「むぅ」


早く来て欲しいような、来て欲しくないような


そんな事を思っている内に、電車が到着したのか駅から人が続々と出てきた。Fは次の電車かね


「…………ん?」


何気なく人の流れを眺めていたら、その中にちょっと目を引く子がいた。それは花柄のプリントワンピースにオレンジ系のニットジャケットを羽織った女の子なのだが、どっかで見たことがあるような……


その子は被っているニット帽を直しながらキョロキョロと辺りを見回す。そしてこちらの方を見た時に何故か驚いた顔をした


「……ん?」


女の子は息を弾ませながら俺の前にやって来て、柔らかな笑顔を見せる


「あ、どうも」


やっぱり知り合いだったのか? しかしどうも思い出せな


「お待たせ佐藤くん」


「い!? ……ま、まさかお前」


「今日はよろしくお願いします」 


と言い、女の子ってかFは小さくおじきをする。それ見て、今日が最悪のクリスマスになることを俺は確信した


「ハァ……これからどうすんだ?」


精神的ダメージは大きい、早めに終わらせよう。悲壮な決意で尋ねるとFは顔に紅葉を散らし、照れくさそうにはにかんだ


「え、えっとね、昨日、告白してきた子に連絡したの。今日は、か、彼氏とクリスマスを過ごすからって」


うつむき、もじもじとするF。頬が勝手にひきつってしまう


「……それで?」


「う、うん、それでね。その子やっぱり信じてくれなくて、なら見に来てって言ったの」


「ふむ……。要するに俺達が付き合ってる所をその子に見せつけると?」


「そ、そうなんだけど……。あ、あはは」


「ええい照れるな! シャキッとしろい!!」


「は、はい!」


俺の指導にFは直立不動


「よし。それで、その子ってのは近くにいるのか?」


「……提示版の方を見て。あ、こっそりね」


言われた通りこっそり見てみると、提示版の横でこちらをジッと見ている子を見付けた


「あ、あれか」


その視線には明確な殺意が宿っている


「思い込みが強い子みたいだから、上手くいってると思う」


「そ、それは良かったな」


上手くいった結果、刺されると言う展開になるんじゃ……


「……じ、じゃそろそろ行くべ。ついてこいや!」


「はい!」


不安と恐怖をごまかすように、俺は大股でズンズンと歩き出す。目的地は決まってないが、取り敢えず人が多い商店街の方へ行こう


「と、場所交代な」


「え? あ……」


車道側を歩くFと場所を入れ替える。道が開けているので、いざというとき逃げやすいのだ


「ありがとう」


「ん?」


「やっぱり佐藤くんって優しいな」


「何言ってんだお前」


「ううん、何でもなーい。えへへ」


「…………」


殴りたい



クリスマスだからか商店街は、いつもより華やかだった


「とはいえ、賑やかなのはオモチャ屋とケーキ屋ぐらいなものかな」


「ケーキって1日経つと安いよね。恥ずかしいけど、毎年1日遅れで買っちゃうんだ」


「貧乏性ってやつか、分かるわ~。俺も弁当とかで半額シール貼ってあるやつ見たら、つい買っちまうもん」


「うん、うん! 分かる、分かる~」


「他にもさ……げ!?」


前から来るあれはクラスメートのT&K!


「とうしたの、佐藤くん。……あ」


固まる俺の視線を追ったFも、奴らに気が付いたようだ。どうするピンチだぜ!


「ど、どこかのお店に隠れよう?」


「あ、ああ……」


近くにあるのは、魚屋、肉屋、ラーメン屋の三軒。一番安全っぽいのは


「魚屋だ、行くぞ!」


「うん!」


うつむきながら早足で魚屋に行く。そこでは、はちまきを頭に巻いた大将が両手を上げて迎えてくれた


「ヘイラッシャッ! 今日はカニが最高だってさHAHAHA!!」


「そ、そうですか」


無駄にテンション高いオッサンだな


「オーウ、見てくれよこのサンマ。こんな活きが良いのに、たった90円だぜ? だけど死んでるくせに高いって言う客がいたんだ、だから俺はそいつに言ってやったよ。香典込みにしては安いだろってねHAHAHA」


「…………」


笑いどころが全く分からん


「なんでクリスマスにお前と魚買いに来てんだ俺」


「うるせーな。後でうまか棒を奢ってやるから」


オッサンのジョークを聞いている内に、T達の声は近付いていた。ヤバいと思って振り替えると、買い物に来たらしいT達と目が合ってしまう


「あれ、佐藤? お前も買い物か」


「あ、ああ。ちょっとサンマをな」


「ここの魚、うまいからな~。俺らも買いに……」


Tは言葉を止め、Fを凝視する。ば、バレた?


「……そっちの子って、もしか彼女?」


セーフ!


「と、友達だ。友達のF子ちゃん」


テンパってドラ〇もんの作者みたいな名前にしてしまった


「F子さん……。初めまして、俺Tって言います!」


「あ、俺K! 宜しく」


「は、はい、宜しくお願いします」


戸惑いながらペコリ。小動物みたいな動きだ


「か、可愛い……」


「じゃ俺達は帰るから! 行こうぜF子ちゃん!!」


「は、はい」


Fの手を引き、俺は逃げるように店を飛び出す


「ずるいぞ佐藤!」


「俺にも彼女を紹介しろ~」


お前らの友達だろうがドアホ! そう怒鳴りたいのを我慢し、俺は商店街の奥へ向かってひたすら走る。一刻も早く逃げなくては!


「ま、待って佐藤く、きゃ!」


「あ!」


逃げる途中でFは転び、痛そうに膝を押さえた


「大丈夫か?」


「う、うん。ごめんね佐藤くん」


「俺こそ悪い。ちょっと待ってな、そこにコンビニあるから絆創膏買ってくる」


Fを起き上がらせ、俺はコンビニへと入った


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