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芦の三姉妹 21

「よいしょっと」


「ん」


梢をおぶると、やっぱり梢は密着してきた。で、俺はわざとに体を揺らしながら歩く。これならばそう簡単に密着出来まい


「…………」


確かに密着はしなくなったが、梢の体から徐々に力が抜けていってるような気がする


「……恭介」


「ん?」


「酔う……の」


「そ、そうか、ごめん」


変な事はするもんじゃないな


「よっ」


改めておんぶをし直して、楓さん達の後をついて行く。どうやら向かっているのは一番近くにあるオープンテラスカフェの様だ。藁葺きで出来た屋根が南国情緒溢れている


「此処で良い?」


「いいよ」


「空いてるし、無難だよね。恭達は……」


振り返った椿は俺を見て申し訳なさそうな顔をした


「……ありがとう。ここ奢るね」


「良いのか? サンキュー」


「ん、入ろ」


椿と楓さんは先に店へと入って行った


「下ろすぞ、梢」


「熱くない?」


「ここら辺の砂は、ぽかぽかしてて気持ち良いぞ」


向こうが熱すぎる


「……うん」


「よし。っと……どうだ?」


「あったかい」


「だろ? ほら、店入ろうぜ」


「うん」


楓さん達が居る場所は、店に入って直ぐに分かった。窓際の席で椿が手を振っていたのだ


「なんか不思議だな、水着で喫茶店とか」


椿達の席に行き、梢と並んで座る。俺の向かいは楓さんなのだが、彼女は無表情で俺を見つめている。綺麗な分、怖いぞ


「そうだね。んと……小豆アイスにしよ」


「俺はヤシの実ジュースでいこう」


店の前にあった立て掛てボードに、そんなもんがあると書かれていた。……気になるじゃん?


「私はアイスコーヒー」


「クリームソーダなの」


「分かった。すみませ〜ん」


椿は店員さんを呼んで注文をする。その間も楓さんはジっと俺を見ていた


「…………」


めっちゃ気まずいんすけど


「あ、えっと……。楓さんはどのくらい泳げるんです?」


一キロは余裕かな?


「20キロくらい泳げるよ」


「20キロ!?」


「プールで、だけれど」


「そ、そうですか」


20キロなら、ただ歩いてるだけでも疲れそうだ


「梢はどうだ?」


「100メートルちょっと」


「ほう、凄いな。俺もそんぐらいだ」


平泳ぎとかならもう少し伸びるけど


「去年プール大会に出るからって、一生懸命練習したんだよね。それで今では、あたしよりも泳げるようになっちゃって。もう姉のメンツ丸つぶれだよ」


注文を終えた椿が冗談半分に言うと、梢は慌てて首を振った


「私、椿姉より泳げない」


「変な気を使わなくていいの。梢に負けるのって結構嬉しいんだから」


「そうなの?」


「うん。次は負けないぞーって気合いも入る。実はこっそり練習してるんだ」


そう言い、椿はクロールのジェスチャーをする


「てかバラしたらこっそりの意味がないだろ」


「あ〜しまったー」


「二時間サスペンスドラマだったらクレームがくるレベルのネタバレだったな」


「だね、あははっ」


「はは」


こうして明るく笑う椿を見ていると、なんか自然に頬が弛んでくる。この和やかな空気感は椿特有のものだな


「お待たせしました〜」


店員のかけ声と共に注文した物が届き、テーブルの上に並べられる。各自の飲み物と、皿に乗ったミックスサンドだ


「よかったらみんなで食べて」


「ああ。……ところで今さらだけど金持ってるのか?」


考えてみたら水着なんだよな俺達


「あ、ごめん説明するの忘れてた。これで精算するから大丈夫だよ」


そう言い、椿は左腕にしている腕時計の様なものを見せる


「ここの会員証になってるんだこれ。この中にお金チャージしておくの。まだ五千円くらい入ってるから」


「ど、どこの近未来なんだここは」


都内にも無いぞ、そんなシステムのプール


「いただきます」


「はい、どうぞ」


梢は頷き、小さな口でサンドイッチをくわえる。そして目をぱちくりさせた


「どした?」


「……味噌ぎみなの」


「は? ……む」


トマトサンドを手にとって開いてみる。マスタードの代わりに辛子味噌が塗り立てられていた


「なぜ味噌を……」


「おいしい」


「トマト味噌ってあるからね。どんなのか試しに頼んでみたの」


「ほう。どれどれ」


椿と梢が注目する中、サンドイッチを手に取り一口ぱくり。酸味のあるトマトと新鮮なレタスの歯ごたえが良くマッチしていて、その中に微かだけど味噌の甘味と旨味がある。うまい


「結構合うな」


「本当? それならあたしも食べてみよ」


「俺達は実験台か。さて、ヤシの実ジュースの方は……」


なんかボケッとしたスポーツドリンクみたいな味がする


「どう?」


「オカエリヤスを水で薄めたらこんな感じだな」


「ふーん。アイス一口食べる?」


「本当小豆好きだねお前は」


それから適当な話をし、一息ついた所で店を出た


「ごちそうさま。ありがとな椿」


「ううん。さ、ラストスパートいこー」


帰りの新幹線は6時半。今は1時過ぎなので、後50分ぐらいしか時間の余裕がない


「よっし、ギリギリまで遊ぶぜ!」


水中で椿にバックドロップでも喰らわせてみるか!


「姉さんも……あれ? わ!?」


「ん? わ!?」


何事かと思って楓さんを見ると、楓さんは手を前でクロスさせてシャツを脱いでいた。たったそれだけの動作なのに、妙に目を引く


「ど、どうしたの、いきなり」


「少し泳ぐから」


そう言って、楓さんは身体を軽く屈伸させる


「……むぅ」


初めて太陽の下で見た楓さんの身体は、思わず触ってしまいたくなるぐらい、なまめかしい


背中から腰、尻、太ももと続くラインは滑らかで、和弓の様に美しい曲線を描いている。そして何よりシャツから開放され、動く度に揺れる乳が最高に魅惑的だった


「……色々と反則だよね姉さんって」


「だな」


ふくよかって訳じゃないのに、なんか圧倒される


「……見てないで泳ぎに行けば?」


「あ、そ、そうだね」


「お、おーし、行くぞみんな」


テンション高めて行くぜ!


「恭介、例の」


梢は俺の前に回って、ちょいちょいと手を引っ張る


「よっしゃこーいって、もうそんなに熱くないぞ、砂」


いい加減、恥ずかしいし


「私の皮膚を侮ったら駄目」


「いや、そんな自信ありげに言われてもな……。一度踏んでみろよ、熱かったらおぶるからさ」


「……分かった」


渋々だったけど幸い砂の温度は低くなっていて、俺達は無事に浜辺を歩く事が出来た


「な、大丈夫だったろ?」


「うん」


コクンと頷く梢の頭を、つい撫でてしまう


「……ありがとな、梢」


「え?」


「いや、なんでも」


これでまた冬までさよならかと思うと、少し寂しい気もするが、今年も楽しかった。ありがとう、芦屋三姉妹――


なんてまとめコメントを考えていたら、俺達に向かって声が掛けられた

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