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芦の三姉妹 19

「はい、いっち、に。いっち、に」


「いっち、に。いっち、に」


プールに集合してから約五分。楓さんを除いた俺達は椿の指示の下、本格的な準備体操をしていた。中々疲れるなこれ


「……恥ずかしい」


「だな」


人前での体操は、かなり恥ずかしい。梢が照れるのも分かる


「怪我しない事が一番大切。恥ずかしいからって準備を疎かにして怪我をしたらつまらないでしょ?」


「……だな」


お前は学級委員かってぐらいの正論だ、何も言えん


「はい終わり。それじゃ、いっぱい遊ぼー!」


「……やっと終わったの」


「ふぅ。泳ぐのは良いけどさ、お前らの水着だと泳ぎ難くないか?」


特にビキニは、上が外れてハプニング! てな展開になりかねん


「そうでもないよ? これって見せる水着だけど、機能は普通だから」


「……ふむ」


後ろを紐で結ぶタイプなのだが、意外とほどけ難いのかね


「とにかく行こ? もうすぐ波の時間だよ」


波?


「姉さ〜ん、移動するよ〜」


楓さんは黙って立ち上がり、俺達の側にやって来た。結構素直だよなこの人


「ここで泳ぐんじゃないのか?」


「一般向けのプールもあるから。波とかあって楽しいよ」


「ふーん」


「ついてきて」


反対側にある扉を指差し、椿は歩き出す。その後ろを鴨の親子みたいについて行く俺達。なんだろうね、この微妙に盛り上らない感じ


考えてみればテンションが超低い人と低いやつ、そして普通の二人で集まってんだ、微妙な感じになるわな。よし、上げてくか!


「先ずは四人で競争しようぜ! ビリはジュース奢りだからな!」


「やだ」


「うん、やだ」


即否定。凄いチームワークだぜ


「余り泳げないの」


「そ、そうなのか。よかったら少し教えようか?」


鬼教官として!


「梢が言ってるのはそう言う事じゃないよ」


「え?」


「結構混むんだよね〜」


そんな事を喋っている内に俺達は扉の前へ着き、椿はそれを開けた


「…………は?」


景色一転。扉を抜けると、そこは南国だった


「す、凄いな……あちち!」


タキストロンだった床は、一歩進むとサラサラした白い砂に変わり、俺の足をジリジリと焼く


「てか解放感が半端ない!」


ここも三階の天井まで吹き抜けていて、嵌め込みガラスの天窓からは陽光が降り注いでいる


「プールも広いし、マジで凄いよ」


砂浜の先に見えるプールはメインプール場と同じぐらい大きく、その周りには南国っぽい木や南国っぽい作り物の岩が設置してある。二階の南国っぽい店の前で南国っぽいねーちゃん達が踊っていて、とにかく南国だ


「ほら行こ、行こ!」


椿は俺の腕を組み、ぐぃぐぃっと引っ張った。腕に押し当てられた柔らかな感触が、男心にハプニングだぜ


「って、あちちちち!?」


砂で足が焼ける!!


「飛び込めー」


プールは砂浜から自然に続き、俺達は走ったまま水の中へ入る。足首から膝元へ、膝元から下っ腹と奥へ行けば行く程深くなる様だ


「お〜、温くて気持ち良い」


やっぱ夏はプールだな


「梢と姉さんも早くー」


呼ばれた二人は、まだ扉の所でもたついていた。どうも梢は熱い砂が苦手ならしく、足を出したり引っ込めたりと面白い動きを披露している


「私は入らないから、パレオ預かるよ」


「……うん」


楓さんは梢からパレオを受け取り、プールサイドにある休憩場のような所へと向かう


その途中、やはり楓さんは通り掛かる人達の視線を釘付けにし、暫しの硬直をもたらせた。メデューサか?


「近寄るなオーラが凄いでしょう、姉さんって。だけど尚更それが姉さんの魅力を引き立たせてるみたいなんだよね」


「なんて言うか楓さんを見てると、何となく落ち着かない気持ちになるんだよ。他の人もそうなのかね?」


怖いもの見たさってやつで見入ってしまうのかもな


「どうだろ? 姉さんぐらい美人だと、そうなっちゃうのかな? ……やっぱりちょっと羨ましい」


「だから羨む必要ないって」


たく、どんだけ贅沢なんだコイツは。俺なんか……俺なんか!


「でも、恭はあたしに見とれてくれないでしょ?」


「え?」


「……なんちて。梢ー、いつまでも躊躇してないで早く来なさーい!」


「椿……」


流行ってるのか、それ


「い、行く。待ってて」


一方、椿に呼ばれて覚悟したらしい梢はようやく砂に足を踏み入れた。そして恐る恐る何歩か進んだ後に体を縮こませて立ち止まってしまった


「どうしたんだろ?」


「熱くて歩けなくなったんじゃないか? よし」


プールを出て小走りに梢の元へ行く。側に寄ると梢は泣きそうな顔で俺を見上げた


「大丈夫か?」


「……あんまり」


「そっか。よっと」


「あっ」


梢の横に立ち、抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこって奴だ


「軽いな梢は。何キロ?」


「半俵とスイカ三個分ぐらいなの」


「キ〇ィちゃんみたいな体重だな」


米俵でって所がまた渋い


「恭介」


「ん?」


「ありがとう」


「ああ」


若干恥ずかしいが、周りからは仲良し兄妹って感じに見えてるだろう


「へい、お待ち」


「かたじけない」


梢をプールに下ろして俺も水の中へ。ふー、やっぱ気持ち良いわ


「ありがとね恭」


「おう。……言うほど混んでないよな」


パッと見、四割埋りと言った所だろう結構余裕がある


「だね。運が良かったかも」


「な。……さて、のんびり泳いでみるか」


仰向けになってプカプカ。太陽がいっぱいだ


ピンポンパーン


《ただいまより五分間、波を発生させます。小さなお子様はお近くにいる大人を利用するか浅瀬の方へお控えなすっておくんなまし》


「流行ってんのか時代劇」


それに大人を利用って……


「すみませーん」


「ん?」


突如、雪葉ぐらいのガキんちょが三人現れた。声を掛けて来た子は、ちょっと緊張してそうだが明るい雰囲気の子で、残り二人はその子の後ろに隠れている


「いいですか?」


つぶらな瞳で俺達を見上げてくるが、なんなんだ?


「うん、いいよ。はい」


椿は手を伸ばし、その手をガキんちょが握る。それでガキんちょの顔はホッとほころび、


「ありがとーございます」


と可愛らしく頭を下げた


「あの……いいですか?」


それを見た後ろの子達も俺と梢の側に寄って、そう聞いてきた。よく分からんが「良いよ」と答えると、二人は左右に分かれて俺の腕に掴まった


「…………」


ガキんちょ達に伸ばした手を引っ込め、恨めしそうに俺を見る梢。これは一体……


「このプールのルールなんだ。波がある時、小さな子はプールを出るか大人の側に居るようにしましょうって。それを大人達は出来るだけ協力してあげるの。地元ならではのルールだよね」


「なるほどな」


都会では難しいかもしれないが、中々良いルールだ


「お姉ちゃんも手を繋がないとダメ! 危ないよ!」


「…………」


椿の手を繋いだ子に注意され、梢は物凄く不満げな顔で椿の側に行き、手を握った。なんとも気まずい雰囲気だ


「あ、波来たー」


「ん? ぶへら!?」


荒波!?


「きゃー! あははは!!」


「ぬお、ぬおー!」


引っ張られる、引っ張られるー!?


「潜ると楽しいですよ!」


「そ、そうか? じゃ、いっせーのせ!」


左右のガキんちょ達と一緒に潜る。波の下は不思議と穏やかで、波にさらわれている梢のヨロヨロダンスが楽しめた


「ぷはー。楽しいな、波!」


「ねー」


「ここ深いから凄いです!」


「な。……お、次デカイの来るぞ! よし、正面から突っ込めー」


「はーい!」


ヤバい、超楽しいかも波のプール!




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