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芦の三姉妹 18

さて、プール。あれからなんやかんやで準備して、なんやかんやとバスに乗り、なんやかんやに歩いてようやく着いた訳だが、そこはコンクリートで出来たドーム型の大きな建物だった


しかし辺りに他の建築物や家屋は無く、人も殆ど見当たらない。よって田んぼや畑もないし、バス停も遠い


さすがに道は整備されているが、この先は山に続くだけで何もない。そう、ここはまるでぽっかりと空いたミステリーサークルのような、そんな違和感がある場所だった


「……凄いな」


一体どんな狂ったビジョンを持てば、こんな場所にプールを建設しようなどと思えるのだろう。金持ちの道楽か?


「どうしたの恭?」


でかい入り口の前で呆然と立ち尽くす俺に、椿が声を掛けた


「立派すぎて驚いたんだよ」


入場料1800円ってのも驚いているが


「凄いよね〜、遊園地みたいだよね。はい、割引券」


貰ったチケットには800円引きと書いてある


「お〜」


これはお得なチケットだ。しかしあれだね、いつもながらマメだね椿は


そんな椿を先頭に、俺達は入り口へ向かう。大きな両開き式自動ドアを潜ると、広々としたロビーと休憩所、そして二人並びのカウンターがあった。窓ガラスから入る光が爽やかに輝いている


「ホテルみたいだな」


呆れ半分で呟く俺にスーツを着た受付のレディがニコッと微笑みかけて下さった


「室内プールなのな」


吹き抜け天井の解放感が凄い


「メインプールの屋根は開くよ。今日は天気良いし、多分オープン状態かな」


「なんだそりゃ、西武球場か?」


どんだけ金掛けてんだっつーの


「開くのは福岡ドームなの」


あら詳しい


「因みに何ファン?」


「赤ヘル」


「……渋いな」


「ほら二人とも、早く入ろ? 姉さんが先に行っちゃうよ」


そう言い、椿は先を行く楓さんの後を追っていった。俺達も顔を見合わせた後、カウンターに向かう


「いらっしゃいませ、ようこそおいで下さいました」


「こ、こちらこそ」


大人な女性に丁重な挨拶をされると、かしこまってしまうな


「あ、これ割引券です」


「はい、承りました」


承ってもらい、残りの料金を払う。すると、鍵を一つ貰った


「お荷物はロッカーにお願いします。鍵はきちんと閉めて下さいね」


「はーい」


なんだか小学生に戻った気分だ


「それじゃ恭、後でメインプールでね」


「あいよ」


受付奥にある通路へ入り、直ぐにあった突き当たりで女は左、男は右に別れる。そして通路を歩いてゆくと、ロッカーが立ち並ぶ更衣室へ着いた


「Eの62は……」


ここか


自分のロッカー前で荷物を下ろし、水着を出す。周りに誰も居なかったので隠さずにそのまま素早く着替える


「よし」


荷物をロッカーに入れ、鍵を閉めて壁にあった案内板を見る。案内板によると、この更衣室からプールに出られるらしい


「こっちか」


矢印に従って更に奥の方へと向かう。俺が歩く音以外しないのだが、客はいないのか?


今さらながらぶっちゃけてしまうと、俺は人混みが苦手である。ちなみに行列やサウナ風呂も苦手


だがしかし人がいなさ過ぎても寂しい。複雑なお年頃なのである


そんな思春期っぽい事を考えていたら、扉を見つけた。その扉を開けると――


「……凄いな」


大きなプールが広がっていた


長さ50メートル、横も30はあるこのプール。人は三十人以上泳いでいて、はしゃぐ声も聞こえてくる。だが、やけに閑散としていて物寂しい


それは広さに対して人数が少ないと言う事もあるだろうが、何よりも周りが殺風景だからだ。辺りを見渡してみても監視台に飛び込み台、横壁のガラス窓。そして8割程開いている丸みを帯びた天井、それくらいしか目につく物が無いのだから


「…………」


ストイックに泳げって事かな


「きょお〜」


「お、来……」


声の方へ振り返って三人を見た時、俺は柄にも無く見入ってしまった。それは俺以外の客達も同じだったようで、場内はシーンと静まり返る


大袈裟なんかじゃ無い、本当に皆が一斉に目を奪われていた。楓さんにだ


特に何かをしている訳じゃない、ただそこにいるだけで男女問わず人を惹き付けてしまう魅力。そんな呪いに似た力を、水着姿の楓さんは持っていた


「…………はぁあ」


水の跳ねる音すら出すのを躊躇う静寂の中、誰かが感嘆のため息を漏らした。それで客達はホッと息を吐き、動き出す。しかし中にはまだ楓さんを見ている客もいて、そいつらはこぞって口を開けたまま固まっている


「お待たせ、恭」


「お、おう」


小さく手を振ってやって来た椿の声で俺もようやく呪縛が解けた。全く恐ろしい人だな楓さんは


「どお、この水着」


「ん? ふむ……」


椿の水着は小さな花柄がポイントのワイヤーキュロパン水着だ。気持ち布地が少ないトップスに、ショートパンツの様なボトムがセクシーで目のやり場に困ってしまう


「相当いいな、良く似合ってる」


「本当? うれしいなぁ」


椿は口元で手を合わせ、ありがとうと嬉しそうに微笑んだ。こんなに喜んでくれると、なんだか俺も嬉しくなるぜ


「恭介」


続いて梢が俺を呼び、私のはどうだと目で訴えてきた


「う〜ん」


梢は安心のワンピース水着。白の清純さと、腰に巻いた魚柄ブルーのパレオが可愛らしくも爽やかで、とても良い


「人魚姫が裸足で逃げ出すレベルだな。可愛いすぎるぞこの野郎」


ツンツンと頬をつつく


「くすぐったい」


頬をつつく指を手で優しく払い、そのまま俺の手をキュっと握る。うむ、可愛いぞ


「後は……」


さっさと日陰のあるプールサイドに行ってしまったが、楓さんも見てみよう


楓さんは黒いビキニの上に短めのTシャツを着ると言ったシンプルな格好。だが傷やむくみ一つ無い長い足に、キュートな腰のくびれ。平均より膨らんでいるであろう胸にその割には締まった体、そしてあの冷めた目がとてつもなく妖艶で、男のダディを刺激する。こんな感じか?


「……なに?」


目が合ってしまった!


「み、水着姿が最高ですね!」


「そう」


つまらなそうに返事をし、やっぱりつまらなそうにプールを眺める楓さん。うちの姉ちゃんより覇気が無い


「姉さん午前中は弱いんだ。昼はもっと弱いけど」


「夜は更に弱いの」


「…………」


いつ強いんだ?


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