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芦の三姉妹 17

「ありがとうございました」


トランクスタイプの水着を買って店を出る。1990円だったのでポイントカードを使わせてもらった。得したな


「梢は……」


まだ戻って来ていない。10分ぐらいしか経ってないし、当然か


駐輪場から自転車を道に出して、サドルに跨がり待機。辺りにはここ以外のショップは無く、車すらないのどかな風景が広がっている


「…………ふぁ」


そして15分が経った。つい欠伸をしたが、退屈かと言えばそうでもなく、近くにあった田んぼを覗き込んだり、遠くにある霧がかかった山を眺めてみたりと時間潰しには事欠かない


「お」


アマサギが飛んでる。優雅だねぇ


チリン


ふいにベルが鳴り、俺は音がした方へ振り向く


「ふぅ……待たせてごめんなさい」


肩を弾ませながらやって来た梢は、俺の側に自転車を止めてコホコホと咳き込んだ。額の汗が凄く、シャツも濡れている


「大丈夫か梢? 今、水を買って……」


じ、自動販売機が見当たらない!


「こほ。……大丈夫なの」


「そうか? ゆっくり休んでくれ」


「うん……おつり」


財布を取り出し、俺に金を手渡す。二千円と何百円かだ


「ずいぶん余ってるな。買えなかったのか?」


財布にしまいながら聞くと、梢は申し訳なさそうに言う


「3個しか買えなかった」


「そっか。なら三人で食べな、ご苦労様」


「半分こしよう?」


「俺の事は気にするな。糖尿病も心配だしさ」


「恭介が食べないなら……お店に返してくる」


梢は名残惜しそうにプリンが入った箱を抱え、そう言った。断れば本気で返しに行くだろう


「わかったよ。ありがとう」


梢の頭をナデナデ。さらさらしてて気持ち良い


「帰ろ?」


「ああ。ゆっくりな」


帰りはのんびりと話をしながら帰宅


「恭介、一番好きな食べ物は?」


「やっぱり寿司だな。梢はなんだ?」


「ほうとう」


「ほうとう?」


「あったまる」


「夏だぞ今」


「じゃそうめん」


「一番なのか?」


「五番ぐらい?」


「そんなもんだろ」


俺的にはうどんの方が好きかな


「ほい着いたっと。お、叔母さん帰って来てるみたいだぞ」


駐車場に白い軽自動車が止まっている


「今頃爆睡中なの」


「だろうな。さ、お嬢様。お手をどうぞ」


先に玄関前の段差を上がり、梢に手を差し伸べる


「よきにはからえ」


その手を取り、梢はお嬢様っぽく微笑んだ。台詞はおかしいが


「ただいま」


「ただいま」


静かな屋内。俺達も静かに靴を脱ぎ、リビングへ向かう


「お帰り、二人とも」


リビングでは椿が出迎え、ちょんちょんとソファーの方を指差した


「……なるほど」


そこにはうつ伏せに倒れ込んで泥の様に眠る叔母さんの姿があった。タオルケットは椿がかけたのだろう


「恭が戻ってくるまで寝ないって言ってたんだけど、限界だったみたい」


「部屋で寝なくて大丈夫なのか?」


「うん。ママ、ここで寝るの慣れてるから。結構疲れ取れるみたいだよ」


「そっか。じゃ置き手紙でも書いてプールに行こうか」


「うん。姉さんも帰って来たし、行こ」


「…………」


乗り気の椿に比べ、梢が何故か沈んでいる。……ああ、そうだそうだ


「プリン食おうぜ梢」


「え? ……うん。椿姉と楓姉のもある」


「本当に? ありがと〜。美味しいんだよね王国プリン。姉さん呼んでくるよ」


そう言ってリビングを出て行った椿。その間に梢は店の箱を開けて、プリンと付属のスプーンをテーブルにセッティングする


「……ドライアイスいる?」


それだけが残った箱を見せながら聞いてきたが、俺に食えとでも言っているのだろうか


「触ると火傷するから気を付けろよ」


「うん。水をかけると面白いの。やろ?」


「……やる」


二人で頷き合い、流し台に行って蛇口の下に箱を置き水を垂らす


ジュジュー


「…………」


「…………」


泡立ち、霧を発するドライアイスを一言も喋らずジッと見る俺ら。端から見たら不気味な光景かもしれん


「お待たせ……なにやってるの?」


「お前も見るか、ドライアイス」


「うん?」


「いただきます」


「あ! み、みんなで食べようよ姉さん。恭、梢」


「あ、ああ。プリン食おうぜ梢」


「うん」


リビングへ戻ると、テーブルには椿と楓さんが並んで座っていた。俺達はその向かいに座る


「じゃあ、いただくね」


「いただきます」


俺達が座ったのを見て、二人はプリンをスプーンに乗せて口に運んだ


「ん〜〜っ、おいしー。やっぱり王国は別格だよね〜」


まず椿の顔がとろけた。頬に手を当て、幸せそうに笑う


「そうね」


楓さんの方は相変わらず分かりにくいが、それでも一口一口ゆっくり味わいながら食べてる所を見ると、まんざらではないらしい


俺はと言うと、


「恭介、どうぞ」


「あ、ああ。……むぐ。う、うまい」


恥ずかし過ぎて味どころではない


「……こ、梢? なんで恭と一緒に食べてるのかな?」


「半分こ。あーん」


「あ、あーん」


「よしよし」


なでりなでり


「…………」


なんだこの状況


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