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芦の三姉妹 16

ジリリリリリリ


「ん……むぅ」


遠くで目覚ましが鳴っていた。普段なら気にもならない音だが、今日の俺はそれで目が覚めた


「……朝か」


窓から部屋に射し込む光はキラキラと輝いていて、良い一日になりそうな気分にさせてくれる。昨日が酷かっただけに


「…………」


ボーとしながら時計を見ると8時過ぎ。いつもより1時間遅い


「さて」


起きるとするか!


「おはよう二人とも」


部屋で着替えてからリビングに行くと椿と梢は既に居て、朝食を食べていた


「おはよう」


「おはよー。朝ごはん、何食べる?」


「パンを貰うから。そのまま食ってろって」


食事の準備に立ち上がろうとした椿を抑え、キッチンに入る。冷蔵庫横の棚にあったパン袋から一枚抜き、オーブンへ


「ふぁーあ」


昨日は何だかんだでいつの間にか寝ていたが、寝不足なのは確かだ。頭が重い


ちーん


お、焼けた焼けた


「飲み物もらうぞ〜」


「は〜い」


返事を聞いて冷蔵庫を開ける。中にはフルーツ牛乳の瓶がズラリと並んでいた


「…………」


いや好きだけどさ


「楓さんはまだ寝てるのか?」


皿に乗せたパンとフルーツ牛乳を持ってテーブルに着き、ついでだよって感じで尋ねる。すると、まだ寝てるみたいとの答え


「そうか」


どんな顔して会えば良いか分からなかったので、少しホッとした


「いただきます」


「パンに何もつけないの?」


「ああ。フルーツ牛乳があるからな」


パンとよく合う


「ところで叔母さんはまだ帰って来てないのか?」


「うん。さっき電話があったんだけど、もうすぐ帰るって。恭にごめんて謝ってたよ」


「そっか。じゃ叔母さんが帰ったらどっか出掛けるか。案内してくれるんだろ?」


俺がそう言うと二人は顔を見合わせて、


「じゃあプールに」


「行こ」


「え〜」


水着ないし、泳ぐの疲れるんだよな


「私も行くよ」


渋っていると制服姿の楓さんがリビングへやって来た。一瞬昨日の事を思い出して動揺しそうになったが、何とか踏み止まれた。そんな自分を褒めてあげたい


「なに?」


何も喋らず顔を見ていた俺に、楓さんはつまらなそうに聞く


「あ、とー。せ、制服似合ってますね」


「そう?」


「ええ」


紺を基調としたシンプルなデザインの制服だが、とても清楚で良く似合っている。胸元のリボンも可愛らしいし


「制服なんて着て、どうしたの?」


椿が聞くと楓さんは僅かに目を向けて


「学校に行くから。一時間で戻る」


と、踵を返して出て行った


「えっと……、姉さんも行くって」


「……水着ってどこで買える?」


もはや断れん


「中学校の近くにスポーツショップがあるけど、ちょっと分かり難い場所なんだよね」


「私が案内する。お菓子欲しい」


流れる様な要求だ


「取り引きって訳か。いいぜ、うまか棒でもチロ男チョコでも好きなの選びな」


「王国プリン(800円)が好き」


「……了解」


また出費がかさむな


「こ〜ら梢。恭あんまりお金使わせたら駄目だよ?」


「いいよ、正当な報酬だからさ」


最後の一口を食べてよっと立ち上がる


「ごちそうさま」


「あ、お皿はそこに置いておいて。一緒に洗っちゃうから」


「良いのか? サンキュー」


素直に甘えてよう


「それと」


「ん?」


「買いに行くならあたしの自転車を使って。玄関の横に赤い鍵があるから」


「分かった、ありがとう」


って事は結構遠いのか?


「ごちそうさまでした」


「はい、ごちそうさま」


椿と梢は手を合わせて食事を終えた


「顔を洗ってくる。そしたら行こ?」


梢は俺の手を取り、左右に小さく振る


「そうだな。じゃ出掛ける準備するよ」


そう言うと梢は手を離して早足でリビングを出て行った


「よっぽど食べたいんだな」


以前叔母さんにご馳走になった事があるが、あれは確かにうまい


「恭と出掛けるのも嬉しいんだと思うよ。梢を宜しくね」


「ああ」


部屋に戻り財布を手に取る。中には二万七千円、そろそろ厳しくなってくる額だ


「……最近使いすぎてるからな」


貯金は三万あるが、秋姉の大会迄にもう二万円は欲しい。週払いバイトで何とか間に合わせよう


鏡の前で髪を軽くとかし、部屋を出る。梢はまだ準備中だろうと思っていたが、既に別の服に着替えて玄関前で待っていた


「お待たせ。早いな」


「うん」


青いカプリパンツに白のシャツ。涼しげで良い


「じゃ行くべ」


玄関横の棚に、幾つか鍵が並べられている。赤い鍵は……これか


「よし、出発だ」


「いってきます」


梢と一緒に家を出ると、まだ九時前だと言うのに強い日差しが俺の体を貫いた


「今日は暑くなるなこれ」


「30度越えるの」


「うぇ、プール正解かもな。……えっと」


車庫の横にある屋根つきの自転車置き場には三台ノーマルな自転車が置かれており、どれが椿のだか分からない


「椿姉のシルバーのやつ。私のはこれ」


グリーンの渋いチャリンコだ


「スポーツショップまでは結構遠いのか?」


「15分くらい」


「そっか」


鍵を外して自転車を外に出す。跨がったサドルは思ったよりも高かったが、足は地面に届くので調整しなくても良さそうだ


「それじゃ案内頼むっていきなり立ち漕ぎ!?」


初っぱなからフルスロットルだぜ!


さて、それから約八分。一言も喋らないでペダルを漕ぎ続け、足がダルくなってきた頃ようやく小さなスポーツショップに辿り着いた


「ハァハァ……ん。こ、ここなの」


「そ、そうか、ひぃふぅ」


こんなに急ぐ必要があったのだろうか


「朝の7時オープンか。ずいぶん早いんだな」


片開きドアに書いてある営業時間は、7時30分から18時まで。スポーツショップにしては珍しい


「中学校の生徒を狙っているの。体操着忘れたりするから」


「なるほど」


「はいこれ。椿姉から恭介にって」


そう言って梢は俺に紙のカードを渡す。それにはスポーツショップ太郎と書かれていた


「二千円分のポイントカード。椿姉の三年間の結晶なの」


「どんだけ物忘れてんだあいつは……」


「私、王国プリン見てきていい?」


「ん? いいけど、どうしたんだ?」


何だか梢がソワソワしている


「毎朝30個限定だから。買ったらすぐ戻る」


「そうか。じゃあったら買えるだけ買ってきな」


財布から五千円を取り出して渡す


「え?」


梢は俺と樋口さんを見比べて、困ったような顔をした


「いいから言って来いよ。気を付けるんだぞ」


「……うん。必ず買ってくる!」


「おお〜」


目が燃えている


「じゃ後でな」


「うん」


立ち漕ぎで去って行く梢を見送り、俺も店へ入る事にした


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