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黒幕編

妹大会というヘンな大会が終わってから2日が経った火曜日。大会の優勝賞金が、ママの銀行口座に振り込まれた


「…………」


「…………」


あたしとママは、ATMの前で通帳に書かれた数字を見て唖然とする。だってそうでしょ? 百七万円だったのが一千百七万円になっているんだもん


「か、花梨ちゃん、どうしよう。本当に入ってるよ〜」


「……当たり前でしょ、みんながそうしてくれたんだから。ほら早く出るわよ、後ろがつっかえてるわ」


「わわ、花梨ちゃん力持ちだね〜。すごい!」


ママの手を引っ張って、あたしは銀行の外に出る。そしてそのまま家に向かって歩いた


「今日も暑いね花梨ちゃん。途中でアイスクリーム食べる?」


「……いらない。それより早く帰りましょ。ママも疲れたでしょう」


「はーい」


ママは体が弱い。そして凄く心配性。だから今のあたしの顔は見せられない


だって、きっと今はひどい顔しているもの。不安で悲しくて、もう泣いてしまいたくなる


「…………」


あたし、本当にみんなからお金をもらっちゃったんだ……。これでもうみんなの事を、対等の友達だなんて言えない


「…………ン」


「花梨ちゃん? どうしたの?」


「……ううん、なんでもない。あ、そうだ! ママ、今日は久しぶりにハンバーグにしよっか? 弟達も喜ぶよねっ」


あたしは手の甲で素早く涙を拭いて、笑顔で振り向く


「……花梨ちゃん」


けれどママは、哀しそうにあたしの名前を呼んだ



夜になって強い雨が降った。最近降ってなかったから涼しくなって良いとは思ったけれど、責め立てるような雨音は少し怖い。雷落ちなければいいけど……


「花梨ちゃん、もう遅いから休んで。あとはママがやるから」


台所の片付けをしていたあたしに、ママがそう言った。時計を見てみると10時過ぎ、いつも寝ている時間より少し遅い


「ありがとうママ。それじゃこの洗濯物お願い」


「うん、任せて! ゴホゴホ」


咳き込むママの背中をさすると、ママは照れ臭そうに微笑んで「ありがとう、ごめんね」と頭を撫でてくれた


「おやすみなさい」


「おやすみなさい花梨ちゃん」


今まで苦労ばっかりだったけど、きっとこれからは楽になるよねママ


歯を磨いた後、あたしは居間の襖を静かに開けて、弟達が寝ている隣の部屋へ入る。あたしが寝る場所は一番右側の押し入れ側、そこに敷かれている布団に入って目をつぶる。そのまま寝ようと思っても、なんだか落ち着かなくて寝返りゴロゴロ


「…………」


一千万円、本当に貰えるとは思わなかったな。借金は一千八十万弱だから、全部返せる。そのあとは


「みんなに返そ」


何年かかってでも必ず全額


それにしてもヘンな大会だったわよねアレ。でも結構おもしろかったかな。アイツもかっこよかったし……ま、まだまだ全然駄目だけどっ! てゆーか大人だしあのぐらい当たり前だし!!


「…………ん」


そういえばお礼言いそびれちゃったな。次に会ったら言わないと。全部うまくいった、あんたのおかげって。……次っていつだろ? なかなか会う機会ないのよね


あ〜もう、なんで年上なのよアイツは! 同じ学校で同じクラスなら毎日会えるのに


「……毎日かぁ」


もしそうだったら、嬉しい……かな。す、少しだけ!


「いっそ魔法で、一緒のクラスに――」


なんて。無理よね


「寝よ」


明日起きたら久しぶりにハムエッグ作ってあげよ


「おやすみなさい」



水曜日の学校は、研究発表会。今日も学校に行きづらかったけど、休むわけにはいかないわよね


「おはよー花梨」


「おはよう美月」


校門の前で会った美月と挨拶をして、並んで歩く。自然に出来ているかしら?


「今日は発表会だよね。超めんどー」


「そう? 面倒なのは準備だけで発表自体は授業より楽だと思うわよ」


「う〜ん。かな?」


「だって成果を発表するだけだもの。それにあなたの班って田中さんとかよね? 彼女しっかり者だから、ちゃんとまとめてくれるわよ」


目立ちたがり屋でもあるから、きっと司会をやるだろうし


「だね! よーし、今日も1日がんばろー」


「うふふ」


いつも元気な美月、一緒にいるとあたしも元気になれる


「うん、頑張りましょう」


本当に頑張らなくちゃ



美月と教室に入って荷物を整理した後、あたしは同じ班の竹内君のところに行った。発表会の事を相談をするためなんだけど、いまいち話が噛み合わない


「なるほど霧島。よくこれ程調べあげてくれた、褒めてつかわす」


竹内君はあははと笑って目を反らす。怪しい


「まさかあんた、何も調べて無いんじゃないでしょうね?」


「や、やったよ! ほらこのノートに、パンツとか消しゴムとか」


竹内君が出したノートには、1ページだけ字と絵が書かれている


「ってこれ、初日にあたし達と一緒に調べたやつよね? 他には?」


「…………ごめん!」


「…………ハァ、まったく」


こうなったら頼りになるのは雪ね、珍しくまだ来てないみたいだけど


「おはよう雪に菜々子!」


ちょうどその時、美月の挨拶が聞こえた。来たみたいね


「ほら竹内君、雪と相談するわよ」


「う、うん……佐藤怒るかな?」


「さあ。でもあたしよりは優しいと思うわよ」


優しくてお人好しで、でも頑固なあたしの親友。大切な友達


だから気まずいけれど、今あたしが出来る一番の笑顔で迎えてあげたい


「おはよう雪!」


今日も頑張ろうね


「おう、おはよう花梨。今日もあちーな」


「…………え?」




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