恭介編 3
夏紀語録(秋&恭のコメント付き)
・酒を十回言ってみて。…………よし、買ってきなさい
「酷いでしょ? 十回言わせた意味すら分からない」
「さけさけさけさけさけさけさけさけさけさ……?」
「…………」
・所詮酒なんてただの娯楽よ、なくても死にはしない。でもそれがないと人は生きていけない、因果なものね
「かっこいい事言ってる様で、実際は大したこと言ってないよね」
「……深い」
「え!?」
・お酒ってなに? ただのアルコール? それとも友人? アタシにとっては……アタシを一番熱くさせる恋人ってところかしら
「……何言ってんだろこの人」
「……ナウい」
「ええ!?」
・男がいて女がいて、そして酒がある。少なくともアタシはそれで生きていけるわ
「少なくともって言うか姉ちゃんだけでしょ、そんな人は」
「ん……私は無理」
「だよね~」
「恭介達がいないとやだ」
「あ、秋姉……」
・人間やめるか、酒やめるかですって? ……考えるまでも無いわ、人間やめるぐらいなら酒をやめる。アタシの体はアタシだけのものじゃないもの
「こういうところは大人なんだよね、姉ちゃんって」
「……うん」
・でもアタシは別に人間やめるほど依存してる訳じゃないものね。むしろ酒の方がアタシに依存してる? さ~ガンガン飲むわよ~。おらー一番強い酒持ってこーい!
「…………ま、これも姉ちゃんらしいけどさ」
「ん。そうだね」
「ね。あはは」
「あっちだ!」
教室へ飛び込んで来た奴に案内され、俺や花梨達は校庭の右側へと向かう。そこにはサッカーゴールが2つ向かい合わせに設置してあり、その内の1つ校門側にあるゴール前で美月達は揉めていた
「だからなんでどかなきゃいけないんだよ。一緒にやれば良いだけじゃん」
「お前らなんかと一緒にやれるかよ!! ね〜、デブゴリラくん」
走り近づきながら観察していると、どうやら美月は一人で三人の上級生達と口論しているらしい
その三人の中で特に美月へ突っ掛かっているのは、細い体躯の少年だ。彼は美月に怒鳴った後、自分の三倍は体積がありそうなデブっちょ少年に猫なで声で同意を求めた
「おうよ」
デブゴリラ君は尊大に頷き、気だるげに腕を組む。職人並の貫禄だぜ
「いいからどっか行けよ! デブゴリラ君が怒るぞ!?」
「やだ、絶対どかない! みんなと遊ぶんだ」
そのみんな、男女合わせて五人の子達は美月の後ろで怯えながら様子を窺っている。もう逃げ出したいけど美月を置いていけない、そんな感じだろう
「あ、あいつは六年生のバンチョーデブゴリラ! 厄介な奴に絡まれたわね……足を早く」
花梨は小声で何かを呟き、走る速度を上げた
「てか早!?」
あっという間に花梨の背中が小さくなってゆく。カタパルトでもついてんのか、あいつ
「ちょっとあんた達! はぁはぁ……ん。何してるのよ! ンク……ふぅ」
美月達のところに着いた花梨は、みんなの前に立ち気合いの入ったガンをデブゴリラ君に飛ばす。相変わらず男らしいな
「あ〜なんだてめー。デブゴリラ君睨んでっと、マジ泣かすぞ!」
そんな花梨の登場に、デブゴリラと骨川(命名、俺)の後ろから背の低い金髪少年が罵声と共に肩を怒らせながら出てきた
「健! お、おいお前、謝っとけよ。健はデブゴリラ君を馬鹿にすると、殺戮マッスィーンとして目覚めるんだ! そして辺り一面を血の海に染める……。前に高校生とタイマン張ったときなんか、殴られて鼻血がヤバイぐらい出ても、泣かなかったんだからな!」
たいしてカッコ良くないエピソードをハイテンションで話す骨川君。彼らはアホそうではあるがそれでも六年生だ、花梨達では荷が重いかもしれん。急がなくては……しかし!
「はぁはぁ……は、走りにくい!」
普通に動いている分には問題無いが、今みたいに激しい運動をしていると違和感がハッキリと出てくる。どうも脳の指示に体がついてこれないらしく、空回りしてしまうのだ。気を抜くと転びそう
「お前ぶっ殺っぞ!」
「な、なによ! あんたなんか怖くないんだから!!」
「あ〜!? ブタゴリラさん、こいつら生意気だしやっちまおう!」
「おうよ」
「ウィッス!」
俺がトロトロしている間にも花梨達はヒートアップし、一触即発の雰囲気となっていた。ヤバイな、これじゃ俺が行ったところで治められないかもしれない。こうなったらハッタリかましてうやむやにするしか……
「おら来いよ! 体育館裏でボコボコだ」
「きゃ!? さ、触らないでよ馬鹿!」
「花梨を離せ! わぁ!?」
花梨は健君に肩を掴まれ、引っ張られて行く。それを美月が止めるが、突き飛ばされて尻餅をついた
「……野郎」
俺は足をもつらせながらも怒りに任せて全速力で花梨達の側に走り寄る。そして声を張り上げて言った
「まちな!」
「ゆ、雪? 危ないから下がっキャア!」
「あ〜? 誰だてめー」
健君は花梨の事も突き飛ばし、俺に向き直って威圧する。中々の迫力だが……
「女に暴力たぁ、あんた男じゃないねぇ。そんな腑抜け玉なしオカマ野郎に名乗りたくないよ」
我ながら凄いキャラ設定だが、まぁこのぐらい迫力出さないとな
「なんだと! おらー!!」
「え? ちょ!?」
健君はいきなり殴り掛かって来た! その右ストレートをスウェーバッグでかわした俺は、健君の体重が乗った左足を払うように蹴る
「でっ! て、てめえげ!?」
バランスを崩してよろめいた健君は、すぐに体勢を立て直そうとしたが、その前に俺の拳が健君の顎を真っ直ぐに打ち抜いた
「あ……あ?」
不思議そうな顔で俺を見上げながら崩れ落ちる健君。自分の身に起きた現象を理解出来ないようだ。てか俺も
「さ、佐藤つえー」
「健がやられた……どうしようデブゴリラ君!?」
慌てふためく外野を半分無視し、俺は赤くなった自分の拳を見つめる
「……なるほどな」
体の反応は確かに遅い。だが、動体視力や反射神経はそのままのようだ
「小学生のパンチぐらいならスローに見える……って訳か」
「ゆ、雪?」
「ん? ……大丈夫か、花梨」
「え、ええ。た、助かったわ、ありがとう」
「ああ。美月も平気か? 怪我は?」
「うん、平気。それよりごめんね雪、花梨。なんか巻き込んじゃった」
「いいさ、大した事じゃない。それより……まだ本命が残ってる、油断するな」
本命、デブゴリラ君は表情こそ変わらないが、怒りを我慢しているのだろう組んだ腕がプルプルと震えていた
「……で、何が原因でケンカになったんだ?」
デブゴリラ君を警戒しながらみんなに尋ねると、美月が頬を膨らませながら話してくれた
「わたし達がサッカーやってたらさ、六年生達が後から来たんだ。それで邪魔だから退けって言うから、一緒にサッカーやろうよって聞いたんだけど、なんか向こうがいきなり怒って、わたし達が使ってたボールを学校の外に蹴っ飛ばしたんだよ。それで文句言ったらケンカになって……」
「ここは前から俺らがサッカーやってた場所なんだよ! 後から来たのはお前らなんだっつの!」
復活した健君は、アゴを押さえながら立ち上がり吠えた。その目は狂犬のように俺を睨んでいる
「……なるほど、領土問題って訳か」
これまたデリケートな問題だな
「いいから続きやっぞ! さっきは油断したが、次はぶっ殺す!!」
こいつ口悪いな〜
「……無駄だ、お前は俺……こほん。アタイに勝てないよ、差がありすぎる」
一応高校生だし
「な、なんだとてめー!」
「おいデブゴリラ、いつまでも黙ってないで何か喋りなよ。こんな下らない揉め事、ほんとはアンタだって望んじゃいないんだろ? ここは一つ、そいつらを束ねてるアンタの度量ってやつをアタイに見せてくりゃあよ」
「……勝負だ」
「ん?」
「サッカーで。負けた方が消える、それでいいな?」
「で、デブゴリラ君! 俺、それ納得いかねーよ! ボコボコの方がぜってーはえって」
「俺に文句か?」
「う……ご、ごめんデブゴリラ君」
ギロリと睨まれた健君は、肩を落として謝った。どうやらデブゴリラ君には逆らえないらしい
「い、いーね、さすがデブゴリラ君。平和てきー」
デブゴリラ君の意見に揉み手で賛同する骨川君は、訴えかけるような目で俺をチラ見する。賛同してお願い! って感じだな
「……はっ、そりゃいいね。嫌いじゃないよ、そういうの。やるよ、やらせてもらうよ!」
殴り合いになるよりは余程良いし
「こっちは三人だ。そっちは好きにしろ」
「……ふぅん。アタイらも舐められたもんだねぇ。アタイらも三人でやるよ、平等にね」
「……おうよ」
「よし。ならゴールは一つで良いな。攻撃と守備を交互にやる形で……」
点数が入ったり、守備側がボールを奪ったら攻守交代だ
「とりあえずアタイは入るつもりだけど、他に入りたい人居るか?」
「わたし入りたい! なんか超おもしろくなって来た〜」
「あ、ぼ、僕も入りたい!」
仲間内から2つだけ手が上がった。美月と見知らぬ少年だ
「美月と慎太君ね。他には…………居ないわね。よし頑張りなさい二人とも」
「うん!」
「ぼ、僕も頑張ってみるよ!」
花梨がまとめ、俺のチームが決まった。二人とも気合いは十分だ
「ふ。……さ〜て、やるとするか!」
久しぶりの真剣勝負、燃えて来たぜ!!