恭介編 2
午後12時40分。昼食
「うっお〜! なんだよ今日の給食はうどんとカレーとプリンとフルーツポンチなのか!! なつかしすぎて泣きそ〜」
給食の時間、トレイ片手に配膳の列に並ぶ。メニューは上記の通り、俺の中では黄金鉄板フルコースだ、たまらない
「ゆ、雪ちゃん?」
「あ……おほほ。どうしたのかしら奈々子さん」
「う、ううん、なんでもない。ごめんね」
「おほほほ」
と、ついうっかり雪葉であることを忘れてしまった。気をつけろ俺!
「カレーは雪葉の嫌いなジャガイモ少なめでお願いね。代わりに量も少なめにして良いからさ」
エプロン姿でカレーを配膳している花梨にそう言い、アルミの器にカレーを注いでもらう。何故か顔を凝視されっぱなしだったが
「美月、一緒に食べよう」
「うん! ついでに花梨の机もくっ付けろ〜」
美月達のグループに入れてもらい、6人での昼飯だ。さーて楽しみだぜ
「みんな給食受け取ったか〜」
はーい
「よーし、給食当番ご苦労様。みんなが席に着いたら、いただきますだ!」
担任のテンションやたらが高いが、もしや彼も楽しみにしているのか?
「ふぅ。髪にカレーの匂いが付いちゃったわ」
配膳を終えた花梨は自分の席に戻り、被っていた帽子やマスク、エプロンを取って素早く袋へしまった。流れるような一連の動きに、ベテラン臭がする
「おつかれ花梨」
「ありがとう。今日はプリンかぁ、久しぶり……」
そう言って花梨はにやけたが、すぐに口元を引き締めて
「じゃなくて、毎日食べてるけどね!」
と、面白いことを言いだした。面白いから今度遊びに来たらプリンでも作ってやろう
「みんな席についたなー。それじゃあ、いただきます!」
お、やっとか!
「いただきま〜す。がつがつ、がつがつ」
この微妙なマズさが懐かし〜
「うわぁ、食うの超はえー。わたしも負けないぞ! がつがつがつがつ」
「まに! はかはかやふはみふき!!」
だが一人の大人としてガキんちょに負けるわけにはいかん!
「がつがつがつがつ!!」
「がつ……す、すっげ〜、カレーが飲み物みたい。超クールじゃん雪!」
食べる手を止めた美月が、目をキラキラさせて俺の勇姿を見ている。ふ、これが大人さ……
「か、花梨ちゃん。今日の雪ちゃんどうしちゃったんだろ?」
「……やっぱり変よね。変すぎるわ」
「よし、ごちそうさま!」
クラスで1番だぜ!
「おお、佐藤食べるの早いな〜。先生のプリン食うか?」
「いや、いらないっす。糖尿病の心配があるので、甘いものは一日一品にしているんです」
「そ、そうなのか? 佐藤はしっかりしてるな」
「ありがとうございます先生」
おしとやかにしておかないとな
「ごちそうさまでした!」
「ごち〜」
俺に続いて美月や何人かの男どもが食べ終わり、食器を片付けた後そのまま教室を飛び出していった。どうやらここのクラスは、食べ終えたら昼休みに入っていいらしい
「ふむ」
俺は昼寝でもするか
「……ん?」
食器を片付けようとした時、隣の……Cさんでいいか。Cさんが難しい顔で自分の給食を見ている事に気付いた。あと少しで食べ終わると言うのに、箸を動かす様子がない
「…………あ、もしかしてニンジンが苦手なのか?」
カレーは殆ど食べられているのに、ニンジンの一欠片だけがぽつんと器に残されている
「え? ……う、うん。どうしても食べられないの」
「ニンジンにはカロチンってのがあって健康にいいらしいんだが、苦手なものは仕方ないよな。よっと」
「あ!?」
自分の箸でニンジンを摘まんで丸ごと一口
「あむ。んぐ……わり、食っちまった。私、ニンジン好きなんだ」
「雪ちゃん……」
「さーて、さっさと片付けて寝るとするか」
「あ、わたし、片付けるよ。お礼ね」
「そうか? はは、サンキューな」
「ううん。こっちこそありがと、雪ちゃん」
「おう」
ふ、お前の友達は素直でいい子ばっかりだな。類は友を呼ぶってか?
「……やっぱりおかしいわ。あれじゃあまるで――」
「た、大変だ!!」
穏やかだったクラスの雰囲気は、突然教室に現れたD太郎の叫びによって崩された。俺達はそのただ事ではない様子に息をのむ
「坂上が六年生に逆らってケンカになった! 先生は!?」
「せ、先生はさっき職員室に……呼んでくる!!」
「まて!」
慌てふためくクラスメート達を一喝で止め、俺は静かに立ち上がる
「ガキ同士のケンカだ、大人が介入すると遺恨が残るだろ? ここは俺に任してくれよ」
どうしようもなかったら、流石に先生頼りだけどな
「…………俺?」
「いこんてなに? ウコン?」
「ゆ、雪ちゃ……」
クラスメート達の疑惑と困惑の眼差しが突き刺さる! ヤバい!!
「……ゆ、雪葉、ウコンだ〜いすき。えへ」
そして皆、ずっこけた