雪葉編
「……お兄ちゃん大丈夫かな」
お兄ちゃんが学校へ行ってから、もう四時間が経っている。そろそろ給食の時間だね
私も高校に行こうと思っていたけれど、お兄ちゃんに止められてお留守番。仮病だから凄くドキドキするよ
『俺が帰るまで、俺の部屋で待っててくれ。部屋にあるものは好きに使っていいから』
お兄ちゃんはそう言ってくれたけれど、一人じゃ使ったことないものばかりで触ると壊しちゃいそう
「勝手に掃除とかしたら怒られる……よね」
それにお兄ちゃんのお部屋はきちんとしていて綺麗。お姉ちゃん達(長女除く)も綺麗にしているけれど、私はお兄ちゃんのお部屋が一番好き。なんでだろ?
「……ん〜」
落ち着くからかな?
コンコン
「は、は〜い」
ノックの音がして、私は慌てて立ち上がる
「いま開けるね」
ドアを開けると、お母さんが私を見て微笑んだ
「調子はどうかしら〜」
「う、うん。だいぶ楽になったよ。コホコホ」
「良かったわ〜。でも無理はしちゃ駄目よ〜」
「……うん」
嘘を付いてごめんなさいお母さん
「お昼食べられそう?」
「うん。もうぺこぺこ」
「それなら急いで作るわね〜」
「ありがとう、お母さん!」
優しくて大好き
「あらあら〜。今日の恭介はなんだか雪葉みたいね〜」
「え!?」
ば、ばれちゃった?
「素直で可愛いわ〜」
そう言ってお母さんは、背伸びして私の頭を優しく撫でた。こんなとき、お兄ちゃんならどうするだろう? ……嫌がるよね
「や、止めてよ母ちゃん。恥ずかしいでしょ!」
「あら〜ごめんなさい〜。それじゃご飯作ってくるわ〜」
「う、うん、お願い母ちゃん」
「は〜い」
お母さんは部屋を離れて、リビングの方へ向かって行った
「…………ふぅ」
ばれなかったみたい。危ないなぁ
「もっと気を付けないと」
気を引き締めて、頑張ろう!
午後12時35分。リビング
「はいどうぞ〜」
「あ、ありがとう母ちゃん」
お母さんが作ってくれたのは、私の大好きなキノコたっぷりリゾット。お兄ちゃんは、あまりリゾット好きじゃないんだけど……
「ど、どうしてこれを作ってくれたの?」
「栄養があって食べやすいからよ〜」
「そ、そうなんだ」
もしかしてお母さん何か気付いてるんじゃ……
「雪葉」
「ひゃいっ!?」
「は今ごろ給食の時間ね〜」
「そ、そうだね。あはははは」
心臓に悪いよ〜
「冷めない内にどうぞ〜」
「はい、いただきます」
スプーンですくって、息で少し冷ましてから一口
「美味しい!」
「うふふ。良かったわ〜」
「うん!」
量がちょっと多いかなって思ったけれど、一度食べ始めたらどんどんお腹に入ってゆく。お兄ちゃんの体だからかな?
「ごちそうさまでした」
「からまつ〜」
からまつ?
「食器片付けるね」
「そこに置いといて〜。男の子は台所に入るべからずなのよ〜」
「そ、そうなの?」
あれ? でもお兄ちゃんは、いつも入ってるような……
「さ〜て、お昼のドラマ見ましょ〜。薔薇とボタンエビ、そろそろ佳境なのよね〜」
「あ、面白いよねあれ! 雪葉も大好き……ら、らしいぜ」
どうしよう、間違えちゃった!
パニックになりかけた私を、お母さんはいつもより細めた目で(もはや糸)穏やかに見守ってくれていた
「……お母さん?」
「録画してあるけど一緒に見る?」
「い、いいや、俺は見ないんだぜ」
これ以上一緒に居たら、今度こそばれちゃうよ
「そお? 残念」
「俺はそろそろ寝るんだぜ。お休みだぜ」
「は〜い、暑いけどお腹だけは冷やさないようにね〜」
「う、うん、ありがとう。じゃあね!」
逃げるようにリビングを出て、急いでお兄ちゃんのお部屋に入る。お兄ちゃんのベッドの乗らせてもらって、マクラをギュッと抱きしめた
「う〜」
ドキドキするよ〜。なんとかごまかせたよね?
「……嘘を付くのって大変だね、お兄ちゃん」
だけれど、きっとお兄ちゃんは私よりもずっと大変。とんでもない事をお願いしちゃった……
「……ごめんなさいお兄ちゃん」
無事に帰って来てね