入れ替わり系家族
朝起きたら雪葉だった
何を言っているのか分からない? 俺にも分からない。どうしたら良いのかすら分からない
「…………」
目の前にある全身鏡にはパジャマ姿の雪葉が写っている。雪葉だけど、それは俺なのだ。なんだか言葉がおかしいが、とにかく俺が雪葉で雪葉が俺で……
いやいや、落ち着け俺。頭がパニックになっていて考えが上手くまとまらない。とにかくまず最初に叫んでみよう。叫んで少し気を落ち着かせるのだ。うんそうだ、そうしよう
「すぅうう……っ、わ」
きゃぁああーっ
わーっと叫ぶ前に、下の階から悲鳴が聞こえた。それは衣を裂いたような……ものではなく、むしろマンドゴラ? そんな感じの野太い悲鳴だった
「な、なんだ?」
出鼻を挫かれた感じだが逆に落ち着く事ができ、俺は部屋のドアを半分開けて様子を窺う。すると秋姉が珍しく慌てた声で俺の名前を呼んでいるのが聞こえてきた
「どうしたの恭介!?」
「な、なんでお兄ちゃんが……わ、私はどこ?」
「恭介? ……入っても平気?」
「う、うん……あ、待って! 今は入らないで、大丈夫だから!!」
「……ん。何かあったら直ぐに声を掛けてね」
「うん……。ごめんなさい」
そんな会話があった後、襖が閉まる音がして辺りは静かになる。どうやら秋姉は部屋に戻ったらしい
「……なるほど」
尺の都合上、短い会話で全てを理解してしまった。要は俺と雪葉が入れ替わったって話だな
「ははは、そりゃいいわ。あははは……はぁ!?」
なんだそりゃ! そんなことがある訳がないだろ!? これは夢か、あるいは日々の奴隷生活によって俺の精神が壊れてしまったか……。よし、まずはとりあえず寝よう!
ベッドに乗り、ふわっと桃のような香りがする枕に顔をうずめて目を閉じる。起きた時には全て元通りっと……って
「寝られるか!」
目がギンギンに冴えておるわ!!
「いやしかし、しかしいやそんなしかしだがしかし」
ぶつぶつ呟きながら部屋の中をグルグル回る。それを何分かやっても全然落ち着かない。なら
「行ってみるか」
行くのは下の階。もし俺の予想が合っていたら、めちゃくちゃ恐ろしいが俺じゃない俺がいるはず。そしてそれは多分……
「あああ〜、こぇえ〜」
行きたくねー。会いたくねー
だが、もし予想通りならアイツは俺より遥かにショックを受けてるはずだ
「……ふっ!」
腹に気合いを入れて部屋を出る。そのまま階段を降り、俺の部屋の前へ
「…………」
ドアをノックしようとした手が途中で止まる。足は震え、喉はカラカラだ
落ち着け、大丈夫だ大丈夫だ
「んく……ふぅう。よし」
コンコン。息をのんでドアを軽く叩く。しばし待つと、中から元気のない声が返ってきた
「……はい」
「雪葉か? 俺だ」
「お、お兄ちゃん!? あ、でも声が……」
「多分お前もそうだろうからはっきり言うぞ。俺は今、雪葉になっている」
はっきり言っても意味が分からんな
「え!? ど、ドアを開けるね!」
慌てた声とは裏腹にそっと開けられたドア。その隙間から、どっかで見たことある兄ちゃんと目が合った
「…………」
「…………」
どっかで見たことある兄ちゃんは口をポカンと開け、そのまま膝から崩れ落ちる
そして俺もあまりのショックに一瞬意識がぶっ飛び、よろめいてしまう
「おに……い?」
「ゆ、雪葉だな?」
「あ……お、お兄ちゃん、お兄ちゃ〜ん!」
「ぐえ!?」
部屋から飛び出して来た兄ちゃんに、体を思い切り抱き締められた、900のダメージ!
「ど、どうしようお兄ちゃん!? 雪葉、お兄ちゃんになっちゃったよ〜」
「く、苦し……し、死ぬ、はなれ」
「お兄ちゃ〜ん!!」
「は、はなれ…………て」
花が、お花畑が見える。川の向こうで手を振ってるのは親父か? お〜い親父〜正月には帰ってこいよ〜
「……お兄ちゃん? お、お兄ちゃん!?」
「あははへへへ、お花畑お花畑〜」
「お兄ちゃんが白眼を剥いてお花畑に!?」
「待て〜親父〜」
「あああ、どうしよう!? ええと、ええと……えい!」
「ごふ!?」
みぞおちに必殺の一撃!
「お、おおぉ……コ、ココハ?」
「ここはお兄ちゃんのお部屋の前。……ごめんなさい、お兄ちゃん」
「あ、ああ……。ハァ」
ため息をつくと、雪葉もガックリと肩を落とした
「マジに入れ替わったんだな、俺達」
なんか違和感があるけど、目の前に居るのは紛れもなく俺だ
「うん……どうしよう」
ウルウルした目で尋ねられたが答えようがない。てか不気味だ
「どうしようったってな……どうするべ」
いっそ気を失いたいほどのショックだが雪葉の前だ、しっかりしなくては
「とにかく落ち着かなきゃな。部屋に入ってもいいか?」
「う、うん……。やっぱりお兄ちゃんは凄いなぁ」
「ん?」
「ううん、なんでもない。どうぞ入って、お兄ちゃんのお部屋だけど」
「ああ」
雪葉に通され、見慣れた部屋に入る。そしてベッドに腰を下ろして頬杖をついた
「お兄ちゃん。あぐらは……」
「え? ああ、ごめんごめん」
雪葉の体だもんな。俺は両膝を立てて、体育座りの形にする
「これで良いか?」
「ありがとうお兄ちゃん」
雪葉は床に正座で座り、じっと俺を見つめた
「どした?」
「……なんだか自分じゃないみたい」
「ああ、それは俺も思った。どこがってんじゃないけど、何かいつもより優しげなんだよな俺の顔」
これならモテるかもしれん
「同じ顔の筈なのになんだか不思議」
「そうだな。ま、一番不思議ないのは何で俺と雪葉が入れ替わったのか、だけどな」
「うん。ドラマだと頭をぶつけた時にって言うのがあったけど、雪葉達はぶつけてないもんね」
「ああ。てゆーか入れ替わったのがまだ信じられないよ。どうだ? 俺の体は」
「え!? え、ええと……大きいなって思う。それになんだか力強いかも」
照れたように言い、お兄ちゃんはと上目遣いで聞いてくる。かなり不気味だ
「う〜ん、やっぱり小さいな景色が全然違って見える。それとなんか体が軽いぞ、思わずスキップしそうだ」
「ふぅん」
雪葉は頷きながら、足をモゾモゾとさせた
「どうした?」
「う、うん。なんだか落ち着かなくて。なんだろ?」
モゾモゾ、モゾモゾ
「…………もしかしてずれてないか?」
アレが
「??」
「真ん中のが」
「真ん中? ……っ!?」
アレに思い当たったらしく、雪葉の顔がってか俺の顔だけど真っ赤になった。紛らわしいな
「お兄ちゃんのばかぁ!!」
「お、落ち着けって。仕方ないんだよ、雪葉はいま男なんだからさ」
「で、でも」
「こんな異常な状態なんだ、いつ戻るのかも分からない。ならせめて落ち着いていこうぜ?」
「…………はい」
「うん。でだ、真ん中のは手で調整すればいいから」
ベストポジションってのがあるのだ
「そんなこと出来ないよ〜」
「そうか? こうチャチャって」
「うぅ〜。お兄ちゃんがやってよぉ」
「え? ま、まあいいけどさ」
俺は雪葉の左隣に座り、おもむろにズボンの中に手を突っ込んで……
「絵面がヤバい!」
「え?」
「す、すまん雪葉、俺には無理だ。我慢してくれ」
お前にあんな物を触らせる訳にはいけないのだ
「う、うん。大丈夫、我慢する」
「すまないな……。お前は俺に何か注意しておくことあるか?」
「ん……トイレとか行かないでほしい」
「いや無理だろ」
破裂するわ
「そうだよね……。トイレ行く時は目をつむってねお兄ちゃん」
「ああ。お前の体だ、出来る限りのことはするよ」
「……うん! 入れ替わったのがお兄ちゃんで良かった」
にこにこと可愛らしく笑っているが、やっぱり不気味だ
「ま、今日は学校休んで明日まで様子見だな」
明日も戻ってなかったら仕方ない、母ちゃんに相談しよう。母ちゃんならなんとかしてくれそうな気がする
「駄目だよお兄ちゃん!」
「…………え?」
「雪葉、今日研究発表会の日なの。雪葉が休んじゃったらみんなに迷惑かかっちゃうよ」
「…………え〜と、つまり」
「お兄ちゃん、お願い!」
「…………」
こうして俺達の長い長い1日が始まったのだった